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花咲くとき、騎士は請う  作者: 久浪
『番外』編
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これから




 いい天気の空の下、庭に出ていると暖かな陽気に包まれる。

 太陽の光で鮮やかになった緑が視界に映しながら、アリアスは丸椅子に座っていた。


「魔法師になる?」


 横に同じく座るクレアが、微かに驚きを表した。

 互いの子どもの話を話している流れ、アリアスは先日の息子の発言からの一連のことを話したのだ。


 彼女が目を戻した前方には、灰色の髪をした男の子と、深い色味の茶の髪と目をした女の子がいる。

 男の子はルカ、女の子はルーウェンとクレアの子どもで「セシリア」という子だった。ルーウェンよりはクレアと似ている部分が多い子だと思う。歳はルカより一つ下だ。


 結婚したルーウェンとクレアは、ゼロとアリアスの家から遠くない場所に住んでいるのだが、今日はクレアが娘を連れて来ていた。

 親の関係もあって、子どもは生まれたときからの付き合いとなり、男女と性別は違えど大層仲が良い。

 二人の子どもは、母親が見守る前で遊んでいる。いや、遊んでいると言うより、身ぶり手振りを交えて何やら話しているようだ。時折笑い声が聞こえてくる。


「もう、そんな年頃」

「そうみたいです。セシリアはそんなことはないですか?」

「まだ。……言われてみると、セシリアも魔法師になりたいと言う日が来るのかもしれない」


 じっと子どもを見て、クレアは呟いた。


「魔法師も色々だけれど、ゼロ団長のこともあるから、ルカは騎士団に?」

「それがですね……」


 魔法具職人、騎士団、怪我が治せる魔法師……と、経緯を簡単に説明する。


「それは、大変そう」


 一旦アリアスに目を戻したクレアは真面目な顔と声音で、そんな感想を述べた。


「騎士団団員で、治療魔法もそれなりに使えて、魔法具も作ることが出来る魔法師っているんでしょうか?」

「聞いたことは、ない。騎士団で治療魔法を十分に使える魔法師まではいるけれど、そもそも魔法具を作ることが出来る人自体が、限られている」

「そうですよね」


 アリアスも聞いたことがなくて、今までにそうなろうとした人はいるのだろうかと思ったのだが、そうなのである。

 全ては特殊な技術を必要とし、ある意味一番才能を問われる魔法具職人という職の門の狭さからくることだろう。

 騎士団団員などと比べると知られていないという面もある。


 騎士団の団員の中にも治療魔法を十分に使える人がいるが……。

 反対に魔法具を作れる人から考えてみると、師は魔法具を作れて、騎士団所属ではないがそういった面は申し分ないだろうが、治療魔法は使えない……。

 ──あ。


「ルー様は、一番近いかもしれませんね」


 あっ、と思い浮かんだ人は、身近すぎた。

 兄弟子は言わずもがな、騎士団所属。

 さらに幼い頃、ちょっとした傷を治してもらった記憶があるので、治療魔法も使える。

 これまたさらに、ジオに魔法具作りを教わったようでもある。


 クレアは「……確かに」と頷き、次いでぽつりと言う。


「魔法具作りも習得しようと思うと、学園より、弟子入り?」


 現在、魔法師になろうと思えば学園に通うのが主流。

 アリアスも通ったことがあるので分かるが、学園では生徒の意志があれば騎士団志望でも治療魔法の授業を受けることが出来ると思われる。

 アリアスが主には医療科に属しながらも、騎士科の授業に参加していたように。


 けれど、ここでまた関門となるのは特殊な職である。

 魔法具作りに関しては学園ではまだ取り扱っていない。必要とされるその特殊な技術ゆえだ。

 と、すると魔法具職人を志す以上は弟子入りが視野に入ることになるのだ。


「まぁ、まだこれからなので、本人がきちんと決めた頃に一緒に考えたいと思っています」

「そうね」


 どうなるのかなぁ、と感じつつ、やっぱり先のこと。

 けれど、学園であれ、弟子入りであれ、少しばかり親の手から離れてしまう未来がこんなに早くちらついてくるとは思わなかった。

 その時が来たら、できることはしてやりたいと、この前ゼロが言っていたことをアリアスも思った。


「おとうさん」


 聞こえていた子どもの話し声が途切れたかと思うと、そんな言葉が聞こえた。女の子の声、セシリアだ。


 視線を前方に向けると、二人、庭に入って来ようとしている姿があった。

 両方軍服姿で──その片方にセシリアが近寄っていく。

 アリアスとクレアは、現れた二人を迎えるためにほとんど同じタイミングで立ち上がった。


「ルーウェン」


 側に来た子どもを軽々と抱き上げた姿に、クレアが名前を呟くように声にした。

 自らの娘を腕に庭に入ってきたルーウェンはゆるりと微笑む。

 その抱き上げる光景を見ていると、アリアスは何だか懐かしさを感じた。かつては自分があのように抱き上げられていたことを思い出したのだ。


「早めに終わってゼロと会ったから、今日行くと言っていたことを思い出して来たんだ」


 ルーウェンの後からゼロも息子と一緒に歩いてきたことで、家の中に入って皆でお茶にすることにした。


 元々の関係もあって、結婚後、さらに両方に子どもが生まれた後も、こうして時折会う。

 アリアス自身は、今では兄弟子に会うよりもクレアと会う方が多い。子どもを連れて今日のようによく会うからだ。


 家の中で大人は主にお茶、子どもは主にお菓子の時間となっているときも、子ども二人は隣同士に座って、お菓子を頬張って笑い合っている。


「そうだ、今日師匠に会ったときにセシリアに魔法力があるのか聞いてきたんだ」


 ふと、ルーウェンが言った。

 兄弟子はゼロからルカの話を聞いたらしい。「俺も知っておきたくなって」と、少し苦笑していた。


「どう、だった?」

「うん、あるみたいだ」


 緊張気味に聞こえたクレアの問いに、微笑んでルーウェンは答えた。


「そう……」


 ほっ、とクレアが安堵の息を吐いたように見えた。

 付け加えられたところによると、この国の王族特有の結界魔法は受け継いでいないようであるとか。外見からして、色彩を受け継いでいないので元々可能性は低かっただろう。

 それにしても、あの師はそんなことまで分かるのか。


「この先、揃って学園に入ることも可能性としてはあるかもしれないんだなー」


 両方の子どもが魔法力があると分かったことにより、将来に出来た可能性の一つ。

 そんな光景を見ることになったなら、また嬉しいのかもしれない。

 どんな道に進んでくれてもいいけれど、これまでと異なった感慨というものがありそうだ。今は想像が出来ないけれど。


「そう考えると、将来セシリアが騎士団に入りたいって言い出す可能性もあるわけだ」

「うん? うん、まあ、そうだな」


 ゼロの指摘に、ルーウェンは娘に視線を向けた。セシリアは、ルカと話しており、両者共大人の話は聞いていないらしい。完全に子どもだけの世界になっていた。


「そうなったら、賛成はするのか?」

「うーん……選びたい道があるなら応援はしてやりたいと思うけどな……」


 ちょっと歯切れが悪い言い方だった。

 危ないと考えているのかもしれない。

 妹弟子であるアリアスが竜に関わることになったときにすら、気を付けるようにと言った彼だ。

 騎士団は怪我がつきものとも言える部分があるし、以前のように戦が起きれば戦場に立って戦う立場であったりする。

 そう考えると、アリアスとしては性別関係なく考えてしまうところが出てきてしまうのだが、女の子であれば、より避けてほしいと思うものなのかもしれない。


「お前は、娘が生まれたらどうするんだ」


 兄弟子が問いを、ゼロにそっくりそのまま返した。一瞬アリアスに目を向けられて、目が合った。

 娘が生まれたら、という言葉に腹に手を当てる。性別は分かっていないから、もちろん次に女の子が生まれる可能性がある。


「……どうだろうな」


 隣から、若干の間が空いてからの言葉が発された。

 その答え方に、アリアスは思わずゼロを見つめた。ゼロは視線に気がついたようで、ちょっと苦笑いを混ぜて笑う。


「男であれ女であれ関係ねえ──って言いたいのは山々だが、さすがに話は別になってくるよな」

「お前でもそうなるんだなー」


 ルーウェンの言葉に思わずアリアスも頷いていると、ゼロは「現実的に考えるとな」と真面目にも言った。

 いくら現実的に考えようと、話的には現時点では全てが不確かで、もしもの未来だ。

 けれど。


「でも、小さな頃からかっこいい姿を見て育つわけですから、憧れてしまうのは無理もないですよ」


 武術大会という場がある。

 あの場での姿は、普段中々見られない姿、雰囲気が混ざる。その姿は間違いなく格好良いと言えるものだろう。

 アリアスだって、昔からのことがあって騎士団にとはならなかったけど、ルーウェンの姿に感嘆した。騎士団に入るのではなくても、兄弟子のような素晴らしい魔法師になりたいと思うことはあった。憧れた。


 アリアスはルカにも、これから生まれてくる子にもゼロの騎士団に属する身としての姿を見せてあげたい。

 そうすると、きっとどんな形であれ子どもたちは何らかの感情を抱くだろう。

 結果、先日ルカが言ったようにゼロのように騎士団にと言うのも無理もないことだと思うのだ。


 何気なくアリアスが言うと、ゼロは一瞬瞬き、それから深く笑んだ。


「ルーおじさん」

「うん?」


 会話の間を縫って呼び掛ける声を出したのは、ルカであった。

 親たちの会話が一区切りついたと感じ取った様子で、なぜかルーウェンを呼んだルカは自分の方を見てくれたルーウェンを見上げて、笑ってこんなことを言った。


「ぼくね、将来セシリアをお嫁さんにしたいんだけど、いい?」


 聞いた側からしてみると、ここまでしていた話より吹っ飛んだ話題に聞こえてしまった。将来のその先の将来であろう話だったのだ。

 ゆったりとカップを手にしていたルーウェンがカップを戻すときにカチャ、と音を立てた。珍しい。


 そんなルーウェンをクレアが静かな瞳で見た。ゼロもちらっとルーウェンを見て、自分は紅茶を飲んでいる。


 アリアスはこれはまたいきなりのことを言い出した息子を見ていた。

 ルカの隣ではセシリアが可愛らしくも頬を染めていた。

 仲が良いとは思っていたが、この年でそういう話もするのか。

 息子の発言にびっくりやらだが、これには可愛らしいなという感想で、アリアスは結局笑顔になってしまう。で、兄弟子の方を窺ってみた。

 言われた側は、どう答えるのだろう。


「セシリアをかー」


 申し出を向けられた側のルーウェンはちょっと思案する顔になった。

 そして、そんなに間を空けず、


「おじさんが認められるような男になったらいいぞ」


 兄弟子は柔らかく微笑み、言った。

 微笑ましく見守っていたアリアスだったが、その発言にちょっと考えた。彼が認める度合いとは、どの程度なのだろう。


「ルーが求めるレベルってどの程度なんだろうな」


 同じ事をゼロも考えたらしい。隣で呟いていた。

 その呟きを、ルーウェンは拾ったようだった。


「アリアスをかっさらっていったお前なら分かるんじゃないか?」


 緩やかな笑みはそのままでの言葉であった。

 ゼロは「大人げねえな」とぼやいた。そして、おもむろに息子の頭に手を伸ばした。


「ルカ、負けるなよ」

「何に?」


 未来のお嫁さんにしたいと公言した女の子の父親にである。


 大人たちの言っているところの分からない子どもたちはお菓子を食べ終えて、部屋の奥へ行った。


 無邪気に、楽しそうに笑う子どもの姿。

 いくら色んな将来の話が出ようと、まだまだこれからの話。その未来を守っていけるようにと思って、アリアスは見守り続けた。












振り返ると番外編になってからむしろ甘さが激減したようで、アリアスの子どもの頃の話とか、作中で空白だった時間とか、時間を遡って書きたいネタもあるのですが。

一旦ここで終了しておきます。

後々ぽつぽつと時間遡りすぎた話とか (個人的に) 懐かしい頃の話を更新するかもしれません。そのときは覗いてやっていただけると幸いです。


最後に。

長い方は二年以上お付き合いいただいてしまいました。私本人としても予想以上に長い話となりました。

読んでくださった全ての方に感謝を。ありがとうございました。



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