16 なんだかんだで学生生活を楽しむ
鐘が鳴り、身代わり生活1日目の午後の授業が終わった。社会学の小論文で注目されてしまった美波に、生徒らが話かけようとする。美波はそれを察知し、急いで荷物をカバンに詰め教室を飛び出した。
校門まで小走りで向かい、そこでルークが待っていることを確認して、ストーカー男を釣るため一緒には歩かずに周囲を警戒しながら屋敷へと戻った。
美波は数メートル後ろを歩いていたルークが帰るのを玄関で待ってから、2人はマーガレットの部屋を訪れた。
今日は男が現れなかったことを伝えてから、今日の授業内容を話し、取っておいたノートを渡す。
「あと、1つ謝らなければならないことが……」
美波が申し訳なさそうに数枚の用紙を差し出す。
「社会学の小論文ね。あの先生たまに無茶なテーマで書かせるのよ。書けなくても問題ないわ」
マーガレットが中身に目を通す。そして目を見開きハッと美波の方を振り返った。
「ミナミ……あなた天才じゃなくて!? 皆様ここに天才がいますわ! 王城文官の試験、国試を受けても通りますわよ。次の国王陛下の側近に決定ですわ! ルークも読んでみてちょうだい!」
「……ミナミ、お前ほんとに何者だ?」
マーガレットから手渡され、文章を読んだルークが半目で美波を見る。
(その次期国王は私ですって言っても、ルークもマーガレットも驚きはしても一線引かれることはない気がする。関係性がヘンなふうに変わることもないと思う。だけどまだ、もう少しだけ『ただの冒険者の海部美波』でいたい)
「ちょっと勉強したことがある、ただの冒険者ですよ」
ニッと笑ってすっとぼけた。
◇
身代わり登校1日目はストーカー男は現れず、身代わり生活2日目に突入した。
本日の授業は古代アラミサル語と文学の授業である。
美波が教室に入ってすぐ、マークとヘレンも登校してきたが、昨日からマーガレット(美波)が喋れないことを知っているので軽く挨拶を交わしたあとは放っておいてくれた。
美波は助かったと思いつつ、教室の後ろから生徒らを観察する。
授業の予習らしきことをする者、数人で楽しそうに話す者など自由に過ごしている。
近くにいたグループの会話に聞き耳を立てると、学院の近くにいい感じのカフェができたらしい、もう一つのグループは流行りの小説について熱く語っている。内容を察するに、冒険者が異世界転生して歌って踊るアイドルになる話らしい。
(いや、どんな話なの? 面白いの? 異世界仲間としては気になるけど)
授業が始まるまで思い思いに過ごしている。
懐かしいな、と美波は自分の高校時代を思い出す。毎日同じ友達と飽きもせず昨日見たドラマやマンガの話、ゲームの話など話題が尽きることがなかった。
今となっては、なぜあんなに喋る内容があったんだろうと疑問に思う。
(何を喋っていたかももう思い出せないけど、楽しかったなぁ)
もう会えない友人を思い出し、鼻の奥がツンとなる。
(しんみりしたってしょうがない! それにしても顔に認識阻害をかけるだけでバレないもんだなぁ。みんなが出来てしまったら悪用されて問題になりそう)
この技術は秘匿しようと心に決めた。
授業が始まり、美波も他の生徒らと同様に教科書を開く。
国王の特殊能力でどんな文字でも難なく読める美波は教科書をペラペラとめくる。
川雪降りて白く
山いよいよ緑茂らんとす
近づきたりし春
過ぎたりし時に涙を注ぎ
自動翻訳が機能した結果、古代アラミサル語がなぜか漢文の書き下し文のように読めた。
(確かに古語っぽいけどさ! 自動翻訳は意訳じゃなくて直訳オンリーなの!?)
特殊能力の新たな一面(?)を知った美波だった。
◇
そして待ちに待った昼食である。授業を受けたくて来ているわけではないが、受ければそれなりに楽しめる美波だが、食堂で食べる昼食を1番の楽しみにしていた。
初日に知ったが、食堂が豪華なのである。
まず、入口でお金を支払い中に入る。食堂はお洒落なカフェのような内装で仕組みはバイキングのようになっている。中央にさまざまな料理が置いてあり、偏食でも食欲がない日でも食べたいものがきっと見つかるラインナップだ。
今日はカレーの気分だった美波は(アラミサルには似たような国があるのか過去の国王の影響か和食も中華もカレーもある)ナンで食べるインドカレーを選んだ。
季節は夏だが日本ほど暑さが厳しくないため、屋外の席に座る。誰かに話しかけられるのを避けるためでもある。
(おっおいしすぎる〜〜!!!)
もっちもちのナンに絶妙な辛さのチキンバターカレーが口に中に広がる。美波は幸せの味に浸り、無心で口に運んだ。
そこに、その幸せを引き裂く気の強そうな女性の声が響いた。




