第4話 あかねちんの生乳が拝めるぜ!
「あははーっ! あやつ何の役にも立たなかったね! いわゆるひとつの時間の無駄ってヤツ? あかねちん、ごみんねー。てへぺろ」
「みかんは何も悪くないわよ。あのおっさんが悪いのよ」
「ひええっ! おっさん呼びとかマジむかついてるヤツやん! ウケる!!」
博士との3D通話が終わり、再びみかんはベッドに寝転がる。そして私は、くるりと椅子をみかんに向けて腰をかけた。
みかんの言う通り博士と私の通話からは、何の成果も得られなかったのだ。むしろマイナス、時間の無駄だ。私が得られたのは、みかんに攻撃呪文を覚えさせることは無理と言うことだけだった。
とは言え、みかんも博士と同意見なのだ。だから実のところ、みかんに攻撃呪文を覚えさせて! って、私が駄々っ子のように駄々をこねているだけなのだ。
みかんは、んーっと呟いて、額に皺を寄せて片方の頬を膨らませた。
「ぷう~。僕は、それよりも博士の捨て台詞が気になるんだよなあ……」
「ああ、確かに」
博士は、こうも言ったのだ。
――『みかんに攻撃呪文を覚えさせることは出来ない』とは言ったが、何も対処をしないとは言っていない。
――まあ、最終手段だが、な。
博士は、意味ありげにニヤリと微笑んだ後、みかんの手のひらから一方的に消えたのだった。
言葉だけ素直に受け取れば、みかんに攻撃呪文を使わせずに、アリスに対処することが出来る……と言うことになる。けれど、あの博士のことだ、期待しない方が良いだろう。むしろ心配したほうが良いくらいだ。
「まさか、僕と栗鼠で「ゆりゆりロボ、ちょっぴりエッチで、お色気シーンもあるんだよ!」を実現しろってことかも。ひえぇ~!」
「うわっ! その可能性は十分にあり得る。」
「や、やみろー! 僕は、あかねちん一筋なんだからね!」
「……!! な、なに言ってるのよ! やめてよね!」
みかんからの真っすぐな言葉に思わず顔が赤くなる。いや、それは嫌悪感ではなくて、むしろ嬉しくてドキドキと胸の高まりが止まらないのだ。
「あははは! まあ、今、博士のことを考えても時間の無駄だよ。それより僕、今日は色んな事があってクタクタなのだよー。あかねちん! 一緒に、ひとっ風呂浴びて来ようぜ! てやんでぃべらぼーめぃ!」
「なんで急に江戸っ子口調?! うーん、みかんと一緒にお風呂か……女同士だし、まあいっか」
「ひゃっほー! 言ってみるもんだ! あかねちんの生乳が拝めるぜ! 行こう行こう! 乳揉ませろぃ! たらったら~」
「生乳って! そんな生々しい表現やめて! ってか、揉まないで!!」
「てへへへへっ。いいからいいから。細かいことは気にすんなし。さあれっつらごーっ! がったんごっとんとん!」
みかんから両手で背中を押されて、電車ごっこの如くお風呂場まで突き進む。楽しそうなみかんを見ていると、不思議と私の心も軽くなっていく。
――今、この時間が永遠に続くといいのにな。
私とみかんは、言わば博士の悪だくみによって作られた偽装された双子なのだ。けれど、今となっては、みかんと私の存在は、本当の双子以上に強い絆で結ばれていると思っている。
――とうっ!!
みかんは、脱衣所で元気よくパーカーワンピースを脱ぎ捨てた。
一瞬にしてパンツ1枚になるみかん。
その子供っぽい行動に似つかわしくない妖艶な身体つき。色白で細い身体なのに、豊満で形の良い胸。思わず見蕩れてしまう。
「ほら、あかねちんも早く脱ごうぜ! 僕手伝うよっ!!」
「や、やめてー!!」
みかんは、私のパーカーワンピースをスカートの裾から捲り上げ、結果私は、いわゆる茶巾寿司のような格好になる。
前が見えないうえに服を脱ごうとしても、みかんが上でスカートの裾を力強く掴んでいるものだから、脱ごうにも脱ぐことができない。
みかん視線では、おっぱい、パンツ丸出し状態で、中で私が、あたふた暴れている光景を眺める形になっている。
もう私、お嫁に行けない!
……まあ、男嫌いだから嫁に行かなくても良いんだけどさ。
「うわーあかねちん、えっろ! えっろ!! おっぱい揉み放題だ~! わーい! もみもみ!」
「こら! みかん! やめないと一緒にお風呂入ってあげないからね!!」
「ひゃあ!! それは勘弁してくだされ!! へへえっ!」
みかんは、すんなりとスカートの裾から手を放し、丸出しだった私の裸が再びパーカーワンピースに隠れるのだった。
私の前でひれ伏すみかん。一緒にお風呂入れないのは嫌なんだ。私は、意味不明なみかんの行動に少し笑ってしまう。
まったくもう。怒られるのがわかっててやるのだから、みかんの精神年齢は小学生レベルだ。私は服と下着を洗濯機に脱ぎ捨てて、お風呂場へと向かう。
「さあ、早くお風呂入っちゃいましょ! こんな格好してたら風邪ひいちゃう」
「ふおお! あかねちん待ってよー! るんたったっと」
みかんは急いでパンツを脱いでパタパタと飼い犬の様に後ろからついてくる。こういう所は可愛いんだけどな。
シャワーをみかんの身体にかけると、みかんは、キャッキャ言いながら喜ぶ。本当にロボなのかと疑ってしまうくらいに。
そう言えば……
「ねえ、みかん? あなた水がかかったら錆びちゃうんじゃない?」
「ほよ? 散々シャワーぶっかけといて、今さら言うなし。もちろん塩ビ加工で防水は万全だよ!」
「塩ビとか。そんな現実的なものを……あれ、逆に蒸れて濡れそうじゃない?」
「ふあっ! それなっ!! さすがあかねちん、するどい!」
塩ビ、つまりポリ塩化ビニル加工なんて、絶対嘘だ。また、みかんは博士から余計な知識を吹き込まれたのだな。あの素人童貞クソニートろくなことしか教えないんだから!
私はボディソープを手に取り、たくさんたくさん泡立てて、みかんの身体を丁寧に洗う。背中から腰、そして、お腹から胸のふくらみへと……
――きめ細やかな肌
――すべすべしてる……
「あかねち~ん。手つき、えっろ! 僕、感じちゃうう~。あはんっ」
「感じるとか知識で言ってるだけで……嘘でしょ?」
「んんー。ところが、そうでも無い。博士が「性感帯の設定には一番チカラを入れている!」って、腰に手を当てて威張ってたし。あはは。アホや」
「あのド変態博士は、どうしようもないわね。ほら、脇の下を洗うから、手を挙げなさい! はいバンザーイ!」
「わーい! ばんざーい」
みかんは子供の様に、元気に両手を上げる。こう言う無邪気な姿を見ていると、さっきまでアリスと熱戦を繰り広げていたなんて信じられない。
今、冷静になって考えてみると、みかんが攻撃呪文を使って戦う姿なんて想像つかないな。
他に手はないのだろうか……
次、いつアリスに襲われるかわからないのだ。
ずっと美由宇についてきてもらう訳にも行かないし、もしかしたら家の前で待っているかもしれない。本当に、このまま時間が止まってしまえばいいのになあ……
「ねえ? みかん……」
私は、みかんの脇の下を洗いながら、彼女の顔を見ないようにして問いかけた。
「なにぽよ?」
「あのさ、みかんの瞬間移動で、一緒に遠くに行って暮らさない……?」
「ほよ?」
私からの突然の提案を みかんは理解しきれなかったようで、ポカンとした顔をして固まってしまった。
それはそうか、突然すぎるもんね。でも言わずにはいれなかったのだ。今となっては、私の家族、そして私の大事な妹。
「えっと、うん。最近、色々と周りが騒がしいじゃない? だから、私たちのことを誰も知らない街に行こうよ!」
「ほうほう。それは楽しそうだにぇ……イチャイチャし放題だあ!」
「でしょでしょ? 一緒に暮らそうよ! 私達のことを誰も知らない土地で」
「ほよよ? あかねちんがイチャイチャし放題を受け入れるなんて珍しいねー。一体どしたん?」
みかんは、頭を両肩に向けて順番に傾けながら、不思議そうな顔をする。さすがに、みかんの優れたAIでも私の気持ちを理解できないようだ。
「いや、うん。そうなればいいかなあ……なんてね。」
「うーーーん。かなり魅力的な提案だけどさーあ? でも僕、行けないよ。」
「……え? なんで?」
みかんは清々しいほどに、そしてキッパリと私からの提案を断った。
それがまるで当り前で、既に決まっている事案の如く。そして、私の目を真っすぐに見つめて、我が子を諭すかのようにみかんは話し続けた。
「あかねちんに前から言ってるように、僕は家庭を守るために作られたロボット。だから、いつ栗鼠が変な気を起こしても、みんなのことを守れるように見張っておかなきゃ。あかねちんの気持ちは嬉しいけどダメだあ。ごめんね、あかねちん……」
「そ、そうだよね! 冗談よ。冗談! さ、洗えたよ!」
私は、みかんからの回答を想定していたかのように振る舞った。でも、「みかんと一緒に平和に暮らしたい」ことに嘘は無い。
みかんは、おバカだし、変な言葉使うし、セクハラするし……でも私のことを一番に理解して考えてくれている美少女アンドロイド。
ずっと私が、みかんから目を離さない様に見張っておかなくちゃ。みかんがムチャをしない様に、私が見張っておかなくちゃ。
私が、私が……
ずっとみかんと一緒に居るために。




