どうやら、「まだ」プロローグは終わらないらしい
黒い髪に“ふわり”とした優しい雰囲気のする女性が立っていた。僕は店長に呼ばれるがままカウンターの前に歩いていった。
「あ、先日は、、、って先日じゃないか。。。あの“落としもの”を拾って頂いて、ありがとうございました」
髪をなびかせながら振り向く女性は、店長の言葉に確認をすると、僕を見て頭を深々とさげてきた。少し照れ臭そうに笑みを作っては、なびく髪を右手でおさえている。
「いえいえ、そんなにしてもらわなくても、、、」
深々と“お礼”を言う女性に、手を前に差し出すように“謝礼”に答えた。
「あの名刺入れというか、キーホルダーは大切なモノだったので、、、本当に、ありがとうございます。」
「たまたまですよ。そう、、たまたまですから」
何度も“お礼”を言う女性に、僕は顔の前で手を横に振り小刻みに顔をふるわせた。
「あっ、そうだ。もしお時間あるのでしたら、その、、お礼もかねて、、、行きませんか?」
右手で外を指さしては「今なら?」と誘ってくる女性に、僕は少し躊躇いつつも、ここで断るのも失礼だと一つ頷いては「そうですね」と笑みを作り答えた。
「ありがとうございます。じゃぁ、行きましょ?」
女性は微笑むように頬を緩め、バックを肩に掛けては僕の手を握り歩き始めた。予想だにしない女性の行動に焦りながら、握る手の温かさに“こしょばゆい”気持ちと“強引さ”に心が持ってかれそうになった。
「あ、あの、、」
手を繋ぎ引っ張るように歩く女性に、僕は後ろから声をかけた。
「はい?なんですか?」
「いえ、あの、、て、手を、、、」
“こしょばゆい”恥ずかしさと“初対面”という緊張の中で僕の心は混乱している。
「あの、、手を、手を、、、」
「はい?あ、ごめんなさい。またやっちゃった」
女性は歩きを止め僕の手を離し、両手を顔の横に添えるようにあげては顔を赤らめた。「またやっちゃった」と、右手で頭をさわりながら顔を斜めにはにかんでいる。
僕は、はにかむように恥ずかしがる女性に「いや、あの、急すぎて、その、、」と、口をモゴモゴと動かした。
「ごめんなさい。。。では、改めて行きますか?」
女性は一言落ち着くように切り出しては、改めて右手を差し出してきた。僕は「えっ?」と驚いきつつも、女性の醸し出す“心遣い”と“奔放さ”につられるように手を繋ぎ、店の外にでた。
「なんか、恥ずかしいですね」
僕は繋ぐ手を見ては歩きだす足元を見つめ女性に話しかけた。
あまり女性と接する事がなかった僕には、少し“刺激”が強すぎた。あずみやよし乃、ジェシーと手を繋いだことはあるけど、“それ”とはあまりにも違いすぎる。“初対面”で尚且いきなりの“こと”。今の僕には、“モヤモヤ”を消えさせるには十分だった。
「ここでいいですか?」
貸しレンタル店の通りにあるカフェバーを指さしては女性が言ってきた。
「あっ、その、、いいんですけど、あの、少し歩きませんか?」
僕は手を繋ぐ女性に向かって言葉を投げ掛けた。
「あの、“初対面”の女性に“こんなこと”言うのも恥ずかしいんですが、その、、もう少し“歩き”ませんか?」
僕は鞄を握る手に力を入れては女性に言葉を切り出した。
「、、、いいですよ?」
女性は少し考えるように左手の指を顎に当て、目を斜めに動かしては優しい笑顔で答えてくれた。
「すいません。なんか、恥ずかしいんですけどね。。。」
僕は優しく“受け入れ”てくれる女性に、恥ずかしさと、童心のような気持ちに顔を赤らめた。
駅前の電飾がチカチカと光始め、帰る人で溢れてくる。僕はその人の波に逃れるように手を繋ぎ歩いていく。
「あ、そうそう。自己紹介してませんでしたよね?」
女性は歩く足を止めては僕の顔を見て、手を離しては肩からかけるバックに手を入れた。
「あ、でも“名刺”だと“仕事”みたいでイヤですね。。うん。私、、、」
バックから手を抜いては、改めて僕に見せるように体を向けては、「私“みずき”と言います。今回はありがとうございました」と、髪を振るように頭を下げては僕の顔を見て満面な笑みを見せてきた。
「みずきさんか。。。あ、僕は、、」
みずきの“自己紹介”を聞いては、僕も姿勢を正して答えた。
「僕の名前は、、、」
「あ、名前は言わないで、、、」
「えっ?」
「ごめんなさい。。恥ずかしいんですけど、“名前”聞いちゃうと、色々とその、、、」
みずきは僕の口を塞ぐように右手の人差指をたてては「シー」と、子供にするようにふさいできた。
「え、、そうなんですか、、、」
「ごめんなさい。なんか、我が儘ばかり言ってるようで、、、」
みずきは“仕事柄”なのか“個人的”なことなのかわからないけど、僕に謝ってきた。僕は“申し訳なさそう”に口を閉ざすみずきに“格好つける”ように言葉を継いだ。
「なら僕も、“その”理由は聞かないほうがいいですよね?」
自分でも恥ずかしくて笑いそうになるのを必死に抑え、“映画”とかでありそうな“台詞”をはいてみせた。
「んふ、、ふふふ、あはははは」
「、、あははははは」
お互いにお互いを見ては“格好つける”よくある“映画”のワンシーンのような“台詞”に笑いがこぼれた。
「ありがとうございます。ふふっ」
みずきは笑いをこらえながら声をだし、右手で口を隠している。
「格好つけすぎましたか?」
「、、、はい」
互いに“映画”好きなのが影響したのか、距離が縮まるのにそう“時間”はかからなかった。
僕らは肩を寄せあうように隣に並び立ち、駅前の近くにあるバーへと足を運んだ。
「改めて、ありがとうございます。」
「こちらこそ、色々と申し訳ありません」
みずきと僕はバーのカウンターに席をとっては、飲み物を片手に“乾杯”するようにグラスを上にあげた。「出会えたことに」と、ある“映画”の台詞を言っては互いに目を見ながら笑った。
「あ、そういえば、どんな“映画”みるんですか?」
「え?そうですね、邦画も洋画もみるんですけど、今はまって見てしまうのは、、、って、“敬語”やめません?なんか、“仕事”だって感じがしちゃって、、」
「。。そうですね、、って、そっか」
「はい。そっかです。。って、私もですね?あは」
“敬語”という曖昧な言葉に笑いが起きるとは思わなかった。今までの“自分”とは違う“自分”が出てきそうな感じがした。みずきは、今まで出合った“女性”とは少し違う“雰囲気”を持っていた。
僕らはその後“共通”する話題に花を咲かせては、終電近くまで盛り上がった。
「あ、あの、また、、もし時間合ったら、その、、、」
僕はみずきに「次も」と約束をしようと、勇気を持って声をかけた。
「はい。もちろんです。私も、こんなに楽しく“話せた”のは、久しぶりでした。また、おねがいしまーす」
みずきは僕の言いたいことを察しては、アルコールの入った赤い顔を崩しながら笑った。僕は自然と「本当?」と目を丸くした。
「本当ですよーん。みずき“ウソ”つかなーい」
みずきは手を上に、体を回転させては答えてきた。僕はそんなみずきを見ては、楽しくて仕方がなかった。
この一週間ぐらいの間で、腹から楽しく笑えたのは、ここまでなかった。ジェシーとの“別れ”で失った“穴”を、今周りで起きてる“こと”を忘れさせてくれるような出会いが、今味わっているとは自分でもわかっていなかった。
「では、みずきさん。またよろしくです」
僕はおちゃらけるように右手で敬礼するようにポーズをとっては言葉にした。みずきは同じポーズをとっては「了解しましたであります」と、額に手を当てては頬にえくぼを見せながら満面な笑みをしている。
「では、では」
敬礼するポーズをとりながら互いに頭を下げては、各々の家へと歩いていった。
僕は“楽しかった”時間をそのままに家については倒れるように床についた。
「チャチャチャッチャッチャー」
頭の上にある携帯の音で目が覚めた。
「ん?」
横になる体を起こし、正座をするような姿勢になっては大きくあくびをしながら体を伸ばした。涙の出る目をこすりながら携帯に手をかけ画面を開いた。
「昨日はありがとうございます。色々と醜態を見せてしまいすいません。今後も“おつきあい”してくださいませませ」
みずきからのメールだった。
「こちらこそすいません。楽しかったです。そうですね。今後も“おつきあい”おねがいします」
メールを送り返しては今一度大きくあくびをした。ゆっくりと体を起こし簡易シャワーを浴びにお風呂セットをとりに体を動かした。
「んー。。昨日は楽しかったなぁ」
カーテンを閉め簡易シャワーで体を濡らし、手で揉むように左手から順に洗っていった。
「みずきさんか。。あずみやよし乃とはまた違う“雰囲気”だよなぁ」
シャワーを顔から浴びながら無意識に“二人”と比較をしていた。
「。。。あ、そうだ、、昨日“言っちゃった”んだっけ、、、どうしよ。。。」
あずみに“告白”まがいなことを伝えてしまったことを思いだし、どうすることもできない“状況”に悩みが増えていく。
「はぁ。。。」
深くため息をはいてはシャワーの蛇口を閉め、タオルで体を拭いては部屋へと戻っていった。
部屋へ戻りお風呂セットを棚に戻しては、ミルメーカーにコーヒーをセットした。ちゃぶ台に手をつき座椅子に腰をおろした。
一瞬一瞬で変わる物事への“感情”。目まぐるしく変化する自分の“状況”。考えたくなくても考えてしまう。“開きなおる”ことへの“怖さ”も、昨日身にしみた。
「あずみによし乃。柏田に山下。。。」
みずきとの関係を“楽しかった”という思いのもと、恋心を“寄せる”二人に、そして“何か”を察する二人。僕には“見えてない”何かがあるように変化する“噂”が増えていく気がした。
光を変えるミルメーカーを目に、コーヒーを注いではゆっくりと心を落ち着かせた。
「、、、ふぅ。。なるようにしかならないよな」
自分の“本音”を見つけるまでは何もすることができない。周りでの“噂”が一人歩きしているぶん、僕としては“自分”を納得させる“何か”が必要だった。それが“好き”という“感情”なことはわかっている。胸を張って「、、です!」と、言える“自分”の気持ちが。。
僕はコーヒーを飲み、仕事に行く準備を整えては部屋の火の元を確認し、「よし」と、自分に問いただしては家をでた。
駅までの道のり、電車での“人圧”。最寄り駅で改札を抜けるまで、僕の頭はぐるぐると回っていた。
「よし」と再び意気込んでは、足を大きく歩きだした。
「よぉ、朝から元気だな」
前を歩く柏田が振り向いては僕を見つけ声をかけてきた。
「おはよう。“元気”ではないけどね。。」
「なんだそれ?、、、まぁいいや、それよりもよ、今日“昼”屋上に来いよ」
「なんだよいきなり。。」
「あ?ちっとよ、、、」
「なんだよ、、まぁいいけどさ」
柏田は“いつも”のごとく“強制的”に言ってきた。「柏田には、柏田の“こだわり”があるんだろうなぁ」と、そのモノの言い方に今更ながら“ふと”思った。
「あっそうだ、柏田?お前って人を“好き”になることってあるのか?」
僕は不意に柏田に聞いた。それといって“興味”がないと言えば嘘になるけど、今まで聞いたことがなかった。
「あ?バカにしてんのか?。。。。あーそうか、お前今“噂”の的だもんな」
「言うなよそれは、、、」
「あはは。まぁ俺のことは別として、“今”のお前にはちょうど良いかもな」
「なんだよそれ?」
「あ?そのまんまだ。わかんねーか?“穴”の空いたやつには“穴”を埋めるやつが必要ってことだ」
「。。。。。」
「まぁ、ゆっくりと行けよ。急いだって“はじまんねーよ”。それよりもよ、昼“屋上”来いよ?」
柏田は言いたいことを言っては、「じゃ、先に行くわ」と僕の肩を叩いて早歩きで去って行った。
「って、お前、質問に“答えろ”」
歩き去る柏田に声を出して問いかけたが、柏田の耳には入らなかった。僕は一人ぶつぶつと呟いては、腑に落ちない気持ちにムッと心をいらつかせていた。
「ったく。柏田のやつ、いつもこうだな。。」
イラつく心にふっと呆れるように鼻で笑いがでた。




