第22話 課題の達成条件
第22話~課題の達成条件~
オリエンテーリングが始まって一時間が経過した。その間大森林の中へと踏み入っていたレイン達だったが、すでに魔物と何度か戦闘行為を行っていた。
「リカルド!そっちへ行ったわ!!」
「わかってる!パメラ!攪乱してくれ!!」
「は、はい!!」
即席のパーティー。ろくにお互いの実力もわからず、使える魔術や得物の習熟度もよくわからない。もちろん事前に教えられる範囲でお互いの特技などは教え合っていたレイン達だったが、それでもここまでやれるとはレインは正直なところ思っていなかった。
これまで相対した魔物はフォレストウルフとキラーバット。いずれも森を中心に生息する弱い部類の魔物だ。
フォレストウルフはその名の通り狼型の魔物であり、通常数匹の群れで行動をする。連携した多角的な攻撃を得意とし、獲物をしとめる魔物だが、いかんせん相手が悪かった。
「氷結」
前衛としてフォレストウルフに対峙したシャーロットは、散開しようとする敵に対し魔術を行使する。
氷属性の魔術である氷結。大本は水属性の魔術だが、そこから派生された氷属性の魔術は、その初歩たる氷結であっても強力だ。シャーロットから放たれた魔術がフォレストウルフ達の足を凍らせその機動力を奪う。そうなってしまえば後はシャーロットの独壇場。
動けなくなったフォレストウルフ達を仕留めるのに、十秒もかからないという完璧な戦闘だった。
だがその攻撃をシャーロットが安心して行うことが出来ているのは、後衛として殿を務めるリカルドと、そのサポートをするパメラが思ったよりもずっと優秀だったからに他ならない。
フォレストウルフとの戦闘音を聞きつけ、どこからともなく現れた通常の蝙蝠よりもはるかに大きな体を持ったキラーバットがおよそ五匹。攻撃が強かったりと言った特徴はないが、空中を自在に飛び回る様は戦闘に不慣れな者にとってはそれだけで脅威。実際、空から襲い来るキラーバットに対処できず、全身の血を吸われて絶命した魔術師は後を絶たないと言われている。
だがリカルドとパメラ、この二人がそういった魔術師と同じ結末を辿ることはない。
「疾ッ!」
いち早くキラーバットの襲来に気付いたリカルドは、背に背負っていた弓を素早く構えると矢をつがえ、一気にそれを引き放つ。
まだ攻撃の射程に入っていないキラーバットは、リカルドのその矢により瞬く間に絶命。二本、三本と続けざまに放たれた新たな矢によって、キラーバットたちは残り二匹までその数を減らすこととなった。
「パメラ!」
「はい!風の盾!!」
しかし残りの二匹がついに二人に近接しようとしたのだが、それをパメラが許さない。唱えられたのは風属性の防御魔術。接近するキラーバットと二人の間に突如として現れた風の障壁により、キラーバットたちはその進路を阻まれる。
「疾ッ!」
風の盾に阻まれ動きを止めるキラーバット。その隙は致命的で、リカルドの矢が残り二匹を仕留めるのもこれまた一瞬。
即席、しかもA組とF組の混成パーティーだったはずなのだがきっちりとお互いの役割を分担し、これまでの魔物との戦闘を難なくこなしていたのだった。
「二人ともやるわね」
数度の戦いを終え、辺りに魔物の気配が無くなったことを確認したシャーロットがそう言う。おそらくシャーロットは二人がここまで戦えるとは思っていなかったのだろう。実際このオリエンテーリングで初めて魔物と相対する新入生というのは多く、半数はこの行事が終わった後には怪我を負っていることが多いのだ。
しかしシャーロットは言わずもがな、魔弓師としての実力の高いリカルドは次々と魔物を倒していく。さらにパメラだが、風属性の魔術による防御や攻撃もさることながら、その特性が大いに戦闘に貢献していた。
魔奏師。楽器を武器として扱い、魔力をのせた演奏は味方の能力を引き上げる力を持った魔術師の中でも稀有なスタイルだ。
フルートという横笛を演奏するパメラの魔術がシャーロットとリカルドに届くと共に、二人の身体能力が一気に向上する。
「これは、いいわねっ!!」
あらたに現れたフォレストウルフを、今度は魔術を使うことなくシャーロットが一閃。
「まったくだ!狙いがつけやすくて助かる!!」
リカルドもまた、飛来したキラーバットをきっちりその頭を打ち抜くという離れ業をやってのけていた。
二人の攻撃部隊と一人の補助部隊。三人よって魔物が次々と駆逐されていく中、レインはと言えばこれまで戦闘の一切に参加してはいなかった。というよりも参加する必要がなかったのだ。
レインがパーティーで位置しているのは中衛であり、言ってしまえば遊撃のような役割だ。だがレインが戦闘に出る前にシャーロットとリカルドが魔物を倒してしまうのだから、そもそもレインの出番などあるわけがない。
しかしそれは戦闘においてはいいことだ。少ない人数で戦闘を終えることが出来るのであれば、戦わない者は体力を温存できる。それは長期の戦闘においては非常に有益であり、むしろ歓迎するべきことと言えるだろう。
そんな順調なレイン達ではあったが、レインにはひとつ気になることがあった。
誰かに見られている。
森に入ってしばらくしてからレイン達を監視する誰かがいる。それを敏感に感じ取っていたレインは、他の三人の戦闘を気に掛けながらもその何者かの視線に注意を向けていた。
思い出すのはシルフィの言葉。帝国のスパイがいるかもしれない可能性。再び頭をもたげたその可能性にレインはこの行事における警戒度を一段引き上げることにした。
「あの、リカルド君。ところで課題のピクテ草ってどこにあるのかな?」
「そうだな。事前に集めといた情報じゃ、森の外周と中腹の境くらいにあるって話だな」
「あら、ということは私たちの課題ってあんまり運良くない課題ってことかしら?」
「多分な。報告は少ないが、境目まで行くと中腹の魔物が出てくる場合もあるって話だ。少なくとも楽な課題じゃないだろう」
戦闘も一段落し、レイン達が再び隊列を建て直したところでパメラがリカルドに聞いたのは、今回レイン達に与えられた課題の内容のありかだ。
ピクテ草。それは状態回復薬の材料となる薬草であり、ハンターの間ではもちろんのこと、その効果から貴族や王族にとっても重宝される薬草だ。
状態異常は主に魔物から付与されることが多く、その効果は多岐に渡る。代表的なところでは毒や麻痺、眠りなどがあり、混乱、火傷、凍傷など、もしその状態に陥ればあまりいい結果とはならないだろう。それらを治すには、僧侶による浄化の魔術を行使するか状態回復薬を使用するほかなく、それゆえその需要は高い。
今回レイン達の課題になったその材料たるピクテ草は、学院の保有する大森林でも中腹に自生する薬草だ。新入生のオリエンテーリングは基本的に森の外周部で行われ、ピクテ草の自生域まで行くことはないのだが、それでも外周部と中腹の境界部には育つことがある。
それを採取すると言うことは、森を他の学生よりも深く入らなければいけないということであり、課題のレベルとしては高いと言わざるをえない。
しかも問題はまだある。リカルドの言う中腹の魔物の出現だ。基本的に外周部には弱い魔物であるフォレストウルフやキラーバットなどが主となるが、中腹の魔物はそれらの魔物とは一線を画す。
その危険をかいくぐり課題をこなす。なかなか厳しいものがあると、シャーロット達は気持ちを引き締め直した。
「行きましょう」
シャーロットの言葉でさらに森を分け入るレイン達。そしてそれにつかず離れない距離でついてくる何者か。
レインはその何者かに警戒しつつ、森の中なら何が起こってもわからないよな、などと三人に気付かれないように非常に黒い考えをはりめぐらせていたのだった。
リカルド、パメラの能力が少し明らかになった今回のお話はいかがだったでしょうか?この先もいろんな魔術師のスタイルが出てきますのでどうぞお楽しみに。
三日ごとの更新でお届けする予定ですので、また次回も読みに来てください。
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