表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
106/106

第105話 悪役貴族、伝説の企画を終える ②

《うおおおおおおお》

《治ったああああ!》

《ウッソだろお前!》

《鳥肌》


 コメント欄が噴火する。

 さっきまで罵声と疑念で埋まっていた流れが、一瞬で歓声へ反転した。


「なんということじゃ」


 村長の肩から力が抜けた。

 彼はスージーの身体の、黄金と化していた部位をひとつひとつ確認していく。


「治った、のか」

「みたいだね」


 スージーはまだ少しぼんやりしながらも、確かに笑った。


「すっごく苦しかったけど。もうだいじょうぶ!」


 その言葉を聞いた瞬間、村長はスージーを抱きしめた。

 怒りも疑いも吹き飛び、ただ孫娘が生きていることへの安堵だけが残る。

 マルスはその様子を見て、ようやく緊張を吐き出すように肩を回した。


「ふぅ……心臓に悪いぜ」


 その呟きはフォローカムにも届かないほど小さかった。


「スージー。どうだ? 治った感じ、ある?」

「うん、たぶん。なんか、元気になった気がする!」


 スージーは村長の手を借りて、ゆっくりと両足を床に下ろし、立ち上がる。

 一歩、また一歩。

 ゆっくりと居間を一周する彼女の顔が、みるみるうちに笑顔になっていく。


「あはっ」


 思わず笑いが漏れた。

 その勢いのまま、スージーは家の外へと駆け出ていく。


「ス、スージー!」


 村長が慌てて追いかける。

 目を見合わせるブリジットとリサを横目に、マルスはフォローカムを操作して家の外へ飛ばす。

 カメラが捉えたのは、裸足のまま庭を駆け回るスージーの姿だった。

 立ち上がるだけでふらつき、転んでいた少女とは思えない快活さが、聖国中に発信される。


「あははははははっ! 見ておじいちゃん! 見てっ!」


 細い脚で大地を踏みしめる。目尻に涙が光る。


「あぁ……ああ! 見ているとも、スージー……!」


 震える唇から漏れる感極まった声。

 村長は、嬉しさのあまり叫び出すのを堪えるので精一杯であった。


《すげえええええ!》

《歴史的瞬間》

《これマジ? 仕込みじゃないよね?》

《黄金病って治るんか……》

《ありえないでしょ。これこそ異端魔術なんじゃ?》


 リスナー達が思い思いをコメントにする。

 その勢いは平日の早朝とは思えないほど激しい。マルスの配信が社会の注目を集めている証左であった。

 ブリジットとリサを伴って家から出てきたマルスは、これまでにないほど爽やかな笑みを浮かべる。

 朝露に濡れた草を踏みしめ、スージーは何度も飛び跳ねていた。その一歩一歩が、これまで失われていた自由を取り戻すように軽やかだった。


「リサ」


 マルスが軽く肩を叩く。


「ちゃんと見とけよ。これ、お前がやったことだからな」


 リサは何も言えず、ただ目の前の光景を見つめていた。

 自分の血が命を救った。それが現実だと、ようやく実感し始めている。

 それでも。


「……ちがうわ」


 小さく首を振る。


「リサがやっただなんて。そんな厚かましいこと、言えないわよ」

「お、今朝は珍しく謙虚じゃん」


 茶化されて、リサはそっぽを向く。

 その隣では、ブリジットがぽかんとした表情を浮かべていた。


「まさか、本当に治るとは――って顔してんね」


 図星を突かれ、ブリジットは目を泳がせる。


「そなたを疑っていたわけではないが、実際に目の当たりにすると、な」

「わかる。俺もおんなじ気持ち」


 そのとき。


「マルスさん!」


 駆け寄ってきたスージーが、勢いそのままにマルスへ抱きついた。


「うおっと」

「ありがとう! 本当にありがとう!」


 小さな身体が、全力でしがみついてくる。以前受け止めた時とは比べ物にならない活力。

 マルスは一瞬だけ驚いて、そしてゆっくりとその頭に手を置いた。


「よかったな」

「うん!」


 村長が一歩下がった位置で深々と頭を下げる。


「マルス・ヴィル殿。これまでの非礼をお詫びいたします。このご恩、なんとお礼を申せばよいか」

「いいって。そういうの苦手だし。俺とエリシアをこの村に受け入れてくれれば、それで十分ですから」


 その言葉に、村長は深く頭を下げた。


「ま、いろいろあったけど、これにて一件落着。企画は大成功だな」


 カメラに向かって指を差すマルス。格好つけたつもりだったが、堪えきれずに大きなあくびをしてしまう。


「ほっとしたら眠くなってきたわ。俺はそろそろ休ませてもらうぜ」


《え! もう終わるの?》

《もっと見たいー》

《まだまだ説明不足ではありませんか?》

《俺達のことは放っておいて今はゆっくり休め》

《そういえばエリシアちゃんは?》


「ま、後日ちゃんと解説の場は設けるつもり。今日はひとまずここまで」


 そう言って、カメラに向かって親指を立てる。


「いい朝になったな。じゃ、また。ご視聴ありがとう」


 配信終了の合図とともに、画面がゆっくりとフェードアウトしていく。

 コメント欄だけは最後まで流れ続けていたが、やがてそれも静かに消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ