第3話 いい、いいぞ。もっとだ、もっとくれ、あかねくん。
――やっほーぉ!
――はーかーせーえっ!!
手のひらに乗った小さな博士に、元気よく挨拶をするみかん。
博士は前回同様、白衣姿で某美少女戦士ペリキュアのお面を被っている。その姿は誰が見ても不審者だ。むしろ、さっきのスウェット姿の方が好感が持てる。
まあ、何日も洗濯していないようなスウェットの好感レベルだって、超、超、低いけれど、今の姿よりは数千倍マシだ。
『なんの用、だ……?』
博士は、そんな私の気も知らずに不機嫌な口調で応える。本人的には格好つけているつもりなのかも知れない。だとしたら見当違いも良いところだ。
「うっわー。はかせが格好つけてるー! あかねちんと話せるからホントは嬉しいくせにー! 無理するなよう! うりうり」
『う、うるさい!』
「うわー! 否定しないでやんのー! きもーい! あははは」
図星を突かれて慌てる博士に遠慮なくツッコミを入れるみかん。……と言うか、私と話せて嬉しいとか、私を巻き込むのマジやめて欲しい。キモすぎて鳥肌が立ってる。
『うるさいうるさい! だから何だ?! 早く用件を言え!!』
「あはははは! ごみんて。怒らないでって。あはははは! ちょーウケるー! えっとねー博士、アレ知ってる?」
『アレ。じゃわからん』
「そかそか。えっとえっと。あかねちん……なんだっけ?」
「なんでよっ!」
まったくみかんは、こういう時全く役に立たないんだから!
とは言え、いきなり博士に不躾に、アリスって誰? って聞いたところで、わかる訳がないよね。
えっと……
アリスとマリーは同じ博士から作られてるみたいだから、彼女らを作った博士のことを聞いてみるのが良さそうかな。
たしか、マリーが私のクラスに転校してきたとき、自己紹介で「姫宮・マリー、何とか」って、とても覚え切れないくらい長い名前だったっけ。
マリーの名字は、生みの親の博士から取っているだろうから、ほぼ間違いなく姫宮だろうと予想される。
うん。
まずは、ここから探ってみるか。
「あの、博士……Dr.姫宮をご存知ですか……?」
『知らん』
「!!!!」
即答とか!
会話終わっちゃったじゃない!
私と話したいと思うなら、話を広げる努力をしなさいよ!!
わからないにしても、少しくらい考えてくれたって、むしろ、考えるフリしてくれたって良いじゃない!
これは、あからさまに私に対して嫌がらせをしているとしか思えない。やっぱり、この素人童貞クソニートとは話したくない。改めて心の底から思う。
ああーーーっ!
もうストレス溜まるわー。
そんな私の不機嫌な表情を見て、みかんはケラケラ笑いながら割って入る。
「あはははっ! あかねちーん、そんなに怒らないでおくれよー。博士ってば、友達とか居ないから、誰か知ってるか聞かれても、考えるまでもなく答えはNO、即答なんだよー。あははは」
「そ、そうなの……?」
確かに、美少女戦士のお面を被っている、むしろ、独り身のおっさんがお面を持っている時点で、友達なんて居る訳が無い。
一歩間違えたら警察に通報されてしまうレベルだ。正直、私が今通報したいくらいだ。
「あーでも、鞠と栗鼠は、姉妹想定ロボで余り居ないだろうから、博士でも知っていると思ったんだけどなぁ。博士のことを少しでも期待した僕がバカだった。この役立たずめ。てへぺろ」
「みかん、まあ、しょうがな……」
『鞠は、マリー、栗鼠は、アリス? それはアンドロイドの名前……か? 天然お嬢様キャラとヤンデレ大好物キャラの。』
博士は私の言葉を遮って、口を開いた。まさか、マリーとアリスを知っている……?
当然、お面の下の表情は全く読み取れないけれど、口調からは明らかに心当たりのあるソレだった。
ヤンデレ大好物キャラと言う表現は、どうかと思うけれど、特徴から言って、ほぼ、マリーとアリスのことで間違いなさそうだ。
天然お嬢様キャラとヤンデレキャラ。まあ、大好物と言うワードは、お互いの幸せのために聞かなかったことにしよう。
「そうです! 姫宮マリー、アリスです!」
『そうか。ちなみに姫宮マリーのフルネームは、姫宮・マリー・クロティルド・ルシール・ラプラード、か……?』
「すっげー! 博士のくせに長い名前を噛まずに言い切ったあああ! コミュ障のくせに! 一日で話す唯一の言葉は、コンビニで「温めます」だけのくせに! スゴい……を通り越してキモい!!」
『うるさい黙れ』
「まったく。話がややこしくなるから、みかんは黙ってて!」
「ちぇーわかったよー。てへぺろ」
Dr.姫宮を知らないのに、姫宮マリーは知っている……?
もしかして、マリーを作った博士は、姫宮博士とは別人と言うことかしら……?
「博士……! その通りです! マリーのことを、ご存知なのですか……?」
『ま、まあな。だがワシは、アリス様推しだがな。これだけは譲れん』
「聞いてない! って、いつの間にか様呼びになってるし!」
『そう、前にアリス様と偶然すれ違い、そして奇跡的に目が合った。それは運命の出会いと言っても過言ではないだろう。その時アリス様は、間髪入れずに、ワシの こめかみにハイキックをくださった。今となっては良い思い出だ。スカートがめくれて下着が見えそうで見えないチラリズム……ご馳走でしかなかった』
「キモッ!!」
私は博士のことを、ゴミを見るような目線で冷たく見つめた。
『あかねくん……その視線、いい、とてもいい……もっとくれたまえ……もっとだ。』
「ひえっ!」
さすがドMっ!!
博士のことを知ってから今まで、良い印象がヒトツもないのも珍しい。この人、面接とかで長所を聞かれたら何と答えるのだろう。長所が全く見当たらない。
いけない。あまりのショックに自分を見失ってしまった。
――話を元に戻さなきゃ。
「じゃ、じゃあ、アリスを作った博士のこと知ってるんですねっ?!」
『アリスたんのことは知りたいけれど、作ったヤツには興味がない。』
「挙句の果てに、アリスたん?! このおっさんマジ無理! きもっ!」
「あははーっ! こんなのに作られたと思うと泣けてくるわー。ばくしょー」
みかんの嘲笑「ばくしょー」を久しぶりに聞いた。貴重な情報どころか、知りたくなかった情報が盛り沢山だ。
でも博士と話す機会なんて滅多にない (と思いたい)し、少しでも収穫は欲しい。
――あ、そうだ……!
「みかんは、攻撃呪文が使えないのですよね? あの、みかんにも何か攻撃呪文を搭載できないですか? ご存知の様にアリスは攻撃力がUS+で、みかんに強い敵対心を持っています。このままでは、みかんの身が危険です!」
『そうか……だがしかし、みかんに攻撃呪文を覚えさせることは出来ない。』
「な、なぜですかっ?!」
『答えは簡単だ。みかんに攻撃呪文を覚えさせてしまうと、セカイ系の物語になってしまう恐れがある。この物語は、日常系だけれど、ちょっぴりお色気で、軽く百合も入っちゃうんだからね! なのだ。ワシの物語にセカイ系はいらん。』
「バカじゃないのっ?!! そんな呑気なこと言ってたら、みかん死んじゃう!!」
『いい、いいぞ。もっとだ、もっとくれ、あかねくん』
――このドM博士、一度死んでくれないかな。
私は深く溜息をついた。




