第362章 空になった輸送路
非常口を出てから、二人は別々に帰ることにした。
カイは肩の傷を診てもらうため、知り合いの医療担当者のもとへ向かった。男も右手の状態を確認する必要があったが、その前にひとつだけ確かめたいことがあった。
襲撃者たちは、なぜ自分たちを殺さなかったのか。
単に情報を探っていたのなら、あの場で質問を重ねることもできたはずだ。ところが、相手は保守回路を切断された途端、追撃をやめた。
まるで、追跡を続けさせることよりも、別の何かを優先したようだった。
男はその疑問を抱えたまま、約束していた連絡先に短いメッセージを送った。
旧式部品の搬出経路について、追加の情報がないか。
返答はすぐには来なかった。
代わりに、少ししてから別の通知が届いた。
第三搬送路の保守作業が中止されたという。
理由は設備故障。再開時刻は未定。
男は画面を見つめた。
襲撃者たちは、逃げた二人を追わなかった。その代わり、搬送路を止めた。
自分たちが見つけた経路を閉じたのか。それとも、もともと今日のうちに閉じる予定だったのか。
どちらにしても、これ以上あの場所を追っても得られるものは少ない。
男は端末をしまい、帰路についた。
その夜、カイから連絡があった。
『肩は大したことない。しばらく強く動かすなと言われた』
『こちらも同じだ。右手を使うなと言われた』
『それで、次はどうする』
男はすぐには返さなかった。
追跡を諦めるつもりはない。しかし、敵が閉鎖した場所にもう一度向かうのは、相手の用意した状況に自分から入ることになる。
彼らが追うべきなのは、搬送路そのものではなかった。
搬送路を使わなければならなくなった理由だ。
男は、これまで見た保守車両の動きを思い返した。
旧式部品を取り外し、変換部品に交換する。取り外した部品は通常の廃棄経路に流すのではなく、別の車両に積み替える。回収に関わる人間は複数に分かれていて、全員が同じ情報を持っているわけではない。
それでも、物を運ぶ以上、どこかで人と物が合流する。
その合流地点が、次の候補だった。
男がカイに考えを伝えようとしたとき、端末が再び振動した。
今度は、先ほど問い合わせた連絡先からだった。
『搬送路の件だが、情報がひとつ入った』
続く文面には、第三搬送路から運び出された荷物が、別の保守拠点へ向かったと記されていた。
ただし、その拠点に到着した記録はない。
車両は途中で経路を変更し、予定外の区域へ入ったらしい。
男は画面を拡大した。
その区域には、現在も稼働している設備がある。古い技術の保管場所として登録されているわけではない。むしろ、通常の保守業務が行われている場所だった。
だからこそ、これまで候補に挙がらなかった。
『場所は特定できるか』
『正確には無理だ。記録上は、区域内の複数の施設に分かれている』
男は息を吐いた。
またしても、決定的な情報ではない。
それでも、今回は違った。
相手が何を隠しているのかを知るために、古い施設を探し回る必要はない。現在動いている設備の中で、何が突然入れ替わり、何が通常の記録から消えているのか。それを見れば、回収が進んでいる場所を絞り込める可能性がある。
ただし、相手もすでに警戒している。
次に動けば、先ほどより厳しい対応を受けるだろう。
男はカイに連絡を送った。
『明日は動かない。先に、こちらが持っている情報を整理する』
すぐに返事が来た。
『珍しいな。急がないのか』
『急ぐ必要があるからこそだ。相手は、俺たちが追っていることを知っている』
男は端末を伏せた。
その判断が正しいかどうかは、まだわからない。
だが、少なくとも次に向かう場所だけは、敵が用意した通路ではなく、自分たちが選ぶ必要があった。
同じ頃、第四管理区の別の施設では、回収された部品が新しい保管庫へ運び込まれていた。
部品は一つずつ番号を付けられ、用途別に分けられる。現場で回収した人間は、その後の保管先を知らない。輸送担当者も、受け渡し先の名称を知らされていなかった。
記録を管理する者は、回収済みの項目に印を付けた。
その数は、数日前より確実に増えている。
「第三搬送路の件は?」
部下が尋ねた。
「変更した。あそこはもう使わない」
「追跡者への対処は」
「必要ない。こちらの作業を止めるほどの相手ではない」
管理者は淡々と答えた。
彼にとって重要なのは、二人の追跡者を捕まえることではなかった。
回収を止めず、必要な技術を予定どおりに集めることだ。
追跡者が一つの経路を見つけたなら、別の経路を使えばいい。
一つの施設が露見したなら、次の施設へ移せばいい。
回収網全体が維持される限り、個々の経路を失うことは許容できる損失だった。
その判断に誤りはなかった。
少なくとも、現時点では。
保管庫の奥で、新たな部品が棚に置かれた。
その部品がどこから運ばれてきたのか、誰も口にしなかった。
そして、誰も知らなかった。
その部品を運ぶために変更された経路が、別の回収担当者の予定を狂わせ、彼が本来確保するはずだった技術を、競合する別の組織へ渡す結果になることを。
回収は止まらない。
ただし、回収を急ぐ者が増えるほど、すべてを予定どおりに進めることは難しくなっていく。




