第C話 胡桃沢あかねさんって、こう言うの好きなんじゃないですかぁ?
宿敵アリスを私たちの仲間になんて、ありえない!
けれど、さっきアリスは私の耳元で囁いた。
――私、知ってるよ。
――ばらしちゃってもいいのかな?
……なに?
いったい私の何を知っているの?
とても気になるけれど、怖くてアリスに続きの言葉を聞くことが出来なかった。
うん。単なるカマかけだよね。
だってアリスとは今会ったばかりなのに、私の秘密なんて知るわけがない。
いや、でも、彼女の自信あり気な表情を見ていると強ち嘘とも思えない。彼女の思考が全く読めないだけに恐怖心が倍増する。
――成績優秀
――美人
――品行方正
――スポーツ万能
――清楚
決して、決して、これらのイメージが壊されることがあってはならない。小さいころから少しずつ固めてきた私のイメージだ。
私は、みかんに向けて、助けてと視線を送る。
もう私の中で解決できる問題では無い。最近すっかり、みかんへの頼りグセがついてきているのは良くないと思うのだけれど……弱くなったのかな私。
こんな時のみかんは頼り甲斐がある。
みかんは私の視線に気づいて、左手の親指を私に向けて笑顔で応えた。
「あかねちん! 任せて!!」
……本当か?
こんな信頼性の薄いサムズアップは生まれて初めて見る。一抹の不安しかない。
マジで前言撤回するぞ。頼り甲斐。
すると、みかんは突然、腕組みをして、頭を右肩、左肩の方向へ交互に倒しながら何かを考え始めた。
……ん、なになに?
これは、アリスへの対処方法を真剣に考えてくれていると言うことなのか。本当に私の気持ち分かってくれているじゃないか!
さすが、みかんだ!
私が心の中でガッツポーズをすると、みかんは能天気に歌い出した。
「んんんーんーんー。どうしよどうしよっ、どうしよっかなあ……てへぺろぺろりんぺろりんちょっちょっ」
前言撤回確定だった。やっぱり、こいつ、全然わかってねえ!!
みかんが、お気楽に悩んでいる様子を見て、美由宇は更に訴えかける。
「師匠! どうでありますか?! 中々の名案だとは思いますにゃ!!」
「うーーーん……どうでありますか! と言われてもなー……不思議なことに栗鼠ちんを仲間にするメリット……ボクには、なぁんも思い浮かばないのだよーなぁんもね。全く。てへぺろ」
「しょ、しょんにゃあ! ししょー!!」
「あ、そだ。あかねちーん。どしたい?」
振る?
この状況で、私に振るっ?!
もちろんアリスを仲間に引き入れるメリットなんて、考えるまでもなく、言うまでもなく、何もない。全くだ。
むしろ、デメリットしかない。
これ以上、不安材料を増やしたくないのが正直なところで、出来ることならバッサリスッパリ、アリスのことを切り捨てたい。
――私、知ってるよ。
――ばらしちゃってもいいのかな?
そう。ここで選択肢を誤ると、とんでもないことになる。私の答え次第では取り返しのつかないことになる。私は、無意識にアリスの方を凝視した。
すると、私の視線に気が付いたアリスは、ニッコリと首を傾げてチャーミングに微笑んだ。
――あのこと言ってもいいんだよ。
アリスは声を出さずにパクパクと私に語り掛ける。
なんだ?
なんだ?
なんだ?
アリスは、私の何を知っているんだ……?
まずは、それとなくアリスに探りを入れてみよう。だってアリスは、美由宇と仲良くなりたいだけで、私達と仲良くなりたいわけじゃないんだよね。たぶん。
私はアリスに念押しする。
「アリスちゃんは、美由宇ちゃんと仲良くしたいんだよねっ?! ねっ?!」
「んーとぉ……アリスはぁ~。もちろん飛田万里さまと仲良くしたいけれどーぉ、胡桃沢さん姉妹とも仲良くなりたいなー! って思うの。えへっ!」
「うっ……」
えへっ。じゃねえよ!
こ、こいつは心にもないことを……!
あくまでもアリスは、私達、いや、私を逃がす気は無いみたいだ。私は、簡単にアリスから逃げ道を塞がれてしまった。
私が言葉を失っていると、みかんが横から助け船を出してくれた。
「じゃあさー、栗鼠ちゃんが僕たちの仲間になるメリットってなんだろーね? てへぺろ」
おっ!
みかんって意外と損得で物を考えるタイプなんだよな。何も考えていないようで、中々痛いところを簡単に突いてくる。
すると、アリスは手を顎に当てて、再び首を傾げながら、
「えっとお……アリスがぁ、胡桃沢さん達にできることはあ……」
アリスは一息ついて、たたたたたっと、私の背後に駆け寄った。
――ぎゅっ
「!!」
アリスは後ろから私の腰を両腕で包み込み、キツく抱きしめた。
私の背中にアリスの身体が密着する。アリスの小さな胸が私の背中に強く押し付けられ、そして、アリスは、右膝を私の足の間にゆっくりと艶めかしく差し込んだ。
想定外のアリスの行動に、膝がガクガクと震えているのが自分でもわかる。
そして、腰に当てられていた両手が上に伸びてきて、胸の下に触れ……ついに、小さな手が、そっと私の胸を包みこんだ。
「ちょっ! ちょっと何してるの?! やめて!!」
「あれー……? 胡桃沢あかねさんって、こう言うの好きなんじゃないですかぁ?」
アリスは、右手を、私の胸から、顎に移す。そして、私の顔をクイッとアリスの方に振り向かせた。
私の目の前にアリスの目が、唇が近づいてくる。アリスの唇に私の唇が引き寄せられ……
「やめて!!」
私は、あと数ミリのところで我に返り、アリスの胸を思い切り突き飛ばした。その反動でアリスは、意外なほど、あっさりと力無く後ろに倒れ尻もちをつく。
「いたーい!! ひどーい。だって、こう言うの慣れてるでしょ? 胡桃沢あかね、さん?」
「!!!」
アリスは尻もちをついたままの姿勢で、私のことを妖艶な目で見上げる。その魅惑な視線に思わず釘付けになってしまう私。
この娘……一体何を知っているんだ?
何を考えているんだ?
ま、まさか……っ!!
――みかんの充電方法を知っている?




