第353章 存在しない管理区
「第四管理区?」
主人公は、その名称を聞き返した。
第四管理区については、すでに記録を確認している。
以前見つけた資料には、こう記されていた。
《第四管理区》
《記録は現存しない》
管理区の名称だけが残り、それ以上の情報は得られていなかった。
「第四管理区が受付権限の保管先だという記録は、どこにあったんですか?」
「権限返却処理の末尾だ。現地の設備に刻まれていた番号と一致した。別々の記録に同じ識別情報が残っている以上、偶然とは考えにくい」
「でも、第四管理区そのものの記録は残っていない」
「そうだ。だから、保管先が現在も存在するとは限らない」
主人公は画面に表示された二つの記録を並べた。
一つは、後継者による権限の再申請を認める記録。
もう一つは、返却された権限の保管先を示す識別情報。
これまで、二つの記録は別々の問題として扱われていた。
しかし、両者が同じ管理体系に属しているなら、話は変わる。
後継者の申請を受け付ける設備が残っている。
その受付権限の保管先は第四管理区とされている。
ところが、第四管理区の記録は現存しない。
申請の仕組みが残っていても、それを受理する権限にアクセスできなければ、手続きは完了しない可能性がある。
「第四管理区がなくなったから、権限も失われたとは限りませんね」
主人公は言った。
「管理区が廃止されたのか、記録だけが失われたのか、それとも別の場所に機能が移されたのか。今の情報では区別できない」
レイヴンの返答は慎重だった。
主人公も同意した。
記録がないことを、機能が存在しない証拠にはできない。
反対に、古い識別番号が残っていることを、機能が現在も稼働している証拠にすることもできなかった。
問題は、第四管理区の記録がなぜ失われたのかではない。
現在の管理網に存在しない受付権限が、まだどこかに残っているのかどうかだった。
*
レイヴンは、旧管理体系に関連する記録を持つ関係者に照合を依頼した。
ただし、第四管理区の捜索を広げるのではなく、まず識別番号の用途を確認する方針だった。
管理区の位置を探し始めれば、古い施設や閉鎖された設備を片端から調べることになる。
それでは、同じ情報不足を繰り返すだけだった。
今回必要なのは、番号が何を指していたのかという一点だった。
数時間後、照合結果が届いた。
識別番号は、施設や機器そのものではなく、権限の保管先を参照するためのものだった。
つまり、番号が一致しても、現地の設備が第四管理区に直接つながっているとは限らない。
その一方で、古い管理体系では、保管先が変更された場合に参照先を書き換える仕組みが存在していた。
今回の番号には、変更を示す記録が見つからなかった。
「変更されていないのか、それとも変更記録が失われたのか」
カイが報告を読んで言った。
「どちらもあり得る」と主人公は答えた。「ただ、少なくとも今の管理網では、変更先を確認できない」
「じゃあ、現地の設備から何か分からないのか?」
「設備が申請を受け付けられる状態なら、可能性はある。でも、勝手に操作するわけにはいかない」
彼は現地の画像を再び開いた。
操作部には、申請者を指定する欄がある。
受付権限の項目には、値が確認できない。
そして、その裏側には、第四管理区を参照する識別番号が刻まれていた。
これらの情報は、同じ設備に集まっている。
だが、まだ誰も、その設備が実際にどこまで機能するのかを確かめていない。
主人公は、現地の担当者に一つだけ確認を依頼した。
操作部の周囲に、識別番号とは別の表示や接続端子が残っていないか。
設備を起動せず、外側から確認できる範囲だけでよかった。
*
翌日、現地から回答が届いた。
操作部の側面に、小さな接続口が残っていた。
形状は古い管理設備に使われていたものと一致していたが、現行の機器との互換性は確認できなかった。
その接続口の近くには、薄くなった文字が残っていた。
――権限確認用。
主人公は画像を見つめた。
申請者の指定とは別に、権限を確認するための接続口がある。
この設備は、少なくとも設計上、申請者を入力するだけで処理を完了するものではなかったようだ。
彼はすぐにレイヴンへ連絡した。
「権限確認用の接続口が見つかりました。第四管理区の識別番号と合わせると、受付権限の所在を確認するための機構だった可能性があります」
「こちらでも画像を確認した。だが、現行の機器を接続するのは待ってくれ」
「互換性が分からないからですね」
「それだけではない。権限を確認するための接続が、権限の要求や移譲まで実行する設計だった可能性もある。古い設備に現行の機器をつなげば、何が起きるか分からない」
主人公は、接続口の画像を保存した。
権限を確認することと、権限を取得すること。
古い仕組みでは、その二つがどのように区別されていたのか。
そこを確認しないまま操作するのは危険だった。
しかし、今回の発見によって、一つだけ明確になったことがある。
第四管理区の識別番号は、単に失われた施設の名称を示すものではない。
現地の設備には、その保管先を参照し、権限を確認するための機構が残されている。
それなら、第四管理区の記録が現存しない現在でも、保管先を確認できる余地はある。
もちろん、設備が正常に動作する保証はない。
参照先が存在する保証もない。
それでも、これまでのように、失われた記録を探し続けるだけではなくなった。
主人公は、レイヴンからの次の指示を待った。
しばらくして、短い連絡が届いた。
「接続口の形式を、旧管理体系の記録と照合する。現地では何も接続しないでくれ」
「分かりました」
通信を終えた主人公は、もう一度、操作部の表示を確認した。
――申請者を指定してください。
その文字は変わっていない。
だが、今では、その表示の意味も少し違って見えた。
申請者を指定するための設備がある。
申請を受け付けるための権限がある。
そして、その権限の保管先として、第四管理区が記録されている。
もし第四管理区が完全に失われているのなら、なぜ参照先の変更記録がないのか。
もし保管先が現在も残っているのなら、なぜ現行の管理網から確認できないのか。
どちらにしても、次に確かめるべきことは一つだった。
第四管理区そのものではなく、そこに保管されたはずの権限が、今も参照可能なのか。
主人公は、その問いをレイヴンにも送った。
返事はまだなかった。
しかし、彼らが確認を進めている間にも、旧管理体系のどこかでは、申請者を指定するための設備が待機し続けていた。




