第8話 アリスの想い受け止めてねー!
ここは人気のない校舎裏……
マリーとの戦闘での被害に備えて、みかんの呪文で異空間に移動したのだけれど、新しく登場したアリスによって現実界に引き戻されてしまった。
こんなところでアリスに、あの高速爆速ビームを喰らったら、校舎が破壊されるどころじゃない。最悪、大勢の死人が出てしまう。
「アリスちゃん! やめて! せめて異次元で戦って!」
必死に私はアリスに懇願する。
が、アリスの表情は変わらない。むしろ死んだ目で私のことを蔑んでいるようだ。
そして私の言葉が彼女に届いているのか、いないのか……ウサギのぬいぐるみの耳を掴んだままボーッと立っているその姿は、生命力と言うものが全く感じられなかった。
彼女の姿、それこそがアンドロイドと言うことだろうか。
「ねえ?! 私の話聞いてる?!」
聞こえないのか?
私は、出来る限りの大声で叫ぶ。
するとアリスは面倒くさそうに、機械的に顔を振り、やっと私の方に目線を向けた。
「私には関係ねぇな。うざっ」
――シュピューン!!
アリスは面倒くさそうに、人差し指を私の足元へ向けて、片手間にビームを放った。
「きゃあ!!」
私は、すんでのところで跳びあがりビームを避ける。威嚇射撃かもしれないけれど、彼女的には当たっても問題なさそうな素振りだった。
そして、みかんも面倒くさそうに溜め息交じりに呪文を唱える。これはアリスの真似をしたかっただけに違いない。
「はあ、仕方がないなあ……つぁいとあんはるてん! てへぺろ」
みかんの指から空間上に暗闇が放たれ、辺り一面がモノクロに置き換わっていった。校舎や木々、花、渡り廊下……全ての景色が次々にモノクロに変わっていく。
これは交差点で、みかんが先輩を助けた時に使った呪文と同じものだ。
と言うことは、時間が止まったと言うことか。
「チッ……余計なことしやがって。けどな、状況は全く変わってないんじゃないか? 時間が止まって人間が動けなくなった分、死人が増えるな。ウケる!」
「んー……まーそうかも。でも人に見られるとめんどいから、とりま時間止めてみたよ。あはは」
「……チッ。うざっ」
気に入らなそうに舌打ちするアリス。けれど、人に当たらなくても校舎が破壊されたら意味がない。
――いや、ある。
みかんは破壊された物体を修復する呪文を持っている。それなら、校舎を壊されようが戻してしまえば問題ない。
アリスは大声で叫ぶ。
「まあいい。時間が動いていたって止まっていたって、やることには変わりはない。お前をぶっ壊せば良いだけなのだからな!」
「うはあー。そうだった! それやべー! 僕死んだら台無し! あはは!」
アリスの言葉に、みかんは緊張感無く他人事の様に笑う。この余裕、何か策があってのことだったら良いのだけれど、みかんに限ってそんなことは無いだろう。
ノープラン。
え、待って?
万が一、みかんがアリスに倒されてしまったら、呪文で環境を修復することが出来なくなってしまう。
それに、みかんが居なくなると時間を動かせる人も居なくなっちゃうってことだよね。それって、一生時間が止まったままなんじゃないの?!
それは嫌だ。
時間が止まったまま人生が過ぎていくなんて、年老いて行くなんて。
それならいっそ死んだ方がマシじゃないか!
「みかん! 呑気に笑ってる場合じゃないわよ! どうにかならないの?!」
「あー、ううーん。やっぱし、あかねちんが僕の盾になれば良いと思うよー。僕が死んじゃうより、あかねちんが死んだ方が世界のためには良い感じじゃね? てへぺろ」
「いや、やめて!」
「あはは! じょーだんじょーだん! ……たぶん」
「きゃーっ! その たぶんやめて!!」
――ピュイーーン!!
「うわっとぉ!」
――ドガーン!!
みかんはアリスから発射されたビームを華麗に避ける。と、ビームは、そのまま校舎に当たり、壁が木っ端微塵に砕け散り大きな穴が開いた。幸い人は居なかったようだ。
時間が止まっているから人に見られない反面、時間が止まって動けない人々は、ビームを避けるために逃げることもできない。これは大きなマイナス要因だ。
と言うか、アリスはマリーと違って、私とみかんの無駄話を待っていてはくれなかった。まあ当然と言えば当然だけれど。
「良くこんな状況で、無駄話とか出来るなマジで。バカじゃね?」
「ええー。そんなに誉めるなよ~。てへぺろ」
「うざっ! 誉めてねえ!」
――シュピーンッ!
アリスは叫び声と共に、みかんに向かってビームを発射した。みかんは思い切り手を伸ばしビームを受け止める。
「れふれくすぃおーん!!」
ビームが、みかんの手のひらに吸収された瞬間、そのまま手を地面の方に向けると、吸い込まれたビームが地面に向かって勢いよく発射された。
――ドゴーーーンッ!
ビームが当たった地面には、大きな穴が開きモクモクと砂埃が舞い上がる。私は砂埃に視界が遮られ、息が出来なくなりゴホッゴホッと咳が止まらなくなる。
けれど、ロボの二人には影響が無かったみたいで、みかんはアリスに向かって首を振って、やれやれと再び溜め息をついた。
「冗談が通じないな、あ栗鼠ちゃんはあ……てへぺろ」
「あ栗鼠とか言ってるんじゃねーぞこら。バカにしてるのか?! てめぇ絶対ぶっ殺す。そもそも呪文唱えなきゃビーム返せないとかウケるわ。しかも手で受けるとか連続でビーム打ったら終わりじゃね……?」
「うわあ! 気づかれたーー!! ぐは……っ!」
――シュピーンッ!
――シュピーンッ!
みかんの言葉が言い終わる前に、アリスは指を上から下へ二回振り下ろし連続でビームが発射した。
……やばい!!
マジで二連続で、みかんに向かってビームを撃ってきた!
「うひょー! れふれくすぃおーん……かけに! てへぺろ」
かけに……?
みかんは二発のビームに向けて両手を向けると、右手、左手にビームが吸収された。そして みかんは、さっきと同じように地面に向けてビームを反射させた。
――ドゴドゴーーーーンッ!
そうか、かけにって、×2ってことか。呪文を計算式で省略することができると。もうメチャクチャだな。
アリスは、みかんを眺めてニヤリと微笑む。
「ふーーん……それ、二発だから両手で受けられたけれど、三発連続撃ったらどうなるんだろうな。足で受けるか? ちょーウケる!!」
「それな! あー、うーーん……あかねちんの手貸してくれない? てへぺろ」
「手が吹っ飛ぶわ! 無理!!」
「あ、やっぱし? てへぺろ」
まったくみかんのマイペースには困ったものだ。
さすがにみかんの手は二本しかないのだから、同じように×3とか言って、三発目のビームをかわすのは難しいだろう。
絶対にビームを避けることができない私たちの状況に、アリスは不敵な笑みを浮かべた。
「じゃーあー、次、三発連続でいくよーぉ! アリスの想い受けとめてねー! いーち!」
アリスはアイドルのライブMCのような口調で右手を挙げて、みかんに呼びかけ……そして一発目のビームが発射された。
――シュピーンッ!
「にーい!」
――シュピーンッ!
「「れふれくすぃおーんかけに!」」
みかんは早口で両手を広げビームを受ける姿勢に入った。だけれど……
「さーん!」
みかんがビームを受ける前に、アリスは三発目のビームを発射する体勢に入った。
――間に合わない!!
今にも手を上から下へ振り落とそうとするアリス……とても見ていられない。私は思わず目をつむった。
――きゃああああっ!!
画:嶋田美由(空想代理人達のアトリエ)




