どうやら、「まだ」プロローグは終わらないらしい
みずきとよし乃が“近い”関係だったとは思いもよらなかった。たまたま出会った人が、実は知り合いだったとは、よく聞く話だけど、自分で味わうと、なんとも言えない驚きがある。ましてや、“どこまで”話がされているのか、聞いているのか、探るような考えが生まれてくる。
「よしと同じ会社だったとは驚いたよ」
「えっ、あ、はい」
みずきはハンドルを握りながら横目で話しかけてきた。僕は後ろに座るよし乃が気になって話に入ることが出来なかった。
「よしから聞いてたけど、、、だったとはねぇ」
みずきは半分にやけるように頬を緩ませ僕の顔を見ては前を向いた。僕は何を聞いているのか内心ビクビクしていた。別に何も悪いことはしてないと思うけど、自分の知らない所での話となると恐さをも感じる。あの“噂”話のように、下手な事に話が進んでいるのではないかと。
「あ、それよりも“場所”に行けますか?」
僕は話がややこしくなる前にと、先手を打つようにみずきに話しかけた。
「ん?大丈夫だよ。あの場所は有名だからね」
「えっ?」
「えっ?て、知らないの?あそこは“キノショウ”の裏別荘よ」
「キノショウ?、、裏別荘?」
「ええ、キノショウ、、木ノ下證券会社、その裏別荘よ」
山下はあずみを連れて裏別荘に行っては、柏田が後を追って行く。裏別荘となると公に出来ない事をする場所ってのは聞いたことがある。そこに居るのは、、誰か。
「そんなに有名なんですか?」
「え?まぁ、知ってる人は多いんじゃないかな?」
「。。。知らなかった」
「まぁ、知らなくてもおかしくはないけどね」
「そうですよぉ。それに今は、それよりも早く追いかけていった方が、良いんじゃないんですか?」
僕とみずきの話に割って入るようによし乃が突いてきた。僕はその言葉に「そ、そうだ」と今の現状を思い出すようにみずきに声をかけては慌てふためいた。
「慌てなくても大丈夫ですよ。向かっているんですから。それに、行ったとしても“終わってる”かもしれませんよ」
よし乃は、慌てる僕を見ては冷静に話しかけてきた。
「えっ?なんで?」
「なんで?と言われましても、そんな大きな事にならないと思いますし、身内話なら、尚の事なんじゃないんですか?」
「流石はよしだね。何時にも増して頭“キレてる”じゃない」
「そ、そんなことないですぅ。やめてくださいよぉ」
冷静に物事を話すよし乃に、みずきは“何時もの事”のように言葉を返している。
「えっ?どういうこと?」
「ですから、身内の話なら、公にするメリットはないんですよ。むしろ、デメリットしかないんです。よく考えてください。大きな会社なら、個人的な物事で利益を失うような事をすると思いますか?」
「。。。」
「あはは。よしも、何時もの調子になってきたねー」
「やめてくださいよぉ。それじゃ私が何時も“隠してる”みたいじゃないですかぁ」
「ごめんごめん。。あ、もう少しで、着くよ」
みずきはよし乃の話に“突っ込み”ながら謝りの言葉を並べ、目的場所となる“裏別荘”の近くまで車を走らせた。
都心の中にひっそりと佇む裏別荘。それは、別荘と言う名の風格はなく、あたかも“大きい屋敷”といった所だ。
「こんな場所に、、、」
「さてと、何処かに止める場所はっと、、、」
初めて見る別荘に劣等感を覚えた。一般的な生活をしているのなら、一生かかっても住めないような屋敷だ。まるでマフィア映画の中に入っている感じだった。
「あっ、あそこに止まってますよぉ」
よし乃が僕とみずきの間に体を入れては指を差して言ってきた。
「オーケー。あそこに止めるよ」
みずきはよし乃の指差した場所を見ては声をだし、ゆっくりと車をよせた。
別荘と言う屋敷は、壁で覆うように囲われ、何ヵ所かに小さな出入り口用の扉がある。そして屋敷の正面と裏側に一つずつ、大きな扉があり、そこから車が出入りするような作りだ。柏田の車は裏側の出入り口の前に止まっていた。
僕らは車を止め、柏田の車の中を覗いては壁の内側にたつ屋敷に目を移した。
「あ、あれ山下さんの車です」
よし乃は、僕の横にたっては山下の車を指差して言ってきた。僕は「うん」と声を出しては、足が震えてくる。
ここから何をすれば良いんだろう。あずみのことを追いかけて柏田に着いてきたけど、僕が“何を”言うことができるのか。柏田の話、あずみの話。聞いてく内に“近い”関係になってきたと思う。けど、話を聞く“だけ”だった僕には、“何が”出来るのか。。
「どうしたんですか?行かないんですか?」
よし乃は僕の服をつまんでは、顔を覗いてきた。僕は震える足に下唇をかんでは声に出なかった。よし乃は少し間を開けては強く息を吐き、僕の目の前に立っては言葉をかけてきた。
「。。。あずみさんの事を“好き”なんですよね?」
「えっ?、、、」
「好きなんですよね?」
「。。。。。」
「はぁ、、、もう、ハッキリとしてください。私は、、、私は“あなた”のことが“好き”でした。今でもそうです。けど、今のあなたは“嫌い”です。好きと思うのなら、“何も考えずに”行ってください。」
「。。。。。」
「それと、、、あまり言いたくはないですが、、、あなたを“好き”でいた時間を嫌いにさせないでください」
「。。。。」
「あずみさんを思う気持ちと、私が思う気持ちは“同じ”です」
「。。。。」
「さあ、行ってください」
よし乃は僕の前で、体を横に腕を開いて“前”を差した。僕はそんなよし乃を見ても足を踏み出す“勇気”がでてこなかった。
「もう、女に“恥”をかかせないの」
「えっ?」
「さあさあ、男見せてこい」
うだうだとする僕を見てはみずきが後ろから押してきた。僕は前に転ぶような体勢に足を踏み出した。
「さあ、行った行った」
みずきは手を振り払うように動かしては力強く頷いた。僕は唇を噛みしめては小さく「ごめん」と呟いては走り出した。
「。。。あんた、あの人のどこが好きだったの?」
「なんですかねぇ、私にもわからないんですけど、、、たぶん“ほっとけない”んですよねぇ」
みずきとよし乃は二人だけの会話をしては、走る僕を見ていた。
僕はみずきとよし乃を置いては別荘の中に入っていった。
裏別荘と言うからには内装やモノが沢山あり、豪華絢爛なのだろうと想像していたが、その考えはいらなかった。壁紙も何も一般的で“普通”なモノで、至るとこにモノが置いてあることもなく、見栄え“だけ”の家だった。僕は別荘の中に入っては周りを見渡しながら柏田達のいる部屋を探し歩いた。
「勝手に入ってしまったけど良いのかな、、、いやでも、、、」
流れのまま“動いて”きた僕は、やはり“自信”が持てないでいた。“助けたい”“守りたい”と自己陶酔する思いと、“迷惑”“独りよがり”と言った自己嫌悪する思いが入り交じってでてくる。僕は、足を止めては“出てくる”思いを消し去ろうと力強く目をつぶり頭をふった。
「今更考えるな、悩むな」
僕は自分に言い聞かせては目を開いて胸一杯に息をはいた。
「よし、、、」
息を吐いては言葉をだし、自分を奮い立たせるように頬を叩いた。
「、、、なんだよ。だから、、、」
「それのどこが悪いんだ。お前が、、」
通路奥の部屋から声が聞こえてくる。僕は、耳を澄ませながら声のする方へと足を踏み出した。
「お前の言ってることはわかった。しかし、それとこれは別だ。あいつの人生は、親である私が決めることだ」
「。。それが間違ってんだろーが。テメェのさじ加減でどれだけ“泣かせた”と思ってんだ。」
「泣かせる?誰が泣いてるんだ?」
「。。。テメェなあ」
奥の部屋では柏田とあずみの父親が言い争っている。端から見れば単純な親子喧嘩のように聞こえるけど、僕にとっては理解し難い関係性だった。
柏田とあずみは腹違いの兄妹。その父親があの父親。山下は別にしても、なんとも言えない関係性だ。
「柏田、、お前の“目的”って、なんなんだ。。。」
あずみを追ってきたのには理由がある。それは“母親”のこと。けど、それだけでここまでするのか。柏田はあずみの事を“好き”だった。けど、それは叶わないと知っている。なら、泣いた顔を見たくないからってだけなのか。僕にはそれだけの理由では無い気がしてならない。けど、それは“終われば”わかることだ。
「何してんスか?センパイ」
「っつ、山下!?」
「勝手に入り込んで何してんスか?」
「お、お前、、山下、、、それにあずみ。。」
「。。。。。」
「まあまあ、そんな怒った顔しないで」
「あ?。。。」
「まあまあ、今日はお引き取りしてもらえないっスか?」
「、、どういうことだよ?」
「。。。いいの、、、もう」
「えっ?」
「まぁそうゆうことっスから」
山下は僕の行く道を塞ぐように前に立っては、作る笑みとは裏腹に強い力で押し戻してくる。僕は「ふざけんな」と声に出しては柏田の場所まで行こうと試みたが、山下の力に抑え込まれては押し戻された。あずみはうつむいたまま“何か”を知ったように背中を丸めて歩いていった。
僕とあずみは山下に強引に外に連れ出されてはゴミをすてるように僕の体を突き放した。
「お前なー、、、」
僕は突き放される体をよろめかせては、見下ろす山下の胸ぐらを掴むように手を伸ばした。山下は僕の伸ばす手をつかんでは引き寄せるように僕を引っ張り、耳元で意味深な言葉を呟いては、また同じように突き放した。
「お前、、どういう意味だ?」
腰から倒れた僕は、見上げるように山下に言葉を投げつけた。
「そのまんまですよ。。。センパイ」
山下はそう言っては見下すような目付きに、頬を上げては中へと入っていった。
「お前なーやましたー」
壁で見えなくなる山下を追いかけるように体を起こしては前を向いた。
「あ、あずみさん。大丈夫ですか?」
「大丈夫?何かされた?」
うつ向き佇むあずみに、外で待っていたみずきとよし乃が走りよってはあずみを支え抱いた。
僕はその声に振り返っては“何も”出来なかった自分に、拳を握り降り下ろした。
「くそっ。。なんなんだよちくしょう」
冷静に考えれば、僕には“何も”できることはない。仮に“何か”をするとしても具体的なモノはなにもない。ただ、その場で、聞くことぐらいしか出来ない。
僕はみずきとよし乃にあずみを頼んでは、今日は一緒に居てあげてと伝え、「わかった」と、二人は顔を見合っては頷いた。
木ノ下裏別荘から、みずきの車を見送っては柏田の車に寄りかかりため息をついた。
「山下のやつ、、、なんなんだよあれは。。、」
山下の言葉に頭を悩ませては、柏田の出てくるのを待った。
あずみは全部知ってしまったのだろうか。柏田は、目的を果たせたのだろうか。知る必要もない関係を知ってしまったがゆえに、今までよりにもまして“深く”なってしまった。人を好きになればなるほど、知れば知るほど自分の手からこぼれ落ちていくような感情に、“好き”にならなければ、“深く”知らなければと、後悔に似た思いが出てくる。
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「人を好きになるってことは、全てを知るってこと。その全てを受け入れる覚悟はあって?」
「人はみな、隠してるモノが多い。それゆえに“魅力”なのだ」
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柏田の車に寄りかかっては、昔見た映画の台詞を思い出しては下唇をかんだ。
「よー、、、わりーな。待ってたんか?」
「か、柏田。。。」
屋敷の方から声が聞こえては振り返った。柏田は、目的だったことはやりとげたはずなのに、今一つ浮かない顔をしては苦笑いを浮かべている。その後ろには山下がいた。
「お前、、山下、、、」
「いいんだ。もう。。。あいつは関係ねーから。。」
「え?でも、、、」
「いいーんだ。。。。行くぞ」
柏田は僕に車の鍵を投げ渡しては「頼むわ」と、言葉をだして助手席のドアをあけた。僕は「わかった」と、返しては車に乗り込み、窓越しに山下を見た。山下は、眉毛を上げては作り笑顔を見せてきた。
「山下め、、」
「いいから。。」
柏田は僕を見ては言葉をだしドアに肘を置いては頭を支えている。僕は納得のいかない思いにため息をついては車を走らせた。車のサイドミラーには山下の姿が映り込んでいた。




