第7話 悪役令嬢アンドロイド
遠くの方に小さく見える人影。
――シュピーーーンッ!!
――シュピーーーンッ!!
――シュピーーーンッ!!
その人影から次々とビームが発射される。
さっきの途中で失速するマリーのビームとは違い、まともに遠距離まで飛ぶ、それはもう超つよつよのビームだった。
「危ない! あかねちん!」
「きゃあ!」
ビームが飛んでくるその都度、みかんは私のことを突き飛ばし、ビームを避ける。
――シュピーーーンッ!
「あかねちん! あぶない! どーん!」
「きゃー! いたぁい!!」
――シュピーーーンッ!
「あかねちん! 今度はこっちだ! あはははは! えいっ! どーん!」
「きゃーっ! だから痛いって! みかん強く押しすぎ! もっとやり方があるでしょ?!」
「あ、ああ! ごみんごみん。ちょっと楽しくなっちゃってた。えへへ」
「もうっ! やめてよね!」
みかんは頭をポリポリと掻きながら、ヘラヘラと笑っている。まったく、緊張感の欠片もないんだから!
みかんのバカ力で何回も突き飛ばされたら、それはそれで大ケガしそうだ。
――シュピーーーンッ!
次のビームが、遠くから的確に発射される。
またみかんから突き飛ばされるのではないかと身構える私だったが、みかんはビームに向けて手のひらを開き呪文を唱えた。
「れふれくすぃおーん!! てへぺろ」
するとマリーの時と同じようにビームの光が、みかんの手のひらに吸い込まれた。
――ビュイーーーン!!
なんとっ!
みかんの手のひらから遥か彼方にいる人影に向けて、同じ威力のビームが放たれたのだ。
「なによ! やればできるんじゃない! それ最初からやりなさいよね!」
「えへへ。ちょっとした いたずら心ってヤツだよ。ほら、みかんって愉快でちょっぴりお茶目な美少女ロボだから。美少女ロボだから。だから。ごみんごみん。てへぺろ」
「自分で、お茶目な美少女ロボとか言わないでよ! それに、大事なことだから二回みたいに美少女ロボを強調しないでよっ! こんなのお茶目レベルで収まらないわよ!」
「そかなあ……人間ってむつかしーね。それよりも、さっき返したビーム当たらなかったみたいだねー。手ごたえが全くないや。やっぱUSプラってすごいやー。言うて僕もUSプラだけど。僕もすごかった。てへぺろ」
みかんは遠回しに自画自賛したが、状況的にそこはスルーした。
言われてみれば、確かにマリーのビームを返した時とは違い爆発音がしなかった。これは、みかんからのビームを相手に避けられた……と言うことなのだろう。
それでもみかんは、自発的に攻撃呪文を使えないと言う大きなハンデがある。相手の攻撃を全てかわすことができるのか、とても心配だ。
「うっざ、クソロボがヘラヘラしてんじゃねーよ!」
さっきまで見えないくらい遠くにいたと思っていた人影が、一瞬にして目の前に現れた。それはまるで、みかんの瞬間移動のように。
私は女の子の姿を見て驚いた。その乱暴な言葉遣いとは裏腹に、とても可愛い女の子だった。
まず、印象に残ったのがツインテール。
耳の上に結び目が来る、いわゆるラビット・スタイルツインテール。そして頭の上には大きな赤いリボンを結んでいる。
カットソー・Tシャツを着ているのだけれど、フリル襟に、袖がバルーン・スリーブになってる。襟と袖はダークブラウン。
そして、三段のフレアスカートもダークブラウン。靴はリボンと合わせたのか、赤色のロングブーツを履いていた。
年齢は私たちと同じくらい。妖艶な顔立ちで綺麗な女の子だ。言葉は乱暴だけれど、口を閉じていたら清楚な女の子にしか見えない。
ただ、狂気と感じたのは、表現が的確か微妙な所だけれど目がイッってしまっている。正気の沙汰とは思えない、その目つきは悪役令嬢を思わせる迫力で、私たちのことをジロっと睨んでいる。
左手には、かわいい大きなウサギのヌイグルミが握られていた。抱いていたのではなく握られていた。
あえて握られていたと言う表現を使ったのは、とても大きなピンク色のウサギの大きな片耳をギュッと握っていたからだ。
ウサギの体長は、地面から、その娘の胸くらいまでの大きさ。女の子は、ウサギのピンクの片耳を左手で掴んでズルズルと引きずっているのだった。
「ホント役に立たねーな。うざっ!」
ツインテールの女の子は、その顔に不釣り合いで辛辣な言葉をマリーに向かって吐き捨てた。
……え、マリー?
確かマリーは彼女のビームを喰らって吹っ飛ばされたハズじゃあ……
「ア、アリス! ごめんなさいですの!」
あれ?
いつの間にか、マリーが女の子の目の前に現れていた。さっきまで見えなかったのに、一瞬でマリーが私たちの目の前に現れたように見えた。
これは、このアリスと呼ばれる女の子の能力なのか?
「ウッザ! 呼び捨てにしてんじゃねーよ この底辺ロボがっ!」
「ご、ごめんなさいですのアリス様! 許してくださいですの!」
「あはははっ ちょーウケる! ……マジ死んでほしい」
「お願いですの、勘弁してくださいですの!」
「こいつ、ホントにダッセーなっ! あはははははっ!」
ブルブルと震えあがるマリーを尻目に高笑いするアリス。
だけれど、笑い声とは対照的に、マリーを見つめるアリスの目は死んでいた。
そして、その目は狂気に溢れ、その視線はメデューサのようで、今にもマリーのことを石化してしまいそうだった。
――ボコッ!
――ボコッ!
「お前ムカつくんだよ、この役立たず! なんでこの私がアンタの尻拭いしなきゃいけねーんだよ! このクズロボっ!!」
「ご、ごめんなさいですのー!」
――ボコボコボコッ!
なんとアリスは、ウサギの片耳を掴んだ左手をそのまま振り上げて、ウサギを何回もマリーに叩きつけた。
これはもう、マリーよりもウサギの方が可哀想に見えてきた。ウサちゃんは、悪いこと何もしていないのに……
良く見てみるとウサギの身体はアチコチにツギハギされていた。そのウサギは今回に限らず、何回もアリスから虐待をうけているように見えた。
「うさたんかわいそー……てへぺろ」
みかんは他人事のように、腕を組み仁王立ちでマリーがウサギでボコボコに殴られる光景を眺めていた。
いやいや、何余裕かましてるのよ?
何かフォローしてあげなさいよ。このままじゃウサちゃんの身体がバラバラになっちゃうし可哀そうだよ。
「……ったく。消えろやっ! この不手際はパパに報告するから覚悟しとけ!」
「パパっ! はい……」
アリスがパチンと指を鳴らした瞬間、ブルブルと震えていたマリーが一瞬にして姿を消した。指を鳴らすことで何処かにマリーを瞬間移動させたようだ。
それよりアリスはパパに報告と言っていた。マリーも理解していたみたいだし、パパと言うのは彼女らを作ったと思われるドクター姫宮と言うことなのかしら……
と言うことは、みかんを作った博士とは敵対関係と言うことになりそうね。これって、もしかして、もしかしなくてもヤバくない?
アリスはマリーの存在を消して、フウッと溜め息をついてから、みかんのほうに向きなおる。
「さて、あなたのことは、どうしようかしら。先に、あなたのご主人様、人間をイジメるのも楽しそうね。」
「うん。楽しそう! てへぺろ!」
おい!
アリスに同調してどうするのよ?!
そこは、やめろ! とか言って止めるところでしょ!
私がイジメられるところを見て喜ぶとかどれだけドSなの?!
ドSは、そこにいるアリスだけで十分でしょ!
みかんは、私のイラっとした不服そうな視線を感じて焦ったのか、慌ててフォローに入る。
「や、やめろーぉ。あかねちんをいじめるやつは、ぼくがゆるさないぞー。」
棒読みか。
全然、気持ちが籠ってない!
さすがのアリスもキョトンとしている。
「なんだか、楽しそうだな。まだ余裕があるのか? 私も相当舐められたものだな。じゃあ、これでどうかしら?」
アリスが再びパチンと指を鳴らす。
すると周りの景色が、異空間から学校の校舎裏へと一瞬にして変化した。
って、え?
これって現実界……?
ヤバいでしょ?
こんなところで、みかんとアリスが戦ったら大変なことになる!!
学校どころか、街中が破壊されてしまう!
「あはは……あかねちん……どーしよ。これって、もしかして、もしかしなくてもヤバいヤツだよね。てへぺろ」
「ま、間違いないわ……」
みかんと私は顔を見合わせて、いきなりの大ピンチに固唾を飲んだ。
画:嶋田美由(空想代理人達のアトリエ)




