49
『さて、これからどうしましょうか…』
この部屋には、僕と姉さん、そしてハッカさん…
『じゃあな…』
エスさんはあの後すぐに出て行った。母上もその後を追うように出て行った。
残された僕らの空気は重い…
今回の件を解決しなければ、この町を出られない。それは母上の下で商売をすること、そういう意味だろう。
ハッカさんはエスさんが説明なく1人で出て行ったことにショックを受けている様子。
姉さんは頭を下げたままその表情はうかがえない。
姉さんが不意に顔を上げる。
『フェイ、何用』
いつの間にか部屋の隅にフェイが立っている。
『武義様、舞様お困りのご様子。これをお役立てくだされば』
深く被ったフードからの声、机の上にはいつの間にか紙が一枚。
『母上の命令か』
『いえ、これは私個人の所業でございますよ。武義様』
『母上直属のお前がそのような勝手な行動をしていいのか』
フェイは母上の懐刀…一族の闇の部分。それが自分の意思でこのようなことを…
『武義、今の状況では少しでも情報は必要』
確かに姉さんの言うとおりだ、ナイフ一本ではどうにもならない。
『では、失礼致します』
声だけを残して、フェイは消えた。
『これは…』
姉さんの驚きの声にハッカさんもハッとした表情になる。机の上の一枚の紙を覗き込む。
『これは…なぜこんな物を用意できたのか…母上に知れればフェイもただでは済まない』
その紙には現在のメダル保持数が書かれていた…
党首様所持。 長男、次男、三男、四男、次女 メダル6枚。
長女 メダル1枚。
五男 メダル1枚。
七男所持。 六男、八男 メダル3枚。
『思っていたより母上にメダルが集中していたのですね』
『確かにこの情報は機密中の機密』
『私、見てしまったけどよかったのかな』
ハッカさんが心配そうに呟く。
『大丈夫、後継者争いに関係ない者にとってはそれほど価値はない。党首を狙う者には喉から手が出るほど欲しいでしょうけど』
単純に考えれば母上にメダルを渡している兄様姉様は後継者辞退の意思表示だろう。
怪しいのは、メダル3枚所持の七男…名前なんだっけ。
『姉さん、七男の兄様。名前なんでしたっけ』
『確か…け、け、けい…そうそう、桂』
『お兄さんの名前を忘れるなんて…それに命燐さん子沢山なのね』
『僕は一番下で9男です。母上の子供は全部で11人います、見た目は若いですがかなりの年齢ですよ、姉さんもですけど、イタッ』
『ハッカ、女は見た目や年齢じゃない。中身が大事。でも気になるなら妹のハッカには教えてあげる』
姉さんはハッカさんの耳元にごにょごにょ囁くと髪を逆立てて驚いている。
声も出なかったらしい。
それにしても、とにかく桂兄様に探りを入れてみるしかないか…
ああ、舞さんがそんな年齢だったなんて…どう見ても20代だと思ったのに…
その年齢で女は見た目や年齢じゃないって言われても説得力無い。私、舞さんの年齢であんなに素敵でいられるかしら、はぁ…
それよりも、武義君のお母さん、規格外すぎる…100歳越えてから武義君を産むなんて…
どうみてもとても綺麗なお母さんって感じだったのに、世界は広いのね…
『ハッカさん、ハッカさん、そろそろ着きます、正面から行きますから用心だけはしておいてください』
あの日、エスさんは武義君の店に帰ってこなかった。連絡も無い。
武義君と舞さんは何か糸口を見つけたいとの思いから七男の桂さんに接触をしてみる話になった。
始めは私が手伝うと言うと反対していた2人だけど、少しでも力になりたいと説得した。
兄弟姉妹の商売にはお互い余り干渉しない様子で舞さんも確か鉱石や宝石などの鉱山系の仕事だったはず程度の認識しかなかった。武義君は直接会ったこともないとのことだった。
舞さんも武義君が産まれる前に命燐さんの護衛中に姿を見る程度で個人的な話はしたことが無いって。知れば知るほど普通ではないことを認識する。
『おお、よく来たね。連絡を受けたときは新手の詐欺か、何かの間違いかと思っていたよ』
『立ち話もなんだから、奥へどうぞどうぞ。いい茶菓子を用意させたんだから、期待しててよ』
やたらと親しげで恰幅のいい男の人が2人、同じ顔で出迎えてくれた…
はっはっはっはっは。という感じで店の奥に向かって歩いていく。その後をついて行きながら武義君達は小声で話している。
『構えてしまいましたが、拍子抜けですね』
『確かに、でも油断は禁物』
2人は顔は笑っているが警戒は続けている。私には普通に人のいいおじさんにしか見えないんだけどな…そんなに嫌な感じも無かった…と思う…
通された部屋には壁に大きな絵が4枚飾られていて、部屋の奥には同じ大きさの机が2つ。
やわらかそうな椅子が4つ、ピカピカに磨かれた石でできた机に山盛りのお菓子。
『まあ座って座って。巧、僕らのおやつとお茶を持ってくるように言ってきてくれないか』
『わかったよ。今日は何がいいかなぁ、話を進めていてね。お客人のお茶は先に運ばせるから』
『今日は喜ばしい日だから僕らのおやつは倍で行こう』
『いいのかい。はりきって選ぶぞ』
嬉しそうに出て行ったのが六男…巧兄様、ということは今目の前に残っているのが目的の七男、桂兄様。おやつの件で伺いを立てていたことから間違いないだろうな…
『失礼致します』
お茶が僕らの前に運ばれ、人が下がったタイミングで声がかかる。
『さて、おやつを美味しく食べる為にも今日来た用向きを先に聞こうか…弟君、姉様』
『では、その前にそこの絵の裏にいる人間を下げてもらおうか。弟よ』
『さすがは母上の護衛をなさっていたほどのお方…散れ』
始めのにやけた表情は消え、鋭い眼光に飲まれそうになる。姉様は堂々としたまま…
『ちなみに何人ほどいたか教えて頂いてもよろしいですか。舞様』
『7人』
『ほう…』
桂兄様から声が漏れる。
そんなにいたのか…僕は全然気づいていなかった…
『武義君、我々のような大きな商売をしようとする上で大事なことはたくさんある。其の内の1つは奪われないことだ』
急に話しかけられて少し動揺する…その声は優しく、教え導くような響きがあった。
『君はいいね。舞姉様1人で何人分の護衛代わりになるか。守る為の費用もばかにはならないよ。我々はおやつ代のほうが大変だけどね』
『お待たせ、いやー迷った迷った。だから持てるだけ持って来たよ桂』
勢いよく扉を蹴り飛ばしながら、両手にかごを1つずつもって巧兄様が戻ってくる…
『量は一緒だろうね…巧』
『も、もちろんさ、疑うのかい』
『口に何かついているようだからさ…』
ハッと口元を確認する巧兄様…なるほど桂兄様のが上に立つわけだ。
『今日のお客は特別だから許すとしよう、巧次は無いよ』
うんうんと頷きながら机に座る…おやつの量で机に座る2人の顔は見えない。
『やっぱり、おやつが来たから食べながら聞くよ。遠慮せずどうぞ』
顔は見えないがいろんな物を咀嚼する音が聞こえる。探りを入れに来たのにペースは完全に相手側、どうしたものか困っている僕を助けたのは今まで黙っていた人物だった。




