どうやら、「まだ」プロローグは終わらないらしい
山下と父親が居る裏別荘からゆっくりと離れていった。何か解決したのかさえわからないまま柏田を乗せて車を走らせていく。狭い路地を抜け、大通りに差し掛かる交差点で車を止め、柏田を横目に見ながらよし乃にメールを送った。送るメール画面を閉じながら、暗くなる画面に自分の顔が写る。
「、、、、、」
疲れきった顔に、何もできなかった自分を卑しめるように見つめてくる。何もできなかった。何もさせてもらえなかった。自分はなんのために“そこ”にいたんだ。どうしようもない言い訳を責め立てるように自分に突いては、自分の顔を見つめていた。
「青だぞ」
「あっ、ごめん」
携帯を握りしめうつ向く僕に柏田は言ってきた。僕はその声に前を向いては我に返り、携帯を閉まってはアクセルを踏んだ。
何かをやり遂げたはずなのに、車内は喪失感に覆われている。それは、柏田からだす“モノ”なのか僕からだす“モノ”なのか。何とも言えない空気に包まれている。
「なぁかしわ、、、」
「なんかわりーな。巻き込んだみてーでよ、、、」
「え?、、」
何も話さなかった柏田が口を開いては言葉をだしてきた。
「、、、あずみとあいつの旦那、別れからよ」
「え、、、ああ、別れるんだよね?聞いたよ」
「違ーよ。きちんと別れるんだ。あの父親も了承した」
柏田はあずみの父親に“別れる”話を突きつけたらしい。その事で少し言い合いになったみたいだけど、その件は“終わる”みたいだ。
「良かったな。お前もこれで“告白”したことに、“隠す”必要ねーからよ。。」
「え、、、こ、告白って、、」
「誤魔化さねーでいいよ。お前が“言って”んの知ってんだからよ」
「お、、お前まさか、、」
柏田は驚く僕の声を聞いては遠い目を外に向けては鼻で笑った。
「わりーな。。お前があずみに言ってんの聞いちまったんだよ」
「お、、おま、、」
「だからよ、あずみの事、、頼むな。。。」
柏田は何処か遠く、心ここにあらずに僕に話してくる。普段と変わらない言葉なのに何処か穴が空いているように思えた。
「柏田、、お前と会ってまだそんな経ってないよな?」
僕はそんな柏田につい昔話をするように声をかけた。自分としても何で話したのかさえわからなかった。
「なんだよいきなり。。」
「ん?別に意味はないけど、なんとなくな」
僕は柏田に“出会った”頃からの話をしては、柏田に対する思いも話をした。柏田は「何だよそれはよ」と、失笑するかのように言葉にしては会話をしていった。
幼少の頃から知っていた訳じゃない。昔からの知り合いでも友達でもない。たまたま同じ日に入社しただけ。なのに、何年も前から知っているような感覚にもなっていく。全部知っているようで知らない。わかっているようでわからない。そんな関係が時間と共に色濃くなっていく。
「、、で、思ったんだよ。僕は柏田、お前みたいにはなれないって」
「はは。そんなの当たり前ーだろ」
「だろ?当たり前だろ?だからよ、、僕は柏田みたいにはなれないんだ」
「。。。お前、、何言いてーんだ?何か言いてーんなら、ハッキリと言えよ」
遠回しに言う僕に柏田は語尾を強く言ってきた。僕は何を言いたいのか、何を伝えたいのか、自分自身わかってはいなかった。勝手に口が開いては言葉を発し、なのに頭の中は真っ白だった。
「。。。言いたいことや、聞きたいことは“山ほど”あるよ。けど、それは僕から聞くことは出来ない」
「。。。。」
「僕だって言いたくないことや、聞いてほしくないことはある。けど誰かにわかってもらいたいってこともあった」
僕は自分自身何を言っているのかさえわからないまま、勝手に開く口を閉ざさずに動かしていった。それはまるで別人になったかのように。
「あの中で何があったのかはわからない。けど、何も話してもらえないならそれでもかまわない。。。だけど、柏田、、このまま居なくなるなよ?」
僕は柏田が居なくなるんじゃないかと、姿を消すんじゃないかと思えて仕方がなかった。この会社に入る前もそうだったように。全てを犠牲に、全てを背負うように居なくなるんじゃないかと。僕は握るハンドルに力を入れては前を向いて柏田に話しかけていった。
「柏田、お前はすごいよ。全部を一人でやってしまうんだから。僕なんて何も、、、」
「俺は、、俺は何も“一人”で、やって来た訳じゃねー。誰もいなかったんだ。誰も“近く”にいなかったんだ」
「。。。。」
「俺だって、お前みてーに誰とでも“気安く”仲良くなろーとしたこともあった。けどよ、そこには“壁”みてーのがあってよ、どうしても“同じ”ようにはなれなかった」
「、、それはお前の生い立ちが関係してるっていうことか?」
「、、、たぶんな」
柏田は柏田の思う感情のまま話をしてくる。今まで見たこともない姿であり、どこか近くにも感じた。
「俺はよ、、別に気にしてはなかったんだけど、、、やっぱ気にしてたんだろうな、、」
柏田はそう言葉を発すると椅子の背もたれを少し下げては首の後ろに腕を組み、車の天井を見るように顔を向けては目をつぶった。
「なあ、柏田?お前はこの先どうしたいんだ?生い立ちがどうのって言うけど、それはもう、、、」
「あ?あぁ、終わったな。もう終わった。。。」
何を持って“終わった”のかは僕にはわからない。それは柏田にしかわからないことだ。
「、、俺の事はいいーんだけどよ、お前どうすんだ。あずみの事。よし乃の事もよ?」
柏田は話を変えるように僕に聞いてきた。僕は少し躊躇いながらも今日あった出来事を話していった。それはよし乃から言われた言葉も一緒に。
「そんなこと“言わせた”のか?」
「う、うん」
「情けねーな」
柏田は少し笑ってはどこか寂しそうだった。柏田はあずみの事が好きだった。好きだったはずだ。けどどうあがいても一緒にはなれない。側で助ける事しか柏田には出来ない。
「柏田、、聞いていいか?」
「あ?何だよ」
「お前は、あずみと一緒になれないってわかってて“やった”んだよな?」
「あぁ」
「お前は、何でそこまで“出来るんだ”?」
「あ?そんなの当たり前だろ?女の、、、」
「“女の泣いた顔は見たくねー”だろ?」
「あぁ。そうだ」
「でもさ、それって自分はどうなんだ?自分は、泣いてもいいのか?相手が笑っていれば、それでいいのか?」
僕は柏田の口癖に、前から聞きたいと思っていた。
「あ?相手が笑ってればそれで良いだろ?それ以外何があるっていうんだ?」
「。。。そっか」
「何だ?」
「別に。。。」
「何だよテメーよ?言いてー事あんなら言えってんだろ?さっきから煮えきらねー野郎だなー」
ハンドルを握る僕の体を掴んでは暴言を吐くように言葉を投げつけてきた。
「テメーにはわかんねーだろ?どんな思いで生きてきたか。事実を言えずに“隠す”ように、人を騙すかのように生きてきた俺の気持ちなんかよ?」
「わからないよ、そんなの。言われなきゃわからないし、言われたところで、わかるわけないじゃん。。。あずみだってそうだろ?何も知らなかったんだ。。。知らなかったんだろ?。。。だけどさ、言われないより言われた方が良い。“生きて”んなら話してもらわないと、、、、伝わらないよ。。それが“わかりきっている”ことでも伝えて欲しいよ。。。」
僕は柏田に言い返しながら、ジェシーの事を思い出した。言いたくても言えない、伝えたくても伝わらない。言葉にすることさえ出来ないで、自分を押し込んでいったジェシー。相手を最優先にしながら、自分の思いを口にしないで、自分から“居なくなる”。自分はそれで“良い”のかもしれない。良くはないけど、相手は“わからない”まま。その時の“時間”だけが止まってしまう。僕はジェシーと“2回”別れた。それも相手から。ジェシーは、僕を思っての事であり、ジェシーを責めるようなこともない。けど、言えるのなら、伝えられるのなら“わかりきっている”事であっても、伝えなきゃ相手は笑えない。僕はその事をよく知っている。あの、伝える事の出来ない思いと、居なくなってしまう辛さ。
走る車を止めては横に座る柏田に問いかけ、僕は携帯の画面を開いてはボタンを押して、ポケットにしまった。
「柏田、、僕はお前と会ってから変わったんだ。その他にも色んな人達と出会って、気づいた事が沢山あった。僕を好きでいてくれる人、陰で支えてくれる人、好きと言う感情を思い出させてくれた人。それに無理矢理引っ張りだすヤツ。そんな人達と出会って改めて思った事がある」
「。。。。。」
「どんな状況だろと、どんな関係だろと“言わなきゃ”わかんない。伝える相手を“間違っちゃ”いけないんだ。」
「お前な、、、」
僕は横目で柏田を見てはゆっくりと息をはき、言葉を大きく出して声にした。
「僕の近くに悩んでる人がいます。その人にはハッキリと出来ない思いのある人がいます。相手を思うあまり自分を押し殺そうとする人がいます。“神様”どうか救ってください」
僕はそう言葉を口にしては胸の前で手を握り拝むように頭を下げては柏田を見た。柏田は「テメーなあ」と言って苦笑いをした。
「。。。わかったよ。“言えば”良いんだろ?言えばよ。。」
「え?言うだけじゃないよ?」
「あ?」
「言うだけじゃ“意味”がない。」
「何だよそれ?」
「言うんじゃなく、“伝える”んだ」
「あ?同じだろうが」
「違うよ。相手を思うんだから、言うだけじゃダメなんだ」
「ッチ。。なんなんだそれはよ。。。」
僕は苛つくように舌打ちを繰り返す柏田を見ては、人差し指を立てては“教える”ように声にした。
「“泣いた顔を見たくはない”じゃなくて、“笑った顔を見て見たい”しゃない?」
「あーわかったわかった。もうわかった。言うんじゃなくて伝えれば良いんだろ?」
「うん。そう。それがたとえ“わかっている”結果だとしても、、ね」
僕はそう言ってはポケットから携帯を取りだし声をかけた。柏田は「通話もしてねーで何言ってんだ?」と僕を見てくる。僕はそんな柏田を見ては笑みを作り、手に持つ携帯の画面を見せては言葉を繋げた。
「そういうことだから。よし乃、今からそっちに向かうね」
「はい、、わかりました、、あ、あの、、、あずみさんなんですけど、、、」
「。。。。」
「、、、けんちゃん。。。ゴメンね。。ゴメンね。。。」
「あ、あずみ、、、」
柏田はあずみの声を聞いては身を乗り出しては両手で携帯を掴むように前にだしてきた。僕はその手を離さすように携帯を上にあげては「では今からむかいますねー」と言葉にしては携帯を切った。
「柏田、もう“隠す”事はしなくていいんだから、何でも話してくれよな。同じ“思い”をもってんだからさ」
「。。。。。」
柏田は今まで溜めていた思いを吹き出すかのように涙を流した。
「泣いてねーからな」
柏田は聞いてもいない事を、僕に“伝えて”は、流れる涙を手で拭った。僕はそんな柏田を見ては、あずみ達が待つ場所まで車を走らせた。
言わなくても良いこともある。伝わらなくても良いものもある。けど、言わなければ、伝えなければ何も始まらない。その“時間”が止まったままだ。
僕はジェシーとの別れで気づいた事がある。よし乃と出会って知ったこともある。今回の事でも感じたモノがある。それはあずみにしても柏田にしても。伝えなければ何もわからない。言わなければ誰も見てはくれない。隠す事が“事実”ならば、見せる事もまた“事実”。どちらが“笑える”事が出来るのか。それは“口にしなければ”何もわからない。
僕は車を加速させては、あずみ達の待つ場所まで走らせ、みずきの車を見ては横に止めた。僕は車を降りて車の中にいるみずきに声をかけては、前に広がる公園に目をやった。
日が沈み街灯だけが影を作り、その下にあずみとよし乃が待っている。僕は二人の影を見ては柏田に声をかけ、こっちを見るよし乃に手を振った。よし乃は手を振る僕を見ては、あずみに何かを言っては走りよってくる。
「柏田、まずはお前からだな」
それは自分自身にも言える事だった。何かを始めるためには、何かを“終らせ”なければならない。それは人によっては様々だけど、心にしまう“何か”にけじめをつけることを。
僕は車のドアを開けては柏田の体をさわり、小さく頷いた。柏田は鼻で笑っては「ありがとな」と呟いては、あずみのいる場所まで歩いていった。
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「あの二人の事、頼みました」
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裏別荘で山下に言われた言葉を思い返しては「これでいいんだよな」とつぶやいた。
「何がいいんですかぁ?」
あずみの元から走り来たよし乃が、僕の言葉に耳を傾けては覗き混むように上目使いをして見てきた。
「え?あっ別に何でもないよ。それよりも、、ありがと。。。それと、、ゴメ、、」
「待ってください。その言葉はまだ、言わないで下さい」
よし乃は僕の口を右手で塞ぐように抑えては顔を横に振った。
「え?でも、、、」
「えっとですね。まだ、終らせませんよ?私たちもまた何も“始まって”ませんから。気持ちを伝えた“だけ”ですから」
「え?でも、、、」
「そうですねぇ、、もし、今日のことで少しでも私に“引け目”を感じているのなら、、“デート”しません?」
「え?」
「“ご飯”じゃなく、“デート”です」 「う、うん」
「本当ですよ?約束しましたからね?あずみさんでも、“負けません”からねー」
よし乃はあずみと柏田の方を見ては自分の気持ちを声にした。僕はそんなよし乃の“ハッキリ”とした性格に少し羨ましさも思えた。
「まったくよしは、“兵士”なんだから。あなたも“変な”女に目をつけられちゃったね?」
車の中にいたみずきが僕の後ろから声をかけては横に並んで来た。僕は「そうてすね」と答えては柏田とあずみを見た。
「それって酷くないですかぁ?あんまりですよぉ。それに私は“今” を大切にしてるんですっ」
「あはは。やっぱよしは、“よし”だねぇ」
みずきとよし乃はお互いに言葉を伝えては笑いあっている。
僕は“笑える”ことができるのだろうか。そして、柏田とあずみは、どう“受け止める”のだろうか。
街灯の光りだけが二人を照らし、二人の時間を作っていた。
柏田は今日の事を話してくれるだろうか、あずみはどうなっていくんだろうか。知り行く二人の間に僕は入っていけるのだろうか。悩ましく思う関係にため息をついた。それと、山下にも、また“何か”があるのだろうと思いながら二人の姿を見つめている。




