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第100章 ― タニアの記憶・後編

「この作品は純粋なフィクションであり、いかなる論争を引き起こしたり、人々の考えを変えたりすることを意図したものではありません。作品に描かれている出来事は、著者の見解を反映するものではありません。物語の一貫性を高めるために、一部の歴史的および神話的な出来事は改変または変更されています。この作品は、古代の出来事に関する歴史的または宗教的な言及を意図したものではありません。」

タニアは何度もマヌの地を訪れ、友セクメトに会った。

やがて人間のエジプトの都メンフィスにも足を運ぶようになる。

しかし、異国への度重なる訪問は、カルト・レルに不安をもたらした。

ついにハモンは、その奔放な妻を呼び出した。

巨大で薄暗い広間。

柱には恐ろしい顔が吊るされ、床には紫の巨大な絨毯が敷かれている。

タニアはバアル・ハモンの前に跪き、深く頭を下げた。

「最後に会ってから、どれほど経ったかな。我が愛しき妻よ」

「百年以上の人間の歳月が流れました、我が君」

「そうだ、タニト。我らの婚姻はこの国に安定をもたらした。

 そしてお前の人間界への訪問により、信仰は大いに広がった。

 すでに一部の祭司はお前の正体に気づき、

 “苦難から救う女神”として崇めている」

「見つかるつもりはありませんでした、我が君」

「立て、タニト」

ハモンは玉座に座ったまま命じた。

タニアは立ち上がる。

「ありがとうございます」

ハモンはゆっくり歩き始めた。

「カルタゴはリビア全土へ、さらにイベリア、

 そしてイタリア南部へと軍事的拡張を目指している。

 やがて我らはレルに並び、

 人間界最強の王国となる」

「私は戦を好みません」

「交易と外交で理解し合えるはずです」

ハモンは足を止め、苛立った視線を向けた。

「甘い幻想だ。

 他者が理解するのは武器の言葉のみ。

 槍を投げぬ者は、投げられるのを待つだけだ」

タニアは渋々頷く。

「レルの嫉妬深い神々も我らの繁栄を狙っている。

 テュロスやシドンを失った今な。

 さらにあの忌まわしい力がエジプトを脅かしている。

 今こそ帝国を築く時だ」

「私に何の関係があるのですか。

 私は人を助ける月の女神。

 槍と盾を持つ戦神ではありません」

「お前の力は成長した。

 カルタゴの信仰により、

 今やお前はカテレスと呼ばれるに足る存在だ」

「ですが私の力は――」

ハモンが床を強く踏み鳴らす。

「これは願いではない。命令だ」

沈黙。

「これよりお前は人間軍を率いる。

 将軍を鼓舞し、

 シチリアなどの地中海諸島へ戦を運べ。

 そしてマヌの地への立ち入りを禁ずる。

 エジプトと戦うことになろうとも、だ」

「……承知いたしました」

苦い声だった。

「では愚かなシド・バビと話し、拡張計画を進めよ」

タニアは礼をして去った。


カルタゴは拡張した。

タニアの力も増した。

マラキム、イギギ、敵のカテレスすら

彼女に敵わなかった。

セクメトに憧れ、

火を操る術を学ぶ。

「私はもっと強くならなければ」

北アフリカの大半はカルタゴの支配下に入る。

勝利の式典で黄金の首飾りを授かり、

“リビアの獅子”と称された。

だが地中海へ進出した時、

シチリアでギリシャの神ヘーパイストスに敗北。

屈辱の帰還。

「力が足りません。もっと。もっと下さい」

ハモンは微笑んだ。

「いずれさらに強くなる」

やがてローマとの戦い。

ヤヌス、そしてマルス率いる神々。

タニアは圧倒した。

だがマルスは決して退かなかった。

その執念が彼女を打ち破る。

再び屈辱。

「まだ足りない。もっとよこせ」

目は充血し、憎悪に染まる。

「すぐにだ、タニト。

 ローマの地方神どもを滅ぼすほどの力を与えよう」

闇は、ゆっくりと彼女を包み始めていた。

タニアはかつて憧れていたイベリアに身を落ち着けた。

だがもはや兎も夢もどうでもよかった。

彼女の胸にあるのは、ただ殺意と破壊衝動のみ。

火星を虐殺し、

ローマ神々の領域サトゥルニアの女王を名乗る――

それだけが望みであった。

ハンニバルという卓越した男を率い、

アルプスを越え、

ローマ神々に大勝利を重ねる。

ついにローマの目前で、

再びマルスと対峙した。

白と赤の鎧を纏った百人隊長の姿。

大剣と盾。

赤みを帯びた茶髪、濃い髭、緑の瞳。

激突。

今回はタニアが圧倒した。

敗れたマルスの喉を掴み、締め上げる。

「ユピテルとあの道化ヤヌスに伝えろ。

 サトゥルニアの女王は私だ」

血に飢えた声。

「どれほど戦おうと、

 無垢な赤子を焼いて力を得る怪物には屈せぬ」

マルスは息を詰まらせながらも睨み返す。

タニアは手を離す。

「……赤子?」

「カルタゴで赤子を焼く光景は楽しいか?」

「嘘よ!」

「嘘だと?

 数年前まで我らは同格だった。

 今やお前はユピテルすら超えた。

 何人の赤子の命で得た力だ?」

疑念が芽生える。

「嘘よ! 嘘よ!」

「お前は生贄中毒だ。

 今も何人焼かれている?」


ローマは落ちなかった。

カルタゴへ戻る。

神殿の隣に、

無数の墓の丘。

トフェト。

焼かれた幼子の遺骨。

戦争開始とともに始まった供犠。

赤子たちはタニトの力となっていた。

親が我が子を差し出す――

それが最大の信仰。

母の悲鳴をかき消すため、

楽師が太鼓を鳴らす。

タニアは吐いた。

自らの内から、

赤子の泣き声が響く。

「やめて! 知らなかったの!」

助けようと近づく人々を殴り飛ばす。

「虐殺民族め! 焼き払う!」

空へ逃げた。


「なぜ教えなかった!」

バアル・ハモンの前で叫ぶ。

「取るに足らぬことだ。

 レルの神々も同じだ」

「母も父も?」

「当然だ」

「怪物!」

「守るだと?

 欧州から逃げ帰った臆病者が?」

激情。

「全員殺す!」

玉座の間を飛び出す。

シド・バビの首を刎ねる。

「今夜、カルタゴは燃える」

マラキムも斬殺。

逃亡。


再びシチリアでマルスと会う。

「頼みがある」

虚ろな目。

「カルタゴの全住民を殺せ。

 女も子も。

 残りは奴隷に」

「僕は無辜を虐殺する神ではない」

「今回だけ」

マルスは沈黙し、頷いた。


酒に溺れる。

世界を彷徨う。

内側で泣き続ける赤子。

バルキノの汚れた路地に倒れる。

記憶が再生される。

赤子の霊が現れる。

何百も。

身体に這い上がる。

押し潰す。

「ごめんなさい!」

カルタゴ人の亡霊も現れる。

「なぜ見捨てた」

血走った目。

圧迫。

笑い声。

ハモン。

「誰も守れぬ臆病者」

合唱。

「死ね。死ね。今すぐ」

「いや……」

「せめて死ね」

赤子と亡霊に押し潰されながら、

タニアは抵抗をやめ、

目を閉じ、

運命を受け入れた。


注記


この節では、アッシリア帝国がレヴァント地方を征服した際のカルタゴの軍事拡大について考察します。ティルスからの経済的支援を失ったカルタゴは、自らの経済的自立を模索し始め、軍事拡大が可能となりました。

その後、彼はポエニ戦争の終わりにローマがカルタゴを破ったことについて語ります。

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「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」

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