夕焼け空の帰り道。
「ん…うー……」
暑さと少しの揺れで目が覚めた。って、あれ?私いつの間に寝てた?
えっと、シノちゃん達を見送るアルトさんを1人で待ってたらだんだん怖くなってきて。「大丈夫、何もいない、何もいない……」と暗示をかけてたら突然ガタガタ物音が聞こえたらもう我慢できなくなって……あぁっ!私アルトさんの前で悲鳴上げちゃったんだ!…最悪……。
「うわぁー…私絶対変におもわれたぁ……」
「そんな事、全然思ってないけど?」
「へっ?」
今の声で起きたばかりでふわふわしていた意識がはっきりした。
私が感じていた暑さはアルトさんの体温。揺れている感じがするのは私が移動しているから。
そう、アルトさんの背中で……
「何でですか!アルトさぁあああああああん!?」
何で私はアルトさんの背中でぴったりくっついて寝てるんですか!?つまりこの体勢っていわゆる『おんぶ』ですよね!
おかしい、おかしい!絶対おかしい!!
そうだ、これは夢だ!夢に違いない!だってこんな状況有り得ないもん!このアルトさんも夢、じゃなきゃ幻!……であってほしい。
ぎゅぅううう……
「痛い、痛い!ちょっ!リリア?」
「ああぁぁ!夢じゃないいぃぃ!?」
すいません、すいません!夢だと思って抓ったりしてごめんなさい!この状況が受け入れなれなくて夢とか幻とか言っちゃってごめんなさい!
「とにかく下ろしてください!離してくださ…――ひゃうっ!」
ひたすら離れる為にアルトさんの背中をおもいっきり押して手を離したら私の背中がすっごく後ろにそれた。
痛い!超痛い!痣のある背中が曲がれば痛いのは当然です。しかも落ちる落ちる落ちる!いや、100パーセント私のせいですけど…ちょっと待って、このままだと頭から盛大に地面にぶつかる……!?
※
数分後……
「すいませんでした」
「うん、止めようねあれは。危ないから」
助けられました。また助けられてしまいました……まさか落ちそうな状況からあんな事になるなんて、誰も想像出来ないだろう。
詳しくは言えないが……いや、言ったら私が世間的に死にそうになるので口が裂けても言わないけど端的にそれでいて簡略化して言うのなら(主に私が)大変な事になったので未だにアルトさんに背負われた状態のままです。
「そうですね、危ないですよね。なのでアルトさん、下ろしてください」
「大丈夫、下ろす気はないから」
「はぃいい!?」
なぜ!?
そんなうっかり普通じゃなくて快速に乗っちゃった電車じゃないんですから。途中下車を希望!こんな恥ずかしい状態から解放させてー!
「なんなら抱き上げ運んでもいいけど」
「抱きっ……!?」
それってつまりは『抱っこ』の事じゃないですか!拒否、拒否!断固拒否!長官さんとは違うんですから、長官さんはどちらかと言うと担いでいましたが……とにかくそんな事になるなら今のままでい……いやいや、騙されちゃ駄目だ!このままじゃなくても下ろしてもらえばいいんだから!うっかり話の流れに乗っちゃってチャンスを失う所だった。
「てか、リリア本当は下りても歩けないでしょ」
「えっ……?な、何言ってるんですかアルトさん?歩くのなんて…余裕ですよ。怪我の痛みなんてとっくに…ひ、引いてますから……」
「頑張りのカケラもないね……」
頑張りましたよ、頑張った結果がこれですよ。私だってこの性格をどうにかしたいです、全くどうにか出来てないですけど。
とりあえず、下りる事は諦めました。アルトさんの言うとおり下ろしてもらっても歩けないのは事実ですし、一応もう夕方で人目もない。
けど、さっき寝てしまっていた時とは違ってぴったりくっつくのは止めて腕を真っ直ぐ伸ばして少し離れている。
「……アルトさん」
「なに?」
「…ぁ……いえ、やっぱりいいです」
苦笑いを浮かべて、直ぐに言うのを止めた。
言ったらきっと、そんな事は無いってアルトさんは怒るから。なにより私が言えない、言える訳がない。
だからさっきの言葉を私は心の中で小さく呟いた。
『本当は凄く怖かった。だから何も出来なくて、頑張るって決めたのに……弱くて…ごめんなさい』
悔しい、悔しい、悔しくてたまらない。何も出来ない自分が嫌でどうにかしようとしてもまた駄目だった。
……つらいよ……弱い事がつらい。
今の自分の顔を見られるのが嫌で私はアルトさんの背中に隠れた。
「……」
しばらくの間そうしていると、アルトさんの片手が離れてそこに持っていたなにかをフードを被ったままの私の頭にぽんと置かれた。
最初は何か分からずに焦っていたけど、それを手にとってよく見てみると何なのかが直ぐに分かった。
それは少し大きめの帽子だった。藍色の生地で出来ていて、特に飾りなどは無く、全体的に丸い形で前の所に鍔のついたキャップだ。
「えっ?えっ?」
これが何かはよく分かった。けどなんでアルトさんが今この帽子を私に被せたのか分からない。そもそも、アルトさん帽子なんて持ってなかったよね?
「えっと、これは……?」
「被れる?」
「は、はい。かぶれますけど……」
ちょっと大きめな帽子だから髪どころか目元まで深く被れる。目元……?
「……この帽子って」
「そのフード……」
「フード?」
「取りなよ。暑いし、なにより見えないから」
そう言って、笑いかけたアルトさんは私がフードを取って帽子を深く被ると直ぐにまた前を向いて歩き続けた。
アルトさん、その見えないは私の見ている景色が?それとも私?……どっちですか?
「で?さっき何言うつもりだったの?」
「……秘密です」
あの言葉は私の中にずっと置いておこう、この気持ちを忘れないように。
悔しくてつらくて、まだまだ弱いけど。絶対諦めないですからね、強くなります強がりは止めます。次は私も何かを守れる位強くなりますからねアルトさん。
※
「……本当に治ってる」
一体どんな材料を使って作った薬ならこうなるんですか。1日ですよ?正確には半日死んだように眠り続けただけですよ?……治ったはいいけど色んな意味で不安は治ってない気がする。
「で?なにこの大量のぬいぐるみは?」
「ルウちゃん様がリリアが寂しくないようにだって」
「ここまで大量だと若干ホラーだよ」
しかも2割が西洋人形な当たりが恐怖を増加させるんだけど……
「まぁ、リリアが起きたならそろそろやって来るんじゃない?」
「それもそうだね……ミキはずっといたの?」
「フレア4リリア6の割合で」
「ごめん、聞いた私がバカだった」
ちゃんとストーカー行為はこなしてるんだね。割合の中に仕事という項目が一切入っていないのもどうかと思うけど……
「とにかく、もう痛くもないし。起きたならまずはルウちゃん達の所にでも行こうかな」
私は寝てたベッドから立ち上がると扉を開けて長い廊下に出る。私の後ろからはミキがついてきて開けた扉を閉めた。
ドンッ……
「あっ……ごめん、大丈夫?ルウちゃ……」
私のお腹の当たりにぶつかったルウちゃんから離れてその様子を見た。
しかしその子はルウちゃんではなかった。白い髪をりぼんで2つに軽くまとめて、その頭の上には黄色羊のような角がある。赤い瞳で真っ直ぐ私を見つめる少女。
「シノちゃん!?」
「え、えっと…これからよろしくお願いします。ご主人様」
…………はい?




