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『何やってるんだ』
空き缶に向かって銃を撃つ少女…いい腕だな…
『貴方に追いつけるように…』
黒いもこもこが遠くから近づいてくる…
後ろから響く銃声。
『大丈夫かい』
黒いもこもこからは綺麗な花が咲いている、何なんだあの物体は…
『いいよね、とても面白いよ』
はっ、俺の部屋か…昨日よりは多少湿気が抜けた布団、シンプルな俺の部屋。
『そんなに面白いかね…』
夢の中の人物に言い返す。
きっと布団の湿り具合と俺の夢見は関係性が有ると思われる、本日も干すとしよう、おひさまの光はタダだしな。さてさて今日はどうしようかな、久々に街でもぶらつくか…
街の中央は整った町並みに最新のファッション、流行の食べ物に博物館や図書館といった公共の施設があり買い物さえしなければ低料金で過ごせるスポットになっている。
中央部の店はガラス張りのウインドウにおしゃれなマネキンを並べて購買意欲を刺激しようとしてくる、自分が着たらどうなるかを想像しながら一軒一軒を見て回る、買わない。
着ている自分を想像して楽しむ、素晴しいことに1日にして数十着を楽しめる。
『さすが俺、何を着ても似合うな』
そろそろ昼か、少し立地の悪い店を数件見て回る、今日は5件の店に絞り30分かけて2周回る、人の入り具合と客層を見る、若い男が多く入る店に決める。
味よし、値段よし、ご飯お代わり自由。今日の昼は当たりだな。
お腹もいっぱいになったので図書館へ、近代的な建物に豊富な蔵書、利用料を払って中へ。
一年前からの新聞や雑誌を中心にもくもくと目を通す、おばちゃんの言うとおりチックスターに関する記事は殆どなく噂話の域を出ない怪しい雑誌にすら小さく取り上げられている程度だった。
空が茜色に染まっていく、布団が湿気る前に簡単な食べ物を買って帰ろう。座りっぱなしでちょっと痛い尻を撫でながら図書館を出るのだった。
旦那がいない、どこに行った。
一日中、ほぼだけど、心当たりを駆け回り足はパンパンだ、探しながらよく考えれば自分の店以外では一緒に飯食いに行くぐらいで普段何やってるかなんてしらねーわって昼過ぎてから気づいた…
そして旦那の家の前に座ること2時間…布団干してあるから帰ってくると思うけど…
「グー」おいおい情けない音出すなよ、さらに悲しくなってくるじゃねーか。
『もう少しでお宝ゲットなんだから、がんばろうぜ』
自分お腹に話しかける…
「グー」わかってもらえたようだ。暇すぎておかしくなりかかってるな俺。
『何やってんだよ人の家の前で、ひとりごとぶつぶつ言って。怪しいぜ』
待ち人来た。やっと来た。
『旦那、例の約束。先方がすぐにでも会いたいって言っているんです。さあさあ、行きましょう』
考える暇を与えないように、勢いで持って行きたい。
『前金で払ったじゃないですか。旦那ぁ、ささ行きましょう。すぐ行きましょう』
『だって、布団が出しっぱなしだしなぁ』
もう、早く残りの一枚を手に入れたいのに。
『それに夕飯買ってきたから、食べてからでもよくないか』
ああ、イライラする。後一枚がもう手の届くところまで来てるのに、ああー、ぐぅぅっつー
『旦那、お布団の取り込みは俺がやりますから。旦那は夕飯食べてくださいよ』
『え、いいの。悪いなぁ、じゃあお茶でも入れてっとガメル、お前も飲むか』
『いいえ、お構いなく。お邪魔しますよ』
「お前いいやつだな」とかいらないから、早く開けて。
力任せに布団を引き込もうとしたとき声が後ろからかかる…
『ガメル、取り込む前に一通り叩いておいてね。ふかふかになるから。よろしく』
小姑かーはいはいはいはい。やりますよやればいいんでしょう。やらせていただきますよ。
『わかりました。しっかり叩かしていただきます』
『口調が丁寧じゃないか。嫌なの、ねえ嫌なの』
『そんなわけないじゃないすっか。嫌だなんてそんな馬鹿な、旦那と俺の仲じゃないですか』
『だよね。お前いい奴だなぁ』
『ふかふか布団は俺に任せてくださいよぉ。旦那は夕飯を温かい内に食べてくださいよぉ』
『じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな』
そうそう、とっとと食べちゃってくださいよ。ほーらほーらしっかり叩いてますよー
ん、お湯沸く間に食べてよーもう。
『旦那、お布団ふかふかなりやしたよ。お茶も淹れますからささ、冷めないうちに』
『何から何まで悪いね。あ、お湯は少し冷ましてから注いでね、茶葉が煮えちゃうから』
こまけぇんだよ、お年寄りか、なあ、そんな見た目で中身はお年寄りか、背中にファスナーでもついてやがるのか、そのマントはファスナーを隠すためかおい。
『わかってやすよ、風味が損なわれますもんね』
『そうなんだよね。2杯目もおいしく飲みたいしさ』
落ち着け、落ち着くんだ俺。考えてみれば、バースはいつでもいいって言っているじゃないか。手に入ったも同然なんだ、ここで少しぐらい時間を割かれても今日中には手に入る、そうだ今日中には手に入るじゃないか。
『おいしいの淹れますから2杯目は濃い目でいいっすか』
『わかってるね』
不思議だ、考え方1つでこうも心が穏やかになるとは…旦那がおいしそうに食べる夕飯を昼以降まったく食べてない俺がこんなに穏やかに眺められるなんて。
『ガメル』
『なんすか旦那』
『お腹いっぱいで眠たいから明日でもいい』
『おりゃーとっとと行くぞコラー』
なんかガメルが怒っている、いろいろやってもらったからまあいいか。
『そういえば、誰に見せるんだよ』
『武器商のバースって奴です、武器好きがそのまま仕事になったって感じです。知らないですか』
『ふーん。知らない』
『アクアサークル3商の1人ですよ。結構有名だと思うんですけど』
『弾薬関係とかはお前のところで買ってるから、相場チェックはするけど取り引きしてない相手は知らん』
ガメルの奴何か考えてる風だな…
『旦那、結構やばい奴なんで注意してくださいね』
『だからあの金額なんだろう。そんな旨い話が無い事位わかってるって、そんな顔すんなよ』
悪ぶってるけどなんか悪になりきれない雰囲気があるんだよな、ガメルの奴は…
『さあ、さあパパッと用件を済ませようぜ』
日はとっくに落ち、街には灯りが散りばめられる。大都市の夜は明るい、作り物の灯りはある意味人に優しい…そんな中を歩きあるでかい建物の裏口へ着く。
『ガメル、早いな。ボスには連絡する、入りな』
『へい、ありがとうございます』
通りにくいな、そのためにこいつをここに配置しているのかな、後で聞いてみよう。
ガメルはなれた感じで通路を進み、途中にいる柄の悪い奴らにも丁寧に挨拶しながら進んでいく、確かに気をつけたほうがよさそうな雰囲気だな。
3階へ向かう階段を上がる途中で前を進むガメルが止まる。
『バースさん、お連れしました』
『あがっていただけ』
『わかりました』
ガメルは緊張した空気を纏いながら先を行く、俺もそれに続く。
かなりガタイのいい男が仕立てのいい感じの服装を身につけて丁寧に俺に頭を下げる。
その隣にはきれい顔の女が立っていた。
『始めまして、私武器商人を生業としております、バースと申します。今回は黄金十二宮の乙女座を見せていただけると伺い楽しみにしておりました』
言葉は丁寧だがその目は獣だな…
『俺はエス。ガメルに頼まれたからな、見せるだけで悪いなバースさん』
部屋の空気は張り詰める…そう簡単には帰れそうに無いな。




