最終章
その日、村長の家から火が出た。村はずれの移住者の家から娘を1人連れ帰った直後のことだ。
火はどうやっても消せず、村長の家の全てを燃やし尽くしたのち、ようやくおさまった。
焼け跡には移住者の娘の遺体はなく、村では村長は森の怒りに触れたのだと噂になった。
それからしばらくの間、森に入るとときおり娘の笑い声が聞こえると話す者がいたが、それも村が無くなり、森がさらに広がってからはしだいに忘れられていった。
『僕はアカゲって言うんだ。君の事はずっと知ってたよ。ここにいたい? それとも僕と一緒にくる? でも僕と一緒にきたら、君は人間をやめなきゃいけない。もう家族とも会えないけど、どうする?』
村長により、今日から妾にするのだと連れて来られた少女は、閉じ込められた部屋の中に突然あらわれた少年に驚き、目を見開いた。
少年の周囲には小さな光が無数に飛び交っている。
『ごめんね、あんまり時間がないんだ。あの男がもうすぐやってくる。どうする? どうしたい?』
父親よりも年上の男に、まだ成人してもいないのに妾だと言って連れてこられ、家族のためにと耐えていたが、何度も殴られた恐怖で気も狂わんばかりだった少女は、一も二もなく少年の手を取った。
そのとき、ふわりと薫った甘い匂いに、いつも届く木の実や果物の事を思い出す。
『もしかして、いつもポケットに……』
少年は嬉しそうに笑って、そして部屋の中から2人の姿は消えた。
くすくす、キャッキャッ、という小さなたくさんの笑い声を後に残して。