4-18 敵の策、味方の策
エルヴィン達は最初の攻撃目標へ偵察を送り、戦力の情報を手に入れると、出撃準備を開始した。
そんな中、アンナは1つの疑問をエルヴィンに投げかける。
「エルヴィン、敵は何故、補給を分散させて置いているのですか? 普通なら1箇所に集めて置く筈ですが……」
「それは、此方側の司令官がグラートバッハ上級大将だからだよ」
グラートバッハ上級大将も共和国のストラスブール大将同様に、敵、味方に名将と呼ばれる優れた将帥である。
グラートバッハ上級大将の戦術は、本隊が敵を引き付ける間、別働隊が敵補給基地を攻撃し、敵の戦闘継続能力を低下させ、結果、撤退させるという物である。
負け難い戦術を得意とし、防衛戦においては厄介な戦略家と言えた。
しかし、名将と呼ばれる故に敵の要注意人物とされ、戦術、戦略が研究された。結果、対抗策として、補給を分散させ、補給の損害を少なくするという策が立案され、実行されたのだ。
「なるほど、理由は分かりましたけど……そうなると、敵の補給基地、3箇所では無いですよね?」
「うん、3箇所じゃないよ。他にも数個の部隊が、他の補給基地を2、3箇所叩く事になってる。共和国軍は補給を相当分散させているらしいね」
「グラートバッハ上級大将の得意戦術が封じられた、という事ですか……」
「完全に、では無いけどね。しかし、この戦い、かなり長引くのは確実だね」
エルヴィンは少し面倒臭そうな嘆息を零すと、丁度、第11独立遊撃大隊が出撃準備を終え、1部守備兵力を仮設陣地に残し、部隊は最初の攻撃目標へと出発した。
エルヴィン達の出発と時を同じくして、共和国遠征軍仮設司令部にて、椅子に座りながら眉間にシワを寄せ、深刻な表情で考え事をする男が居た。
共和国遠征軍総司令官フェルディナン・ストラスブール大将である。
ストラスブール大将は年齢43歳。鉱人族で身長は146センチと小さいが、顔の周りと顎から伸びる立派な髭と、威厳のある顔立ちが、兵士達の長としての風格を滲み出している。
ストラスブール大将は考えていた、考えざるを得なかった。
共和国軍は、正午前のラウ平原の大敗により、塹壕部隊に大打撃を被り、敵による塹壕突破の危機、延いては今戦い敗北の危機に直面していたのだ。
ストラスブール大将の悩みを察したのだろう、参謀長アーブル中将が意見を述べる。
「閣下、要塞を包囲している部隊から塹壕部隊に、兵力を割いては如何でしょうか?」
「……無駄だな…………」
ストラスブール大将は表情1つ変えずそう呟いた。
「我々の目的はあくまで、ヒルデブラント要塞の奪取だ。要塞包囲に就いている兵力を塹壕に回せば、要塞攻略の兵力が足りなくなるだろう。只でさえ無理な包囲戦だ。ヒルデブラント要塞攻略自体が不可能となる」
「しかし、このままでは!」
「分かっている……」
ストラスブール大将は渋い表情を浮かべた。
普通であれば撤退を指示する所である。しかし、本国、中央議会からの命令でそれは出来なかった。
「前線を知らない政治家連中め……何が撤退してはならないだ! 大体、"アレ"で戦況が大きく変わるとは限らんだろう!」
アーブル中将は苦々しく、怒りの形相で呟くが、それを諌めるようにストラスブール大将が口を開く。
「"アレ"さえ到着すれば、後はどうにでもなる。議会からの命令は、"アレ"が到着するまで撤退するな、というものだ。問題なのは、それまで持ち堪えられるかどうかだ。持ち堪えたとしても、多くの兵士が死ぬだろう……それが気掛かりでならない」
「閣下……」
ストラスブール大将は前線で倒れゆく部下達への罪悪感に苛まれつつ、現状の打開策を考えるのだった。




