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讐牟D.C.滅亡都市  作者: 天音ろっく
◆エヴァ・ハムリー◆age16

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15/16

いらない子(過去編)




「あ〜、どうしよう! 今すぐ帰らないと塾に間に合わないのに!」



 人もまばらになった放課後の教室で、困ったようにそんな声を上げるダリア。

 そんな彼女の目の前の机には、クラスメイト全員分のノートが積み重なっている。



「日直だからって、なんで私がやらなきゃいけないのよ」



 そんな愚痴を溢しながらも、口を尖らせて不貞腐れるダリア。



「ほんと、ダリアってツイてないよね〜」


「日直なんてただの雑用係だもんね」



 ダリアに同情するかのようにして、そんな言葉を口にするクラスメイト達。そんな見慣れた三人の顔ぶれは、私にとって当たり前の光景でもあり、それと同時に大切な友達でもある。

 そんな友達が困っているのだから、助けてあげたいと思うのは至極当然のことだった。



「私が持って行くよ」


「……え、いいの!?」



 見かねた私がそう声を掛けると、途端に明るい表情を浮かべるダリア。



「うん」


「ありがと〜、エヴァ! さすがは親友!」



 そう言って飛びついて来た彼女を受け止めると、そのままダリアを抱きしめ返して笑顔を浮かべる。



「じゃあ、行ってくるね。……また明日」


「うんっ、ありがとね。バイバイ」


「バイバイ、エヴァ」


「またね〜」



 そんなやり取りで軽く挨拶を済ませると、四十人分のノートを抱えて教室を後にする。たかがノートとはいえ、四十人分ともなると意外と重量がある。

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、ある重大なミスに気付いてピタリと足を止める。

 

 

(……あ。自分のノート)



 先程ダリアを抱きしめ返した時、私は手にしていたノートを近くにあった机の上に置いた。そしてそのまま積み上がったノートだけを持って、自分のノートは置いてきてしまったのだ。



(もう……、馬鹿みたい)



 呆れながらも来た道を引き返すと、再び教室に戻ってきた私は目の前の扉に手を掛けた。



「……ねぇ、いいの? あんな嘘ついて」


「え? 何が?」


「エヴァのこと」


「あ〜。そうそう、うちら遊びに行くだけじゃん」


「え〜、別にいいでしょ。だってエヴァだし」



 教室から漏れ聞こえるダリア達の声に、思わずピタリと止まる右手。



「まぁ……そっか。だよね」


「エヴァってさ〜、ちょっと可愛いからって調子に乗ってるよね」


「確かに〜。いい子ちゃんぶって、なんかヤな感じだよね」


「でしょ? この間なんか、具合が悪いって言ったら掃除当番変わってくれてさ〜。……嘘なのに」


「マジで? ウケる。私も今度言ってみよ〜」



 楽しそうな笑い声が響く中、力無くずり落ちてゆく右手。一体何がいけなかったのか、その理由さえもわからない。

 ダリア達と出会ったのは、今からちょうど二年ほど前の十三歳の頃だった。こんな何の取り柄もない暗いだけの私でも、ダリア達三人は温かく迎え入れてくれた。そう信じて疑いもしなかった二年間が、全て偽りの関係だったのだと──。その深い悲しみに、込み上げてくる涙で視界を滲ませる。


 結局、私はどこにいったって誰からも好かれない。その事実にそっと顔を伏せると、廊下に立ち尽くしたまま手元のノートを見つめる。

 そんな私の存在に気付くことなく別の扉から出てきたダリア達は、相変わらず楽しそうに声を弾ませながら遠ざかってゆく。その声も完全に消え去ると、一人残された廊下で虚しく響いたのは、ただ小さく啜り泣く私の声だけだった。




◇




────バシッ!



 叩かれた勢いでフラリとよろけると、じんわりと熱の帯びてきた左頬にそっと手を添える。ジンジンとした鈍い痛みは徐々に広がり、まるで左側だけが少し麻痺したような感覚だ。



「全部あんたのせいよっ!」


「…………。ごめんなさい」



 目の前にいる母に向けてそう謝罪をすると、それさえも気に食わなかったのか、更に吊り上がってゆく母の目元。その視線から逃れるようにして俯くと、床に零れ落ちた涙が点々としたシミを作ってゆく。



「どうせあんたが誘ったんでしょ!」


「ちが……っ、」



 顔を上げて母の顔を見ると、まるで穢らわしいものでも見るかのような視線を向けらる。その視線があまりにも悲しくて、思わず言いかけていた言葉が喉に詰まる。



「あんたさえいなければ……っ! あんたなんか生まれてこなければ良かったのよ!」


「……っ……」



 締め付けられるような胸の痛みに顔を歪めると、とめどなく溢れ出る涙で視界が滲んでゆく。

 そんな私を残して部屋を後にした母は、ちょうどお風呂上がりの兄にでも遭遇したのか、先ほどまでとは違った穏やかな声色を上げる。



『もう……シオンたら、ちゃんと髪は拭かないとダメでしょ。風邪でもひいたらどうするの』


『これぐらい大丈夫だよ。母さんは相変わらず心配性だね』


『子供を心配するなんて、親なら当たり前でしょ。……さ、晩御飯にしましょ』


『うん。……エヴァは?』


『具合が悪いんですって。もう寝たみたいだから、そっとしておきましょ』



 そんな言葉を残して廊下を後にした二人。


 物心がつく頃から、母に嫌われているのはなんとなく分かっていた。きっと、優秀な兄とは違って不出来な私のことが気に食わなかったのだろう。

 それでも、ここまでハッキリと拒絶の言葉を向けられたのは初めてのことだった。昔から分かっていた。とっくの昔から分かっていたはずなのに──。



「……っ、ぐす……」



 それでもどこか、少しだけ期待してしまう自分がいた。──私も愛されたい。

 

 でも、その願いはきっと一生叶うことはないのだろう。


 私なんて、誰からも必要とされないし好かれることもない。そう諦めることで、いつしかこの痛みから逃げることばかり考えるようになっていった。




 

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