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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第92話 グリンの意地

『グアッ!』


 全身に炎のようなオーラをほとばしらせ、金色のモヒカンを逆立てた山のボス――【バーニングリズリー】は、小手調べとばかりに口から火の玉を吐き出した。


 直撃すれば、自慢の緑のアフロヘアーは一瞬で黒コゲだ。


 そう判断した【モリモール】のグリンは、モグラらしくすばやく足もとの草と土をかき分け、地中にもぐって回避した。


「なるほど……!」


 アリスは思わず声をもらした。


 正直なところ、仲間にすることを想定していなかったモグラ型ワンダーに対して、どう指示を出すべきか迷っていたのだ。


 だが――今の動きで、その可能性が見えた。


 思い返せば、グリンが地中を進むスピードは目を見張るものがあった。


 この能力をうまく活かせば、格上相手にも勝機はある。


(うまくハマれば……ジャイアントキリングもいけるかも!)


 アリスはそう期待する。


 一方、標的を見失ったボスは、怒りの形相で地面をにらみつけた。


 どこへ消えた――とばかりに、周囲を見渡す。


 ボスの瞬発力は、あの巨体からは想像もつかないほど高い。


 中途半端なタイミングで地中から飛び出せば、その瞬間に叩きつぶされるだろう。


 まさに――モグラたたきのような緊張感だった。


 アリスを応援する緋羽莉たちも、思わずごくりと息をのむ。


 その静けさの中で、緋羽莉はじっと戦場を見つめ続ける。


 大きな黄色いひとみは不安に揺れながらも、どこまでもまっすぐで――アリスへの信頼だけは、少しも揺らいでいなかった。


 胸元に抱いたりんごの重みとぬくもりを感じながら、彼女は小さく息を整える。


 胸の奥でどくんと大きく鼓動が鳴るのを感じながら、無意識にりんごを抱く腕へ力をこめた。


 やわらかな胸元に押しつけられたりんごの頬に、彼女の体温と、ほんのり甘い香りがふわりと伝わる。


 その一方で、長い脚はしっかりと大地を踏みしめ、しなやかな筋肉がぴんと張りつめていた。


 時間だけが、じわりじわりと流れていく。


 ボスのすみかである広場には、耳が痛くなるほどの静寂がひろがった。


 ――グリンは、まだ出てこない。アリスも、あえて指示を出さない。


 ボスに明確なスキが見当たらない以上、無理に動かすのは危険だと判断したからだ。


 だが、その膠着状態は長くは続かなかった。ついにボスの我慢が限界に達する。


『そっちが出てくるつもりがねェなら――! 文字通り、あぶり出してやる!』


 そう叫ぶと、大きく息を吸い込み――地面に向けて火炎を吐き出した。


 ゴオオオオッ!


 猛烈な熱風と炎が地表をなめ尽くす。


「きゃあっ!」


 アリスは思わず身をよじった。


 後方では、緋羽莉がりんごと閃芽を守るように抱き寄せ、大きな背中で熱を受け止めている。


 炎の熱風にさらされ、緋羽莉の緋色のポニーテールが大きく揺れ、黄色いリボンがひらひらと舞う。


 オフショルダーのすきまからのぞく肩や鎖骨には、うっすらと汗がにじみ、そのしずくがつややかな肌の上をゆっくりとすべり落ちていく。


 それでも彼女は一歩も引かず、包み込むような腕でふたりを守り続けていた。


 広場はあっという間に炎に包まれ、まるで山火事のただ中のような光景へと変わった。


 そして――


『モリ~ッ!』


 地中にいたグリンが、たまらず悲鳴をあげながら、ぴょーんと地上へ飛び出してきた。


 その位置は、ちょうどボスの背後。どうやら、背後からの不意打ちを狙って潜んでいたらしい。


 しかし、地表を焼き尽くす炎によって、浅い地中はまるでサウナのような状態になっていた。


 さすがに耐えきれず、飛び出さざるを得なかったのだ。


 まさに、ボスの言う“あぶり出し”そのものだった。


『見つけたぞ、モグラめ!』


 ボスは目をギラリと光らせ、振り向きざまに一直線にグリンへと突進する。


 グリンはあわてて、再び地中にもぐろうとするが――周囲はすでに火の海。地面そのものが焼けつくような熱を帯びており、とてももぐれる状態ではなかった。


 もともと、その熱に耐えられず飛び出してきたのだから、当然といえば当然だ。


 まごつくグリンに、容赦なく迫る影。


 次の瞬間――赤熱化を通り越して、炎をまとったボスのツメが、振り下ろされる!


「受け止めて! 《クロークロール》!」


 その一瞬に、アリスのするどい指示が飛んだ。


 グリンはハッと目を見開き、反射的にその言葉に従う。


 硬い土をもたやすくかき分ける、長く鋭い右のツメで――ボスの炎のツメを、真正面から受け止めた!


 ガキィーン!


 ツメ同士がぶつかったとは思えない、金属のような衝撃音が響く。


 予想外の反撃に、ボスはわずかに体勢を崩した。


 ――チャンス。そう言いたいところだが、


『モリィッ!?』


 グリンはパワーで押し負け、そのまま後方へと吹き飛ばされてしまう。


 受け止めたツメにはヒビが入り、次に同じ衝撃を受ければ折れてしまいそうだった。


 さらに――チリチリ……と、焦げる音。


『モリ~ッ!』


 周囲の炎の熱で、アフロヘアーが焼けはじめ、グリンはあわてて飛び起きた。


 だが、そのおかげで結果的に体勢を立て直し、次の攻撃に備えるわずかな時間が生まれる。


 ――にもかかわらず。目の前で怒りに燃え上がるボスの姿を見た瞬間、グリンの心はふたたび恐怖に飲み込まれてしまった。


 せっかくつかみかけた流れが、またしても、崩れようとしていた。


 そこに――


「まだよ、グリン! 《クレイショット》!」


 アリスの指示で、グリンはかろうじて我に返った。


 グリンは、モモとのバトルや、ウォッチの中で見たブルーやミルフィーヌの戦いぶりを通して、主人(マスター)であるアリスの言葉が、どんなときも状況を好転させてくれるという信頼を、しっかりと理解していた。


 だからこそ――恐怖に震えていても、すぐに行動に移すことができた。


『モ……リーッ!』


 グリンは目をキラリと光らせ、右のツメで地面をすばやくかき出し、その勢いのまま土を放った。


 それは、さきほど地下で【キングハナモグラ】が使っていた技。見ていたからこそ、まねることができたのだ。


『ぶへっ!?』


 放たれた土は、ボスの顔面に命中。


 ダメージは小さいものの、ひるませることと、視界を奪うことには成功した。


 ボスは両手で目をおおい、その動きを止める。


 心なしか、まとっていた炎のオーラも、わずかに弱まったように見えた。


「いまよ! 《クレイショット》連射!」


 アリスのさらなる指示に、グリンは両手をぐるぐると回しながら、かき出した土を次々と投げ続ける。


 そのようすは、まさに散弾銃(ショットガン)のようだった。


 放たれた無数の土のかたまりが、的当てのようにボスの体へと降りそそぐ。


 一発一発の威力は小さくとも、その積み重ねは確実にボスの体力を削っていく。


 ボスは視界を奪われているため、防御も反撃もままならない。


「まるで……ハメ技みたいな状態だね……」


 後方から観戦していた閃芽が、小さくつぶやいた。


 だが、それも長くは続かないだろう。


 先にグリンの腕が限界を迎えるか、あるいはボスの怒りがさらに爆発して、この攻撃をものともしなくなるか――どちらにせよ、時間との勝負だ。


 そのことは、アリスも当然わかっていた。だからこそ、力強く叫ぶ。


「フィニッシュよ! とびきり大きいの、ぶつけちゃえ!」


『モリーッ!』


 グリンは大きく鼻息を噴き、両手のツメを地面に突き刺した。


 ボコッ!


 地面が大きく盛り上がり、特大の土のかたまりが持ち上がる。


 その大きさは、身長1.5メートルのグリンの、さらに1.5倍ほど。


 もはや“ショット”という規模ではない。さしずめ――《クレイボンバー》とでも呼ぶべき一撃だった。


 グリンは全身の力をこめ、雄たけびとともにそれを放り投げる!


 ドゴオオォン!!


 巨大な土塊はボスの胴体に直撃し、激しい衝撃とともに砕け散った。


 その威力で、ボスの巨体はズズーンとあおむけに倒れ込む。


 まとっていた炎のオーラも、まるで消し飛ばされたかのように、すっと消えていった。


 それに呼応するかのように、広場を覆っていた炎も、しだいに弱まり――やがて完全に消え去った。


「……勝った?」


 アリスは、まだ信じきれないようすでつぶやく。


 グリンはその場にへたり込み、肩で大きく息をしながら、はあぁ……と長い吐息をもらした。


「今度こそ……終わった……よね?」


 緋羽莉の胸に顔をうずめていたりんごが、不安そうに問いかける。


「まあ、オーラも炎も消えたし……そう見ていいんじゃないかな」


 閃芽はメガネをくいっと持ち上げながら、冷静に答えた。


 ……しかし。


 ただひとり、緋羽莉だけは、胸の奥に残るざわめきを感じ取っていた。


 戦いが終わったにしては、空気がまだ熱すぎる――そんな直感。


 大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。その動きに合わせて、豊かな胸元がわずかに上下し、緊張と集中が静かに高まっていく。


「……ううん、まだだよ」


 そして、けわしい表情で戦場を見すえながら言った。


 その声には、はっきりとした確信がこもっていた。


 次の瞬間――


 倒れていたボスの体が、突如として燃え上がった!


 ズゴオオオオオッ!!


「きゃっ!?」


『モリーッ!?』


 アリスとグリンが思わず身をすくめる。


 同時に、周囲の空気が一気に熱を帯び、広場全体が再び炎に包まれていく。


 ――すぐに理解できた。これは、最悪の答えだと。


 山のボス、バーニングリズリーとの戦いは――まだ、終わっていなかった!

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