第257章 残された申請
権限の確認作業が始まって二日目、情報管理部門から最初の集計が届いた。
対象となった申請のうち、現在の業務内容と申請時の利用目的が一致しているものは、すでに回答がそろい始めていた。一方、過去の企画を引き継いだ権限については、所属部門だけでは必要性を判断できないものが残っていた。
女性運営責任者は、一覧を確認した。
問題になっているのは、権限の数ではなかった。
申請時には明確な目的があっても、担当者の異動や企画の終了によって、その目的が変わることがある。ところが、業務が続いている限り、権限の見直しが行われない場合もあった。
彼女は、情報管理担当者に一つの条件を加えるよう依頼した。
「申請時の目的が現在も残っている場合と、別の目的に転用されている場合を分けてください。業務が続いていることだけを、権限を維持する理由にはしないでください」
「分かりました。利用者側から、過去の資料を継続して参照する必要があるという回答も届いています。その場合はどう扱いますか」
「具体的に、どの資料を、どの業務で使うのか確認しましょう。過去の資料を参照する必要があることと、管理設定を変更できることは別です」
担当者は、一覧を修正した。
その日の午後、競技企画の調査担当者からも連絡があった。
以前確認された参照範囲の変更について、管理画面の仕様を調べたところ、変更操作を行わなくても、通常の閲覧画面から必要な情報を確認できる部分があったという。
つまり、当日の操作が業務上必要だった可能性は残るものの、少なくとも、確認できる範囲の情報を得るために必須の操作だったとは言い切れなくなった。
女性運営責任者は、担当者に尋ねた。
「当時の担当者が、通常の閲覧画面を利用できたかどうかは確認できますか」
「当日の権限一覧を確認しています。現在の設定をそのまま当時に当てはめることはできませんが、当時の申請記録と照合すれば、利用可能だった範囲は絞れると思います」
「では、その確認を先に進めてください。操作の必要性と、操作した人物の特定は分けて扱いましょう」
担当者は了承した。
彼女は、調査の進み方を見ながら、競技企画の記録だけでなく、社内の管理方法にも同じ問題がないか考えた。
ある操作が可能だったことと、その操作が必要だったことは同じではない。
また、必要な操作だったとしても、誰が実行したのかが分からなければ、後から判断の経緯を確認できない。
ただし、記録が不足しているからといって、直ちに不正があったと判断することもできなかった。
彼女は、調査担当者が提出した資料に、確認済みの事実と未確認の事項を分けて記載するよう指示した。
夕方、補佐役が会議室を訪れた。
「権限の見直しについて、各部門から回答が集まり始めています。いくつかの部署では、過去の企画で使用した管理画面を、現在の業務でも利用していました」
「利用目的は確認できましたか」
「大部分は確認できています。ただ、申請時の目的に含まれていなかった資料まで参照している例があります」
「その資料は、現在の業務に必要なのですか」
「担当者からは、比較分析に必要だという説明がありました。ただ、どの範囲まで必要なのかは、まだ整理されていません」
彼女は、該当する申請を開いた。
申請者は、過去の企画で作成された評価記録を参照する権限を持っていた。現在は、別の企画の運営分析にも関わっている。
担当者の説明が事実であれば、資料を参照する必要はあるのだろう。
しかし、参照する必要があることだけでは、すべての記録にアクセスできる理由にはならない。
「分析に必要な項目を先に整理してもらいましょう。個人単位の評価記録が必要なのか、集計された情報で足りるのか。それによって、必要な権限は変わります」
「本人の説明を待つ形でよろしいですか」
「はい。現在の業務内容と照らし合わせて判断します」
補佐役は、指示を記録した。
「この見直しを、今後の新しい企画にも適用する予定ですか」
「少なくとも、企画終了後に権限を継続する場合は、利用目的を確認できる仕組みが必要だと思います。今回の調査結果を踏まえて、具体的な運用方法を検討しましょう」
補佐役は、賛成した。
会話に不自然な点はなかった。
彼は権限の見直しを進め、必要な確認を各部門に依頼している。現在のところ、彼が調査を妨げようとしていると判断できる事実はなかった。
女性運営責任者は、そのことと、補佐役自身の権限を確認する必要があることを、別々に考えていた。
夜、彼女は自分の端末で、過去の申請記録を確認した。
その中に、以前から継続している管理権限の申請があった。
申請時の業務内容は、現在の職務と大きくは変わっていない。ただし、担当する企画の数は増えていた。
彼女自身も、長く同じ権限を使い続けている一人だった。
彼女は、現在の業務に必要な権限と、以前の業務から引き継いだ権限を分けて記載した。
管理責任者である自分だけを、確認の対象外にする理由はない。
申請内容を更新し、情報管理部門に提出する。
それだけの作業だったが、彼女は、今後の見直しが他人の権限を整理するためだけのものではなくなることを理解していた。
翌朝、情報管理部門から確認の依頼が届いた。
彼女が現在も必要としている権限の一部について、利用目的を具体的に説明してほしいという。
彼女は、対象となる業務を一つずつ記載した。
企画の進行管理。
評価記録の確認。
運営設定の承認。
それぞれについて、どの情報を参照し、どの操作を行う必要があるのかを整理した。
回答を送信したあと、彼女は競技企画の調査状況を確認した。
参照範囲の変更操作については、当時の権限一覧との照合が続いていた。操作した人物はまだ特定されていない。
一方、社内では、権限を継続する理由を個別に確認する作業が進んでいた。
二つの調査は、別々の問題から始まったものだった。
しかし、どちらも、これまで当然のように使われてきた仕組みを、実際の業務に照らして見直す段階に入っていた。
女性運営責任者は、次の会議資料に目を通した。
そこには、権限を維持する申請と、変更が必要な申請が分けて記載されていた。
まだ、すべての回答がそろったわけではない。
それでも、少なくとも一部の権限については、誰が、何のために必要としているのかを、以前より具体的に説明できるようになっていた。




