第A話 聞いて驚けにゃ!
みかんは周りの惨憺たる風景を見渡し、んーと両手をグーにして握り伸びをする。
「さてさてー、このぶっ壊れた校舎とか穴っぽこ達を何とかしないとねー……! 僕がやったんじゃないけれど、ここは僕が一肌脱ぎますかあ! てへぺろ」
「にゃっ!! いよいよ大魔術のお出ましですかにゃ師匠!!」
みかんは、アリスに対して呟やいたのだけれど、過剰に反応したのは美由宇の方だった。
確かに、みかんの呪文は、ある意味魔法なのだから、大魔術と言っても概ね間違ってはいない。
あえて違うところを言うのであれば、マジシャンの使う大魔術は必ずタネ、仕掛けがある。だけれど、みかんの使う魔法はタネはない、ガチなのだ。
一方のアリスは我関せずと、熱い視線を美由宇に送り続ける。だがしかし美由宇は、アリスの視線なんて眼中にないらしく、みかんに対しての猛アピールが止まらない。
これで、みかんがアリスのことを好きだったら、恋のトライアングルが完成する。……完成したら困るけれど。
そんなことを気にも留めない みかんは、美由宇の言葉をサクッと聞き流し、手慣れた動きで修復魔法を唱える。
「大魔術ねぇ……まーそんなところかなあ。れぱらとぅーあ! っと。てへぺろ」
みかんが呪文を唱えると青白い光が、ぼやっと校舎の壁、大きく掘られた穴を包み込む。そして、粉々になった壁の欠片、大量の土が元の場所に戻っていく。
今はまだ時間が止まっている状況で、人に見られる心配もないからか、みかんは大々的に堂々と遠慮なく気持ちよさそうに、必要以上に魔法を使いまくった。
美由宇は、建物が修復している過程を見ながら、アリスに向かって誇らしげに語るのだった。
「ほらっ、栗鼠! 今の見たかにゃっ?! 壊れた建物が一瞬にして元通りになるにゃんてありえないにゃ! 師匠は凄いのにゃ! 神にゃ!!」
「あ、え、えーーーとぉ……そう、ですね」
ばばばーん! と腰に手を当て胸を張って自慢する美由宇に、アリスは困惑している。美由宇の熱視線は、もはや否定を許さないものだった。
とは言え、アリスも攻撃魔法は使えるのだから、修復魔法も使えるのかもしれないが、ドヤ顔の美由宇に対して何も言い返すことはしなかった。
アリスも美由宇の夢を壊したくないのか、アハハッと愛想笑いを浮かべるのが精一杯なようだ。
アリスは、美由宇にずっと熱い視線を送っていたが、不意に目線を逸らし振り返った。
そして、口をギュッとつぐんで「うーーーん」と呟き、斜め上を見ながらトコトコとウサギのヌイグルミに向かって歩いていく。
そのアリスの姿は、美由宇に対するリアクションに困り、言い訳を考えるために時間稼ぎをしているようにも見えた。それだけ美由宇のことが好きなのか。
美由宇は、アリスの背中に向かって追い打ちをかけるように、言葉を投げかけるのだった。
「そうにゃ!! 栗鼠も女子高生お悩み相談ツインズの一員になれにゃ!」
「ふえっ?!」
アリスは、ウサギの耳を掴み、拾いあげながら妙な鳴き声を発した。そして、ぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
「だ、か、ら! 女子高生お悩み相談ツインズにゃ!」
「女子高生、ツインズ……って、双子? ……誰が双子になるんですか?」
美由宇からの意味不明な提案と要求に、ほとほと困り果てた様子のアリス。いくら美由宇の頼みとは言え、訳の分からない集団には入りたくないようだ。流石にそこら辺の分別はついているらしい。
そして、美由宇は再び両手を腰に当てて胸を張り、誇らしげに言い切った。
「聞いて驚けにゃ! そこにおられる、みかん師匠と、あかねちゃんは二卵性の双子なのにゃあ!!」
「胡桃沢みかんと胡桃沢あかねが、双子……? そんなことがあるわけ……」
「ふふふふふ……全然似てない お二方が双子と聞いて信じられないのも無理はにゃい。でもそこが栗鼠の考えが浅いところにゃ! 二卵性だから顔が似てなくても双子なのにゃ!!」
「い、いや、二卵性自体の意味は、わかりますけれど、そんな強引な設定……」
私達のことを、まるで自分のことの様に自慢する美由宇に、アリスは何か言いたげだった。
きっと、事実を知っているアリスは、ロボのみかんと、人間の私、双子である訳が無いと言いたいのだろう。
確かに、こんな強引な設定ありえないよね。それに関しては私も激しく同意するわ。
だけれど、美由宇大好きのアリスとしては、彼女の言葉を全否定するなんて出来なかった。だから、無理矢理、彼女の中で納得しようとしている……ように見えた。
そして、美由宇は困惑するアリスに近づく。更に、アリスの顔に自分の顔を近づけて、「入るかにゃん? 入って欲しいにゃ♪」と節をつけて歌い出した。
「入るかにゃ? 栗鼠ちゃんも、お仲間に入るかにゃんにゃん♪」
「ひ、飛田万里さまあ……そんな近くに来たら……アリスちょっとヤバい、ヤバいヤバい……ハァハァ……」
アリスは頬を赤らめて小刻みに震え恍惚の表情を浮かべていた。




