遠くて×近くて 後編
隣に座るあなたは、私を気にせず夜空を見上げてる。 いつもと変わらないあなた、変わったのは私。いつも見ていただけの私が、今日は隣にいる。 あなたを横で見つめられる。
「あの。 いつも、ここに来てますよね?」
沈黙は嫌だった。 次があるかもわからないこの距離を、無駄にしたくはなかった。 あなたは夜空を見上げたまま口を開く。
「……本城 悟と言います。 あなたのお名前は?」
帰って来たのは返事ではなく、私と同じ質問だった。 少し戸惑ったけど、それでも嬉しかった。 声を聞けたこと、名前を知ることが出来たこと、なにより…… 私の存在をあなたに教えることが出来たから。
「私は…… 野中 彩、と言います」
「……… 彩さん、ですか。 いいお名前ですね」
そう言う彼の視線は、夜空から私へと向けられた。 まっすぐにこちらを見つめるその目には、やはり寂しさが漂っているように見えた。
「ありがとう、ございます。 ……それで、本城さんはここで何を?」
「……… 人を待ってます。 約束をしたのはだいぶ前なので、いつ来るかも分からないんですけどね」
そう言ってまた夜空を見上げる。 きっと大事な人なんだ、私はそう思った。 自分なりに想像はしていた。 あなたには大事な人がいるということは。 そして、こんなにも想ってくれる人がいるその人はきっと、幸せなんだと。
近くにいたいとどれだけ願っただろう。 でもそれが出来なかったのは、私が臆病なせい。 そして、あなたに近づけばこの気持ちに名前と、終わりを告げることになる。 そんな風に思っていたからだ。 想い人を待ち続けるあなたに、待たなくていいと誰が言える? いつ来るか分からなくても待ち続けるあなたに、私を見てなんて…… 言えるはずない。 私はゆっくりと立ち上がる。 始まりもあやふやな、恋と呼ぶには不安定な感情。 でも終わりをあなたが告げてくれたから、心残りは無い。
私はあなたを見ていた。 見ていたいと思えた。そんなあなたに私がしてあげられることはーー
「本城さんの大事な人、来てくれると信じています」
あなたの愛を、応援することです。
「ありがとう。 ……… ごめんね」
あなたの言ったごめんねと言う言葉に、私は終わりを受け入れられた。 きっとあなたは、私が隠した言葉を分かったんだ。 それを受け止めてくれた。そう思えるだけで、悲しい気持ちは不思議となかった。
これを恋と呼ぶにはふさわしくないのだろう。憧れにも似た、恋と呼べる前の感情。 一体なんと呼ぶのがふさわしいだろう。 分からないけど、一つ言えるのは……
私は誰かを好きになった。 それだけは嘘偽り無い真実だから。
§§§§
「君に似ていい子に育ったよ。 彩ちゃんは」
きっと彼女は覚えていないだろう。 僕と会ったのはまだ彼女が小学生くらいの時だからね。 もう10年近く会ってなかった僕を、やはり覚えてはいなかったみたいだ。
いい子だったでしょ?
「……… ああ。 今の彼女を初めて見た時、出会った頃の君が蘇ったかと思った。 それくらい、綺麗になったよ。 君の大事な妹は」
あの子の気持ちに応えてあげないの?
「……… 知っているだろう? 僕は臆病で女々しいんだ。 こうやって今も、来るはずも無い君を待ち続けているんだから。 でも、謝ることは出来た。 君を幸せに出来なかったこと、彼女から君を奪ったことを。 …遅すぎるけどね」
意気地なし。
「うん、そうだね。 でも、しょうがないんだよ」
彩ちゃんに君の面影を感じてしまうから。 もう一度失うかもしれないと思うと、触れることは出来ないんだ。
どれだけ思っても、私はもう悟には会えないよ。だから……… いい加減前を向きなよ。
「……… もう、何も言ってくれないのかい?」
君の眠る墓の前で。 僕はゆっくりと目を開いた。聞こえなくなった君の声。 本当に君が話しかけてくれたのか、それとも僕が頭の中で作り出した妄言なのか。 僕は君だったら良いなと思うよ。 今、君の目の前で聞こえていた声がやんだ。 それはさ。 君が僕を許してくれたように、背中を押してくれたように思えるから。
さよなら、遠くにいる僕の大切な人。 いつかきっと、また出逢えると信じてる。 僕はその場から歩き出した。
彩泣かせたら怒るよ。
後ろから聞こえた、ような気がした声。でも振り返らなかった。
「本城さん? なんでこんなところに……」
「……彩さん」
…… 君は本当に、お節介だね。 それに無茶苦茶で後先考えない人だった。 本当、嵐のようだね君は。
君の目の前で、もう一度僕に恋をしろと言うのかい?
長くなりました。 読んでいただきありがとうございます




