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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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探す者の話D

 その男は何の前触れもなく表れた。

 通りの影から浮き出たように、ぬるりとクラムの行く手に立ち塞がる。

 クラムは男の姿をよく見ようと、手元の照明を目線まで掲げた。


 男は全身黒づくめで、顔には祭儀用の仮面を付けていた。ウェアクァールの宗教において悪神とされる、ナハナ神を象った仮面である。

 そのいかにもな挑発に、クラムは嫌悪を覚える。


「アンタが、みんなをさらって、殺した殺人鬼?」


 単刀直入なクラムの問を、仮面の男は鼻で笑い短剣を抜いた。


「余裕ぶってるところ、悪いけど、アンタはもう、終わりだ!」


 クラムがそう宣言すると同時に、ネネッシュとサスティバンが駆け付けた。背後に二人、前面にクラムが立ち塞がり、仮面の男を挟み込んだ形だ。狭い路地裏に、逃げ場はない。


「じきに、組の連中も集まってくる。観念するんだな」


 サスティバンの言に、仮面の男は舌打ちを鳴らす。流石にこの状況は、予想していなかったのだろう。顔は見えずとも、動揺の様がうかがえた。

 仮面の男は短剣を構えて、クラムの方へ駆け出した。サスティバンよりも、クラムを相手にする方が楽だと判断したのだろう。

 しかしその目論見は、すぐに挫かれた。クラムの蹴りが男の胴を捉えたのだ。

 吹っ飛んだ男は、地面で咳き込みながらのたうつ。


「ふんっ、呆気ねえな。まあ、変態野郎にはお似合いの末路だ」


 吐き捨てる様にそう言って、サスティバンは仮面を剥がそうと男に歩み寄る。

 瞬間、路地の中に少女の声が響いた。サスティバンは歩みを止め、戦えるよう構えを取る。


「アハハ! なっさけなーい。そんなんじゃ、博士に見放されちゃうよ?」


 上空から聞こえてくる嘲笑に、その場に居る全員が狼狽えた。


「誰だっ! どこに居やがる!」


 サスティバンの怒号を嘲笑う様に、路地に笑い声が響き渡る。反響を重ねた嘲笑は、クラム達に得体の知れない物に囲まれた様な、そんな不気味さを感じさせる。


「僕は正直君が嫌いだけど、仕方がないから助けてあげる。博士に感謝するんだね」


 そんな声がした途端、左右の家屋の屋上に無数の影が現れた。周囲に漂う腐臭から、クラム達は、それが昼間遭遇した怪物と同種のものだと、理解する。


「これはまずい! 撤退するぞ! クラムも来い!」


 数え切れない程の敵数を前に、サスティバンはネネッシュの元まで駆け戻る。

 サスティバン達の下まで駆けようとして、クラムは一瞬足を止めた。倒れた殺人鬼を前にして、逃げる事に迷いが生じたのだ。

 ここで逃せば、仮面の男は間違いなく雲隠れするだろう。それこそ、六年前の殺人鬼の様に。

 自分の身の安全と、正義を成す機会。本来クラムにとって天秤にかけるまでもないそんな事柄は、ここに限り逆転してしまった。

 クラムが迷った一瞬の隙で、仮面の男は睡眠魔法を発動させた。魔法の直撃を受け、クラムの身体は支えを失って地面に落ちた。


「クラムっ!」


 男に抱え上げられるクラムの姿に、ネネッシュが絶叫する。


「クソっ!」


 クラムを助けようと動きかけたサスティバンの前に、怪物が落ちて来た。落下の衝撃をものともせず、怪物はサスティバン達に襲い掛かろうとする。

 サスティバンはやむを得ず、ネネッシュを逃がすために走り出した。抵抗するネネッシュの身体を抱え上げ、サスティバンは疾走する。


「待って! まだ、クラムが!」


「ダメだ! この数相手じゃ全滅する!」


 ネネッシュはサスティバンを殴りつけて暴れた。残酷な決断を下したサスティバンにとって、それは何よりの痛みとなる。


「なら私だけでも行く! クラム! クラムーーーっ!」


 ネネッシュは遠ざかる怪物の群れの向こうに、クラムの姿を見た。それもすぐに、夜闇と怪物の群れに埋もれて見えなくなった。

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