第125章 ― なぜ泣いてるの?
「この作品は純粋なフィクションであり、いかなる論争を引き起こしたり、人々の考えを変えたりすることを意図したものではありません。作品に描かれている出来事は、著者の見解を反映するものではありません。物語の一貫性を高めるために、一部の歴史的および神話的な出来事は改変または変更されています。この作品は、古代の出来事に関する歴史的または宗教的な言及を意図したものではありません。」
空がひび割れ始めた。
アレスが作り出した次元障壁は、もはや安定を保つだけのエネルギーを持っていなかったのだ。
砕けたガラスのような亀裂が空中に広がり、それが割れていくたびに、その向こうには穏やかで静かな火星の姿が現れた――というのも、惑星の破壊はあくまで戦神が作り出した異次元の中だけで起こっていたからである。
噴火する火山、宙を漂う岩塊、真っ二つに裂けた惑星から流れ落ちる溶岩の川――それらはついに消え、青みがかった灰色の空の下に広がる、静かで荒涼とした世界へと置き換わった。
異次元の中では数時間が経過していたが、現実の火星ではほんの数秒しか経っていなかった。
「助かったな。惑星が内爆する前に、次元障壁が崩壊してくれてよかった」
そう言ったのはザルモクシスだった。
彼は女神シャウシュカの隣に立ち、生き残ったイギギ、マラキム、ニンフ、ベヘモントたちの一団を率いて惑星から避難していた。
フルリの女神は、気を失ったセラルディを肩に担いでいた。
ザルモクシスはマフレムを支えている。
「アレスがこのために、わたしたち全員を利用していたなんてね。
でも、まあ……これで、あの戦神たちの集団も終わりでしょう」
シャウシュカは考え込むように言った。
ザルモクシスは答えなかった。
その表情には深い絶望が刻まれている。
「つらいのは分かるわ。
あなた、多分ケレスの中でただ一人、本気であの男の統率を尊敬していたものね」
シャウシュカは続けた。
「アレス様には、きっとお考えがあったはずだ」
ザルモクシスは、まだ信じられないという顔で答えた。
「違う! そんなふうに正当化しないで!
もしわたしたちが意識を取り戻していなかったら、ここにいる全員が死んでいたのよ!」
フルリの女神は怒って叫ぶ。
ザルモクシスは何も言わなかった。
自分がギリシアの戦神にとって、ただの駒でしかなかったことを受け入れられず、恥じていたのだ。
「オグンの気配が感じられないわ。
まだ迷宮次元の中に閉じ込められているのかしら。もしそうなら、逆に無傷で済んでいるかもしれないけど」
シャウシュカは付け加えた。
「これからどうするんだ、シャウシュカ?」
ザルモクシスが静かに尋ねる。
「これから? ああ、神々よ、本当に分からない。
レルに謝るのか、それとも生き残りを集めて新しい反乱組織でも作るのか……本当に何も思いつかないわ」
彼女は答えた。
「俺にも何の考えもない。
アレス様こそ俺の信仰そのもので……今はもう、あの方がいない人生が空っぽに感じる」
トラキアのネフィルは言った。
二柱の神は、その配下たちとともに、火星から飛び去っていった。
その頃、ロドリゴたちは火星の雪に覆われた山脈の上に立っていた。
青い空の下には、赤い土だけが静かに広がっている。
「……これで、本当に終わったの?」
ロドリゴはそう言って、自分の前に立つタニアを見た。
彼は地面に座り込んでおり、アンナがその身体を抱きしめていた。
「うん。師匠が勝ったんだよ」
アンナがそう言ったちょうどその時、頭上の次元障壁が砕け、太陽の光が火星の大地を照らした。
アンナの目は、驚くほど鮮やかな青に輝いていた。
それを見てロドリゴはぎょっとする。
そしてその時、自分がもうトテマを手に持っていないことにも気づいた。
それは首飾りのように、彼の胸元へくっついていたのだ。
「それってトテマなの、ルイ?」
アンナは不思議そうに尋ねた。
「見てなかったんだね?
なんか、すごく大きな鳥みたいだったよ」
タニアがにやりと笑って答える。
「ルイ! じゃあ、アンナたち鳥仲間じゃん!」
アンナは嬉しそうに言った。
「エポナには、変で怖そうに見えるって言われた」
ロドリゴは答えた。
「じゃあ、今度アンナにも見せてね?」
アンナは笑った。
「ずっと昔、ヴィンランドの戦士たちを見たことがある。
彼らも色鮮やかな羽根を身に着けていた。ルイを見た時、ついその人たちを思い出した。
……でも不思議だね。私たちには大西洋を越える禁があるのに」
タニアは言った。
「ルイって、ヴィンランドの出身なの?」
アンナは興味津々で聞いた。
「分からない。
ただ、そのトテマの名前がエヘ……エヘ……なんとかって言ってた気がするんだけど、忘れた」
ロドリゴは白状した。
「エヘカル?」
タニアが言ってみる。
「いや、たぶんそれじゃなかったと思う」
ロドリゴは照れくさそうに答える。
少し沈黙が流れたあと、ロドリゴはようやく思い出した。
「思い出した。
エエカトルだ。
彼は、自分は僕のトテマじゃなくて、僕に力を貸す従者だって言ってた」
ロドリゴは言った。
「じゃあやっぱり、ルイはヴィンランドの出なんだね。
この辺りじゃ、そんな名前聞いたことないもの」
タニアは答えた。
「それで、その彼と一つになったら、祖先の地に行かなきゃいけないって言われたんだ。
なんか、羽の生えた蛇を、ピラミッドの中で探せって」
ロドリゴは付け加えた。
「もしルイが行くなら、アンナも一緒に行くよ」
アンナはそう言って、やさしく彼の頭を撫でた。
「私も行くよ、ロドリゴ」
タニアも言った。
「でも……なんでヴィンランドへ行っちゃいけないの?」
ロドリゴは尋ねる。
「昔、あの地の人々と、ヨーロッパやアジア、アフリカの人々との文化の違いが、大きな混乱を生んだから。
向こうの人たちには馬も荷役獣もいなかったし、鋼鉄の武器に必要な鉱物も足りなかった。
それに、私たちの地域の人間が免疫を持っていた病に対して、あの人たちには何の自然防御もなかった」
タニアは説明した。
ロドリゴには、馬も荷物を運ぶ動物もいない暮らしなど、ほとんど想像もできなかった。
どうやって移動するのか。どうやって畑を耕すのか。
彼は不思議に思う。
「だから、その文化接触は向こうの人間にとって破滅的になるって判断された。
それで、あの地方の神々と、私たちの側の神々の間で“不干渉の掟”が結ばれた。
破った者は死刑」
タニアは続けた。
「でも、ノースの神たちは、そこへ人間を送り込もうとしたことがあるよね。
実際、ヴィンランドって名付けたのも彼らだし」
アンナが言う。
「大西洋を守るマラキムたちは、そこを越えようとする人間の船をたいてい沈めてしまう。
もしノースの神々があの地に辿り着けたなら、別の航路を知っているんだと思う」
タニアは答えた。
「でも、アテナは僕たちにそこへ行けって言うんだよね?」
ロドリゴが訊いた。
「きっと、レルに気づかれずに入る方法を知ってるんだよ」
タニアは言った。
「突然お声がけいたし、失礼つかまつる。
そして、もし拙者の見立てに誤りなければ、タニア殿にアンナ姫、にて候か?」
そう言いながら近づいてきたのはスサノオだった。
「ああ、そうだ。ロドリゴを助けてくれたのはあなたなんでしょ?
まだ名前を聞いてなかったね」
タニアが言う。
「拙者、須佐之男命と申す。
されど、ただスサノオとお呼びくだされば十分にて候」
東の神は答えた。
「東の方の神なんだ。僕、彼と戦ったんだよ。すごく強かった」
ロドリゴが付け加える。
「不思議だねえ。
アレスのところに、そんなに異国の戦士がいたなんて。
師匠のところにも、あんな遠い土地の人はいないと思う」
アンナは言った。
「誠に稀有なことにて候。
拙者は故郷・高天原より追放され、大いなる偉業を成さぬ限り、戻ること能わず。
ゆえに、そなたらのヴィンランドへの旅に同行いたしたい。
そしてまた、ロドリゴ殿と道を共にし、互いにさらなる力を得とう存ずる」
スサノオはそう言って、二柱の女神の前に跪いた。
「へええ、ロドリゴ。
今度はエポナの心だけじゃなくて、この若い男の心まで奪ったんだ?」
タニアはにやにやしながらからかった。
「ルイって、本当に人たらしだよね」
アンナはむっとしながら言った。
「み、皆の者、それは……そのような意味では……」
スサノオは慌てて立ち上がりながら言う。
「この二人、そういう感じだから。慣れた方がいいよ」
ロドリゴは笑いながら言った。
「アンナは反対しないよ。
あとは師匠しだいかな。師匠がアンナの主だから」
アンナは答えた。
「私も別に構わないよ。
スサノオ、だっけ?」
タニアも加えた。
「どうもありがとう存じます、皆の衆」
スサノオは再び頭を下げた。
「そういうの、アンナたちの前ではやめて」
二柱の女神は同時に言い、ロドリゴは笑った。
ロドリゴは、タニアがまたこんなふうに明るくなったのを見て、少し嬉しかった。
ほとんど昔の彼女のようだった。
いや、それ以上に、軽くなり、救われたようにも見えた。
確かに彼女は、自分を殺そうとした。
だが、自分だって母や仲間たちが死ぬのを見て、数えきれない存在を虐殺したことがあったではないか。
かつて感情がないように見えたこの女神と、自分はどれほど違うというのだろう。
間違いなく、彼女は一頭の獅子だった。
自分の大切な者を守るためなら、どんな代償も払う獅子。
その頃、アンピエルはゆっくりと目を開けた。
そして、自分の上にエポナが覆いかぶさるように抱きしめていることに気づく。
「エポナ? 何してるんだ?」
天使は訊いた。
アンピエルは、こんな彼女を生まれて初めて見た。
彼女はいつも、自分を見下したように荒く当たり、彼もまた遊びのように皮肉で返してきた。
その彼女が、今こうしている。
それが彼には信じられなかった。
「エポナ……なんで泣いてるんだ?」
アンピエルが尋ねる。
「泣いてないし、バカ。ただ、あんたが生きてて嬉しいだけ」
馬の女神は答えた。
アンピエルは、頭上に浮かんでいたクロノクシフォスを思い出した。
空を見上げる。
そこにはもう何もなく、火星の山々の上、雲の向こうにかすかに見える太陽の光の筋だけがあった。
「剣が消えてる。
アレスを倒したのか?」
彼は訊いた。
エポナは頷いた。
「助けに来てくれて、ありがとう」
アンピエルは微笑んで言った。
「あんたのためじゃないし、バカ。
あんたが死んだら、誰がエポナに仕えるの?
そんなの許せるわけないでしょ」
エポナは、まだ潤んだ目で答えた。
「それでも感謝してるよ。
たとえ、お前が堆肥みたいな匂いでもな」
アンピエルは返した。
「命まで懸けたのに、その返しがそれ?
言っとくけど、みじめな馬小屋の女神でも、マラキムなんかよりずっと誇り高いんだから」
エポナはそう言って、誇らしげな顔を作ろうとした。
アンピエルは笑った。
「このマラキムは、神々の一団まるごと守られてたんだけどな。
お前だったら、そこまでしてもらえたか怪しいぞ」
彼は冗談めかして言った。
エポナは、かつて兄に撃たれた時のことを思い出し、頬の傷に触れた。
表情が曇る。
「……ううん、たしかに……そうかもね」
彼女は小さく言った。
「その顔、どうしたんだ?」
アンピエルは傷跡に気づいて尋ねる。
「これ? なんでもない」
エポナは答えた。
「今の方が強そうに見えるな。
昔の、甘やかされた小娘みたいじゃない」
彼はにやりとした。
「え……ありがと、かな」
エポナは赤くなって答えた。
「まさか、あんたに褒められるなんて思わなかった」
「お前がこの俺に尽くしてくれたことへの礼だと思え」
アンピエルはそう言って立ち上がり、自分を守ってくれたマラキムたちを見た。
彼らはまだ近くで回復しているところだった。
「あなたたちにも感謝する。
僕のことを何も知らなかったのに、それでも助けようとしてくれた」
アンピエルは軽く頭を下げた。
「アンピエル様、それくらい当然のことです」
一人のマラキムが答え、他の者たちも頷いた。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




