第20話 チームの結成
第20話~チームの結成~
翌日からオリエンテーリングに向けて、パーティーの最後の一人を探すレイン達であったが、その成果ははっきり言って芳しくなかった。
「ダメだな。やっぱりすでにグループ内でパーティーを作ってるみたいで取りつく島もねぇ。そっちはどうだった?」
「私もいろいろ他の女の子に聞いたんだけど、無視されちゃって……」
「俺も同じだ。勧誘どころか話をする機会すらない。どうにも他のクラスメイトは俺達のことを快く思っていないらしいな」
再び夜の談話室で今日の成果を報告し合うレイン達だったが、三人の口から出た言葉は全て同じようなものだった。
リカルドの言う通り、確かにもとあった仲間内でパーティーを組んでしまうことは多いが、それでも人員に必ず余りは出る。本来であればそういった人たちが寄り集まり、即席のパーティーを組むのであるが、レイン達はあらかじめそこから排除されてしまっていたのだ。
まずF組という時点で他のクラスからは敬遠される。これはF組が落ちこぼれといわれている時点で仕方がないことなのだが、それでも露骨にF組なんかと、と言われてしまえば、流石にいい気持にはならない。ちなみにパメラは無謀にもE組の女生徒に勧誘に行ってしまい、そのメンタルに少なくないダメージを受けてしょげていた。どうにも人の顔と名前を覚えきれていないらしく、F組の生徒だと思って話しかけてしまったパメラの完全なチョンボだったので、レインとリカルドはそこに深く突っ込むことはしなかった。
他にも要因はある。例えばリカルドだが、そのいかにもやんちゃしてますといった風体のせいで、多数の生徒が避けて行ってしまうのだ。貴族というのは基本的には箱入りなことが多く、リカルドのような容姿は煙たがられる。その結果避けられる事態になったようだが、どうやらリカルドが避けられるのはそれ以外の理由もあるようだった。
アーチス家。リカルドの家に関することで、あまりよくない噂をレインは聞いていた。聞いていたが、それをリカルドに直接聞くようなことはしない。話す気があればそのうち話すだろうし、何よりリカルドはリカルドだ。だからこそ、その家の事情など、レインはきにする必要はないと判断したのだ。
他にはパメラも避けられたようで、どうやら先日のドリントの一件が未だに尾を引いているらしかった。どこをどう見てもパメラに非はないのだが、周囲の目はそうは見ない。伯爵家の子息の誘いを無下に断った女。それが今のパメラに貼られたレッテルなのだ。
貴族は家柄を重要視する生き物であり、貴族の家に生まれたのであれば、例外なく上を目指す。男爵家の生まれであるパメラが、伯爵家の子息に誘われたということは、うまくいけば伯爵家に縁が出来るということだ。それすなわち下級貴族にとっては願ってもないことであり、そのためなら自身をささげることくらい厭わない。それが貴族であると信じる生徒は多い。
ゆえにそれを突っぱねたパメラは他の貴族から異端の目で見られており、レインにはまったく理解できないが、リカルドと同じように避けられてしまった原因だった。
そして最後、一番大きな要因となっているのはレイン本人だった。魔術の才能はなく貴族でもない。加えて伯爵家の子息と揉め事を起こしたかと思えば、公爵家の令嬢であるシャーロット・フリューゲルへ尊大な態度をとる。どう考えても関わりたい生徒がいるはずもなく、リカルドやパメラの理由などよりも、そこにレインがいるからという理由で断る生徒が大半だったのだ。
「どうする?このままメンバーを探しても結果は同じだと思うが、何かいい案はあるか?」
「いっそこのまま三人で行くのはどうなんだ?減点はされるんだろうが、その分は課題で取り戻せばいいんじゃないか?」
「それは甘いぞレイン。無論、それができるなら越したことはないが、パーティーメンバー不足に対するペナルティは課題の達成点数よりよっぽど重いんだよ」
リカルドが告げたのはあまりに残酷な事実だった。過去にレイン達と同じく、パーティーメンバーを集めることが出来なかった生徒がいたらしい。その状態でも課題に臨むことは出来たらしいが、人数の不足が響き結果は散々。同じように課題がこなせなかった生徒もいたのだが、その生徒たちは人数不足の減点が響き次の学年に進級することはできなかったそうだ。
「ただでさえ俺達はF組。進級が難しいクラスにも関わらず大きな減点はまずい」
「でもどうするの?この状態じゃ、私たちがどれだけ頑張ってもメンバーなんて集まらないんじゃ……」
リカルドの宣告にパメラが表情を曇らせた。それもそのはずで、レインにとっての学院での生活はどこまで行ってもシルフィのおかげで通えているに過ぎないのだ。もともとリーツでハンターとして生きていくつもりだったレインにとって、退学になったところで困ることはそこまでない。もっとも、せっかく再会できたシルフィと離れることになるのは心苦しいが、それでも大きく困ることはないのだ。
だがリカルドとパメラは違う。出会ってそこまで時間の経っていない二人の事情を深くは知らないが、それでも一般の貴族になぞらえて考えれば、二人がルミエール魔術学院を退学になるのは非常にまずいことだと思う。
経歴に傷がつき、将来に暗雲が立ち込める。せっかくできた二人の友人がそんなことになるのは出来れば避けたいと思うレインは、どうにか残りのメンバーを集めるための妙案を考えるが、そう簡単にいい案など出るわけがない。
もういっそのことレイン自身が二人から離れればいいのではと、その言葉がのどまで出かけたところで予想外の声がレイン達にかけられた。
「もしよければ、私をメンバーにいれてくれるかしら?」
その声に振り返った先にいたのは、つい先日、レインとひと悶着のあった女生徒、公爵令嬢であるシャーロット・フリューゲルその人だったのだ。
「オリエンテーリングのパーティーの席、まだ一つ空いているんでしょう?なら私をそこに入れてくれないかと思ったんだけど、ダメかしら?」
場違い。今のシャーロットを形容するならこの言葉が一番ふさわしいのではないだろうか。シャーロットがこちらへ近づいていることはレインはもちろん気づいていたが、まさか話しかけてくることはないだろうとあえて放置していたのだ。
原因が多岐に渡るとはいえ、レイン達がパーティーを組みにくくなっている原因の一端。それがこのシャーロット・フリューゲルであるのだから、まさかその原因の方から接触を、しかもパーティーへの加入要請があろうなど、誰が予想できるというのか。
「何を企んでいる」
だからこそ、レインの口からこう本音が漏れたとしておかしことなど一つもない。リカルドやパメラですら、驚きに声が出ないということがなければ、きっと似たようなことを言っていただろう。それほどに異質。それがシャーロットのしていることなのだ。
「別に何も企んでなんかいないわ。ただ私もパーティーからあぶれてしまったのよ。そしたらちょうど顔見知りで、かつ枠が一つ空いているあなた達を見つけたの。声をかけるのは普通じゃない?」
そう言うシャーロットだったが、リカルドとパメラは思う。断じて普通ではないと。
何度も言うが、シャーロットはA組のトップクラスの実力を持ち、しかも公爵という、王族に次ぐ立場の持ち主だ。普通なら同じ学院に通っている事実だけで栄誉で、話すこともままならない存在なのだ。そんな存在があろうことか下級貴族であるリカルドとパメラ、極め付きは貴族でもないレインのいるパーティーに入ろうというのだ。それがどれほどおかしなことで、成立した際に自分たちがどれほどの奇異と侮蔑の目に苛まれるかなど予想するまでもないこと。
「いや、フリューゲル様、それはあ、ありにも……」
「あら、様なんてつけなくていいわ。これからパーティーを組むのにそんな他人行儀な態度はお互いに無益でしかないもの」
なんとかお引き取り願おうと思うリカルドだったが、すでに加入が決定となっている言動でもってそれを制したシャーロットにさらに慌てることとなる。
すでに周囲の人たちはこの異常な光景に気付いており、これ以上この場が続けば仮にパーティー加入が見送られても自分たちが被る被害は大きなものになる。それを予想してか、すでにパメラは抜け殻のようになっていて援軍は期待できない。もう一人の友人であるレインはと言えば、必死に打開策を講じるリカルドの気持ちなど露知らず、さらに深みにはまる言葉を放ってしまう。
「確かに俺達は最後の一人を探していた。シャーロットの加入もやぶさかではないが、なぜお前があぶれる?A組なんだからそれこそ引く手あまたじゃないのか?」
名前を呼び捨て、お前呼び。どちらも学院じゃなければ即極刑でもおかしくはないほどの不敬罪。すでにパメラは顔面蒼白。リカルドも逃げ出したい足を必死に抑えている状況だが、当事者であるシャーロットはそれを気にした様子もなくレインの質問ににこやかに答える。
「否定はしないわ。いろんな人が是非パーティーをって言ってきたのだけど、あまりもそれが多くて決めきれなかったのよ。そのうちにいつの間にか入るところが無くなってしまっていて、気づいたら一人だったってわけね」
「なるほどな」
何がなるほどだ!とリカルドは心で叫ぶがレインにそれは届かない。レインは知る由もないが、シャーロットほどの立場にいる人間が一人になるなんてまずありえない。仮にパーティーが結成されていたとしても、誰かを外してでもシャーロットを引き入れる。それほどの価値がシャーロットにはあるのだ。
それに先日の騒動の時にシャーロットに付き従っていた従者、アンリ・ミニスターがこんな状況を許すはずがない。にも関わらずこうなっているということは、どう考えてもそこには何かしらの策謀しかないのだ。
「それで、私を入れてくれるのかしら?」
改めてそう言うシャーロットにレインは思案した。レインとて、シャーロットの要望がおかしいことだとは十分に理解している。だがそれでも迷うのは、自分のせいで友人である二人に迷惑がかかっているということだ。ここでシャーロットを拒否するのは簡単だが、それではオリエンテーリングで減点となる可能性が非常に高い。それだけはなんとしてでも避けたいレインにとって、シャーロットを拒否するわけにはいかないのだ。
だがそんなレインとは対照的にリカルドとパメラは、仮に退学になってもシャーロットとは一緒のパーティーにはなりたくないと思っているのだが、その胸中は一切レインに伝わることはない。もしここでシャーロットとパーティーを組めば、一体自分たちの精神はどれだけ削られてしまうのか。だがそれを口には出来ない。立場的に。
戦々恐々と見守るリカルドとパメラだったが、レインはついに最悪な決断を口にする。主に二人にとって。
「仕方ない。他の選択肢もないし、シャーロットがいいならよろしく頼む」
「ええ、しっかりと働いて見せるから期待しておいて」
そう言って握手を交わすレインとシャーロットを見ながら、リカルドとパメラの心はシンクロした。
終わった。
明日からの学院生活を思いながら、二人は一様に遠くを見ることしか出来ないのであった。
◇
パーティーへの加入を無事に済ませた女生徒、シャーロット・フリューゲルは自らの部屋に戻りながら怪しい笑みを浮かべる。
「ふふ、ふふふふふふ」
その顔は笑みというよりは破顔に近く、もはやシャーロットを知る者がそれを見れば、いつもとのギャップに恐れおののくくらいにシャーロットは上機嫌だった。
「へへへ、これで仲良くなれるかな」
リカルドとパメラの精神ゲージをことごとく奪ったシャーロットの目的が、まさかこんなことだなんて知ったら二人はどう思うだろうか。
「楽しみね」
軽くスキップまでし始めたシャーロットはまた笑いを浮かべて自室の扉を開けた。
シャーロット・フリューゲル。数多の勧誘を切り捨て、従者の懇願を実力行使で退けてでもレイン達のパーティーへ加入した理由はただ一つ。
「レイン、私はあなたと仲良くなって見せるわ!!」
たった一人、レイン・ヒューエトスという生徒と仲良くなりたいという思いだけ。
それを達成するための足掛かりをつかんだシャーロットは満足げにベッドへとダイブしまた笑う。
別の部屋ではレインがとりあえず最悪の状況を脱したことにほっと溜息を吐いていた。
そんな二人に振り回されるリカルドとパメラは、その夜からしばらく、胃痛に悩まされることになったのはもはや言うまでもない。
表ではすごく冷静そうに見えますが、シャーロットさん。裏ではただの年頃の女の子です。今後のシャーロットさんのはっちゃけ具合を是非楽しみにして頂けたらと思います。
三日ごとの更新でお届けする予定ですので、また次回も読みに来てください。
ブックマーク、評価の方して頂けると作者が泣いて喜びます。長く続く作品にしたいと思いますので、お手数ではありますがぜひよろしくお願いいたします。
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