どうやら、「まだ」プロローグは終わらないらしい
顔を洗いに洗面台へと足を向ける、畳の上に落ち転がる“ハット”を目にしてはラックに掛け戻し、ラックに掛かるジャケットのポケットからかおを出す“紙”を目にしては右手でつかみとり、ちゃぶ台の上へと落とし置いた。僕は少しため息をはき、その“紙”を見てはゆっくりと洗面台へと体を動かした。
水道の蛇口を捻りながら鏡に写る空ろな表情に、愛想のない作り笑顔をしては前傾姿勢に顔を洗った。
「うん、、、うん、、今は考えても仕方がない。。。」
タオルで顔を拭きながら自分に言い聞かせ、胸の前で手を拭くようにタオルを持っては部屋に戻っていく。ちゃぶ台の前で手を腰に、部屋全体を見回しては「掃除しないとな、、」と散らかる部屋を見ては呟いた。
テレビからはお笑い芸人が人目を憚らず裸一貫で走り回っている。僕はその様子を見ながらテレビを消し、ちゃぶ台に置く“紙”を鞄にしまっては、部屋着から仕事着へと着替え、脱いだ洗濯モノを洗濯機に入れて家をでた。
人と車が行き交う道なりに、あくびをしながら歩くサラリーマンや疲れきった仕事あがりの人。携帯を片手によろめき歩く人達と、いつもと同じ雰囲気に少しずつ仕事へと気持ちが切り替わっていく。
人で溢れる駅のホームで電車を待ち、通勤列車に身を委ねがら最寄り駅まで運ばれていく。何も考えず、何も思わず、意識を止めるように心がけては最寄り駅で電車を降りた。
「ふー。。」
最寄り駅のホームで鼻で息をはき、人の流れに逆らわないように改札を抜けていく。
「取り敢えず今日は、“何も”考えないようにしよう。。。」
昨日感じた“感情”を、見てはいない、知りもしないと他人のごとく気を取り直しては仕事場に続く道へと歩を進めた。
「おはよう」
「おはよう」
「あいーっす」
仕事場へと足を動かしながら、顔見知りの同僚と挨拶を交わし、自分の机のある部署まで入っていく。挨拶を繰り返しながら歩く僕を見ては“クスクス”と話す声が聞こえてくる。柏田やあずみが話してきた“噂”が広まっているのかと、あまり気にしないように心がけては自分の席へと腰をおろした。
「おはようさん」
「あ、おはようでーす」
僕の肩をポンっと叩いて挨拶をする隣の席の同僚、近藤が話かけてきた。僕は、軽く会釈をするように頭をさげては、座る椅子の位置を直した。
「ちょっとさ、聞きたいんだけどさ、、」
「ん?何?」
近藤は机に屈むように両肘をつき、前のめりになりながら顔を覗くように話かけてきた。僕はパソコンの電源を立ち上げながら話す言葉に切り返した。
「お前さ、吉川さんと付き合ってんの?」
「ふへ?!なんで!?」
唐突に聞いてきた近藤の顔を、目を見開いては二度三度と見返し、驚く言葉に唾がでた。僕は飛ぶ唾に、相手に謝りながら右手で口からもれる唾を拭いては、「いきなりなによ!?」と改めて聞いた。近藤は「きたねえな、おい」と手で腕を振り払うように揺らしては体を椅子に戻し、小さな声で聞いてきた。
「え?違うの?いやなにね、、吉川さんがお前に告白したとかしないとか“女達”が話してるの聞いてさ」
「、、そんなことになってんの?」
眉をすぼめ、引くつく頬を歪めては近藤に聞き返した。噂なる“話”が広まっていることは、ある程度知ってはいたけど、こうも“あっさり”と聞いて来るとは思わなかった。ただたんに、“噂”程度だと思っていた。
「付き合ってんじゃねーの?違うの?」
「う、うん。“付き合って”はないよ。ただ、たまに“ご飯”行くだけだよ」
「は?ご飯行くだけ?。。でも“二人”でだよな?」
「うん。そうだけど、なんで?」
「いやいやいやいや、“大の大人”が二人で、ましてや仕事上がりに“ご飯”だろ?飲み仲間だとしても、女と二人ってのはないだろー、それってもう“デート”だろ?それで、付き合ってないとかって“ウソ”だろ?」
近藤は顔の前で手を立てに横に振っては「ないない」と、僕の考える“ご飯”とは違う“意味”で言ってきた。僕はその姿を見ては声をふった。
「“ご飯”って二人で行ったりしない?」
僕は自分の思う“価値観”に言葉投げた。
「は?それは“行く”だろうけど、、いや、お前の場合“違う”だろ?」
「え?なんでよ?」
「はいはーい。話はその辺で仕事の時間ですよー」
僕と近藤の話に区切りをつけるように両手でパンパンと音を出しては、前に座るあずみが鞄を椅子に置きながら言ってきた。僕ら二人は「あ、やばっ」と肩をすくめて互いを見ては、「はーい」と声に出しては仕事にとりかかった。
「まじか、、、もう“噂”どころじゃないんじゃないか?。。。あずみも知ってるんだし、、、なんだこれ。。。」
パソコンに打ち込みながら“今”の話を思い返し“チラッ”と、あずみを見ては後ろの“よし乃”のいる席の方を見た。よし乃は、隣の人と何か話すように近づいては隣の人の体を叩いて書類で顔を隠している。
「おいおい、何見てんだよ?」
近藤がチラ見する僕の胸元へ書類で叩くように「これよろしく」と言葉を繋げて渡してきた。僕は、「え、見てないよって、、あー。。」と胸元に渡す書類に手をかけては言葉をはいた。
「あはは、だよなー」
近藤はよし乃の方を目で流し見ては「やっぱそうなんだろ?」と、冷やかし混じりの言葉をついては、にやけるように含み笑いを見せてきた。僕はその顔を見ては「もう、、」と苦笑いを浮かべた。
カタカタと音を出してはパソコンをうち、丁寧な言葉で対応するアポイントの声が聞こえてくる。仕事を始める前から“こんな”話をされるとは思わなかった。書類を打ち込む僕の手は、上手く動いてくれなかった。
「よーし、おわったー。昼だー」
「飯どうする?」
「わりー、ちょっと行くとこあるわー」
壁に掛かる時計の針が、12時を指している。
「“ご飯”どうすんだ?」
近藤は朝の続きのように、僕で“遊ぶ”ように言ってきた。そう言う近藤の顔はにやけるごとく、“嫌”な顔をしていた。僕は声を耳に、その顔を見ないようにしては「違うって、、」と言葉をつき、背もたれに体重をかけながら両腕を伸ばし背中を伸ばした。
「あ、あの。。。」
「ん?」
「あ、あの、、今、大丈夫ですかぁ?」
背中を伸ばす僕に横からよし乃が声をかけてきた。その光景を見ていた近藤が「。。ごちそうさまです」と笑いながら僕の顔を見ては、よし乃に「どうぞー」と手を振るように挨拶をし、含み笑いをしながら昼休憩をとりに行った。
「ちょっ、おまっ、、、あーもう」
僕は背もたれから体を離し、歩き去る近藤の姿に掴むように手を投げだしては「あーもう。。」と体を前に崩しては項垂れた。
「あの、大丈夫ですかぁ?お邪魔でしたか?」
よし乃は崩れる僕を見ては心配そうに声をかけては体を斜めに覗いてきた。僕は「うん、大丈夫、気にしないで」と言葉をついては体を戻し、気を取り直してよし乃に声をかけ戻した。
「ごめんね。どうしたの?」
「え。。いえ、別にそれといってはないんですが、、、あ、お昼どうするんですか?」
「ん?お昼か、、、」
僕はよし乃の言葉に少し考えては、前に座るあずみを見た。
「ん?なに?」
あずみは僕の視線に気づいたのか、顔をあげて答えてきた。
「え?いや、別に。。。あっそうだ、あずみは“ご飯”。お昼はどうするの?」
僕は咄嗟にあずみに“昼”の予定を聞いた。よし乃はそんな僕を見ては一瞬“驚いた”顔をしては、僕の言葉に続けてあずみに声をかけた。
「あ、あずみさんも。。あずみさんも、もしよろしければ、“ご飯”一緒にいきませんかぁ?」
「えっ?私は平気だけど、、、いいの?」
あずみはよし乃の“誘い”に驚きつつも、よし乃の顔を見ては言葉をだし、僕の顔を見てきた。僕はよし乃の顔を見ては「いいんじゃない?」と、何処か“他人行儀”な台詞をはいては、両手を開いて肩をすくめた。
「うーん。。でも、まだ仕事残ってるし、また今度。。今度行きましょ?」
あずみは、どことなく“気を使う”ような空気をだしては「また今度ね」と断ってきた。よし乃は「そぅですかぁ」と残念そうな顔を作っては、僕に聞いてきた。
「どうしますかぁ?」
「ん?そうね、、、、あっ、そうだそうだ。、さっき近藤から“頼まれた”のあったんだ。。ごめん。お昼やめとくよ」
僕は何となく“変な”空気に“ご飯”に行く事に戸惑いつつも、仕事が“残っている”と苦し紛れに断りを入れた。よし乃は、「えー」と少しムッとした顔をしては、直ぐに笑顔に戻し、「なら、私“一人”で行ってきまーす」とあずみに頭をさげては、僕に笑顔を向けて“ご飯”へとその場を離れていった。
よし乃が部屋を出るのを見ては、あずみが“仕事”をしながら話かけてきた。
「平気なの?行かなくて?」
「え?なんで?」
「なんで?って、なんか“申し訳ない”じゃない?」
「え?でも、また今度って言ってたしさ」
「うん。。そうなんだけどさぁ。。。」
あずみは、僕の“噂”を気にする素振りを見せては言葉を選んできた。僕は、あずみのする“気遣い”に気をもんでは、言葉を返した。
「もしかして、あずみも“噂”気にしてる?」
僕はパソコンの前に置く書類を持っては、あずみの“気遣い”を消すかのように自分の気持ちを話し始めた。
「あずみも昨日言ってきたけど、なんか“みんな”知ってるんだよね。たぶん。。よし乃が僕にってこと、、、」
書類に目を通すように下を向いては言葉を列べていった。あずみは、“仕事”をするようにキーボードをうっては、耳は僕の方へと向けている。
「前まで“そんなこと”聞かれたことなかったんだけど、僕が“休んで”いる間に、“噂”が広がった感じがするんだよね。。。まぁ、“勘づいて”いる人はいたかも知れないけどね」
「うん。。」
「でもさ、それってなんか“相手”主体な感じなんだよね。まぁ、“噂”ってそういうものなんだけどさ、、、」
「。。。。こんな時に“聞く”のもなんなんだけど、“よしよし”のこと、どう思ってるの?」
あずみはキーボードから手を離し、体を前に僕の顔を見ては聞いてきた。僕は、そんなあずみを見ずにパソコンに写る“書類”のデータを見つめては返事を返した。ただその時、話相手が“あずみ”だということを、忘れかけていた。
「ん?よし乃のこと?。。。うーん。。この休んでた時、色々とあってさ、その時、ようやく僕のなかの“感情”が動きはじめたんだ。。。」
僕は無意識に“ジェシー”との別れから“気づいた”感情に、自分の“時間”の揺れ動く思いを口にした。
「何言ってるのかわからないと思うんだけど、自分でも“よく”わかっていないんだ。ましてや、“好き”な人が目の前の人なのかって、、、、、」
「え?目の前の人??」
「うん、目の前のひ。。。。あっ」
僕はパソコンから目をはずし、話す“目の前”の“あずみ”を見ては固まった。一瞬の“時間”。一秒も経たない“時間”の間に、僕の頭は真っ白に、様々なことが浮かんでは消えていった。あずみは「えっ??」と驚いた顔をしては、「私?。。え?よしよしじゃないの?」と書類を合わせ整えるように手を動かしては戸惑いを隠している。
「。。。あ、、あず、、、」
固まっていた“体”を、“止まる”意識を無理矢理戻しては声をついた。
「いやーお腹一杯だぁ。あれ?飯行ってないの?」
声を出そうとする僕の後ろで、自分の席へと戻ってくる近藤が僕を見て声をかけてきた。
「え?あ、、あー。。。うん、行ってないよ。うん。。」
「ん?。。。あっ、そっか。ふーん」
焦る僕をよそに近藤は爪楊枝を口にしては「ふー」と息をはいた。
僕は近藤に話を返してはあずみの方を見渡した。あずみは書類を整えては「ちょっと、席はずすね」と僕と視線を合わせないようにそう言っては、走るようにその場をあとにした。
「。。あー、、、」
走るように去るあずみを見ては、両肘をたて、頭を抱えるように机の上へと体を崩した。
壁に掛かる時計の針は、13時を指そうとしている。昼休憩から戻る人達が、各々仕事にとりかかる準備を始めている。
何も“考えず”何も“思わず”にと、思っていたことが、“裏目”にでてきていた。僕は、「どうなんだ、、、これ。。、」と、ついた言葉を思い返しては、頭を抱えている。




