第259章 別の用途
権限見直しの試行案が会議に提出された翌日、企画部門から追加の要望が届いた。
競合プラットフォームの公開企画を分析するにあたり、過去に自社の企画へ参加した人物の評価記録も参照したいという。
理由は、同じ人物が異なる条件の現場でどのような判断をしたのか、比較するためだった。
女性運営責任者は、申請書を読み、担当者を呼んだ。
「比較したいのは、作業の結果ですか。それとも、判断の過程ですか」
「両方です。作業の完了状況だけでなく、途中でどのような選択をしたかも確認したいと考えています」
「その情報を、具体的に何に利用する予定ですか」
「今後の企画設計と、参加者への仕事の紹介方法を検討するためです」
説明には一貫性があった。
実際の作業結果だけを比較しても、現場の条件が異なれば、単純な優劣はつけられない。判断の過程を確認することには、一定の意味がある。
ただし、過去の評価記録を別の用途に利用するなら、参加者が同意した範囲も確認しなければならなかった。
「過去の記録を取得したとき、どの用途まで説明していましたか」
担当者は資料を確認した。
「企画の評価と、今後の仕事の紹介に利用することは説明しています。ただ、他社が運営する企画との比較分析については、明示していません」
女性運営責任者は、申請書を閉じた。
「それなら、現在の同意内容で利用できる範囲と、追加の確認が必要な範囲を分けてください。比較分析そのものを否定する必要はありませんが、過去に同意を得たという理由だけで、すべての用途を含めることはできません」
担当者は了承した。
まず、個人を特定できない集計情報を使って、企画ごとの評価項目や作業条件を比較する。
個人単位の判断過程を参照する必要がある場合は、利用目的を具体的に説明し、必要な同意を確認する。
二つの作業を分ければ、比較分析を全面的に止めずに進められる。
企画部門は、その方針で準備を進めることになった。
会議が終わったあと、補佐役が女性運営責任者の席を訪れた。
「今回の対応は、競合企画の分析だけでなく、既存の仕事紹介制度にも影響しますね」
「ええ。仕事の紹介に使う評価と、企画を改善するための分析では、必要な情報が異なる場合があります」
「ただ、用途を細かく分けすぎると、現場で使いにくくなるかもしれません」
「その点は、実際に必要な情報を確認しながら決めましょう。管理を複雑にすること自体が目的ではありません」
補佐役は、手元の資料を見た。
「分かりました。利用目的を登録する方式についても、現場の負担を確認しておきます」
彼が去ったあと、女性運営責任者は、評価記録の管理規定を開いた。
現在の規定では、記録の取得時に利用目的を登録することになっている。ただし、その目的をどの程度細かく分けるかは、企画ごとの判断に委ねられていた。
そのため、同じ「仕事の紹介」という項目でも、担当者によって解釈が異なる可能性がある。
彼女は、次回の会議に向けて、利用目的の分類案を作成した。
企画の改善。
本人への評価結果の返却。
仕事の紹介。
他の企画との比較分析。
それぞれについて、利用できる記録の範囲を定める。
ただし、分類を増やせば、それだけで問題が解決するわけではない。実際の業務が複数の目的にまたがる場合もあるため、例外の扱いも検討する必要があった。
その日の夕方、競技企画の調査担当者から追加報告が届いた。
当日の変更操作に関わった可能性のある担当者への聞き取りが進み、現場からの変更要請を受けて技術支援担当者が管理画面を開いたことについては、複数の記録が一致したという。
しかし、その後の参照範囲の変更については、担当者の記憶が一致していなかった。
一人は、設定内容を確認するために管理画面を開いたと説明した。
もう一人は、現場からの要請を受けた時点では、設定変更まで行う予定はなかったと話した。
どちらの説明も、記録の一部とは整合していた。
ただし、誰が最終的な変更を判断したのかは、まだ確認できていない。
女性運営責任者は、調査担当者に追加の指示を出した。
「二人の説明を、どちらか一方に統一する必要はありません。記憶が異なる部分と、記録から確認できる部分を分けてください。必要なら、当日の連絡を送受信した時刻と、各担当者の業務範囲を照合しましょう」
担当者は了承した。
今回の聞き取りによって、少なくとも、変更操作に至るまでの経緯を一人の担当者の判断だけで説明することは難しくなった。
複数の人間が、それぞれ異なる情報を持ち、異なる段階で作業に関わっていた可能性がある。
その中で、誰がどの判断をしたのか。
そこを確認しなければ、操作の責任を適切に整理することはできなかった。
女性運営責任者は、調査記録を保存した。
競合企画の分析と、競技企画の調査。
二つの案件は、同じ問題を扱っているわけではない。
それでも、記録の利用目的を明確にすることと、操作の経緯をたどれるようにすることは、どちらも今後の運営に必要だった。
彼女は、翌日の予定を確認した。
午前中は、権限見直しの試行案について、情報管理部門と具体的な運用方法を詰める。
午後は、競技企画の調査結果を確認する。
どちらも、すぐに結論が出る仕事ではなかった。
ただ、これまで慣例で処理されてきた問題について、何を確認すれば次の判断に進めるのかは、少しずつ明確になっていた。




