第83話 対決!キングハナモグラ!
学校の裏山異空間――その地下にひろがる、モグラ系ワンダーたちのナワバリ。
その奥に存在するお花畑で、アリスたちは【ハナモグラ】の親玉、【キングハナモグラ】とバトルをすることになった。
またしても、とらわれのプリンセスとなってしまった親友の緋羽莉を救うために。
しかも今回は、キングの花嫁という、彼女の命運がかかっている。
絶対に負けられない戦いが、いまはじまろうとしていた。
「すう……すう……」
……にもかかわらず、元凶ともいえる緋羽莉本人は、広間の奥にあるお花畑の上で、のんきに寝息を立てていた。
色とりどりの花びらに囲まれ、まるでお姫様のベッドのような花のクッションの上で、すやすやと眠っている。
さぞステキな夢を見ているのか、しあわせそうな顔を浮かべていた。
そのようすが、閃芽にはどうにも腹立たしかった。
(まったく……人が命がけで助けに来てるっていうのに……)
とはいえ、いまは文句を言っている場合ではない。
「《ハニースパイク》!」
アリスが鋭く指示を出す。
パートナーの【ワンダフルプリンセス・ミルフィーヌ】が、アメ細工のように透き通った水色の剣を構え、一気に地面を蹴った。
きらり、と剣先が光る。
次の瞬間――一直線の突きが、キングハナモグラのどてっ腹めがけて突き出された。
『それはもう、食らわないもんね!』
ガキーン!
金属がぶつかったようなするどい音が響いた。
キングは、花の形のサングラスをキラリと光らせながら、左手の巨大なツメで剣をはじいたのだ。
「うっ……!」
剣をにぎる右腕に、びりびりと衝撃が走る。
ミルフィーヌは思わず顔をゆがめた。
突きをはじかれ、体勢がわずかに崩れる。
そのスキに――キングの右のツメが、大きく振り上げられた。
ズオッ!
地面をえぐるほどのいきおいで、振り下ろされようとしている。
「《ニードルサンダー》!」
だが、その瞬間――
閃芽のパートナー、【バリネズミ】のハーリーが遠距離から割って入った。
背中の針を電撃のヤリのように光らせ――
バリバリバリ!
鋭い電撃を、キングへと撃ち放つ!
『どわわ!?』
電流が全身を走り、キングの体がびくっと跳ねた。
ツメの動きが止まる。
その一瞬のスキをついて――ミルフィーヌは素早く後ろへ飛び退いた。
ドン!
キングのツメが地面を叩きつけ、やわらかな土が派手に舞い上がる。
もし直撃していたら、ただでは済まなかっただろう。
まさに間一髪だった。
「っ……!」
りんごは、勇んでバトルに加わったものの、まだ戦いの輪に入れていない。
巨大なキングハナモグラの迫力に、足がすくんでしまっているのだ。
パートナーの【ワカバズク】――アイザックも、ちらりと心配そうに後ろを振り返った。
『みんな、がんばれっ!』『キュー!』『モリー!』
アリスのほかのパートナーたち――ブルーとモモとグリンは、ウォッチの中から声援を送っていた。
とくにグリンは、同じモグラ系ワンダーである以上、その親玉ともいえるキングハナモグラに、正面から立ち向かう勇気が持てない。
だからこそ、こうして安全な場所から応援することしかできないのだ。
一方、ブルーとモモはちがう。
いつでも出番が来てもいいように、じっと戦況を見守りながら準備を整えていた。
なにしろ――
『はあ……はあ……』
いまバトルフィールドに立っているミルフィーヌは、すでに汗びっしょりで、かなり疲れているからだ。
三体の【トオレント】との激しい戦いで受けたダメージと体力が、まだ完全には回復していない。
それに加えて――突き刺した剣から、相手の体内に直接衝撃波を送り込む大技——《ハニーショック》。
この技は、相当なエネルギーを消費する。
ミルフィーヌは、トオレント戦で一度。さらに、さきほどキングへの不意打ちで一度。すでに二回、使用している。
おそらく、いま残っている体力では――撃てて、あと一発。
さらに、ほかの技などでスタミナを消耗すれば、撃つことすらできなくなるだろう。
どちらにしても、ミルフィーヌが長く戦えないのは明らかだった。
そうなれば――休んで体力がある程度回復したブルーか、まだまだ元気いっぱいのモモの出番になる。
『今度はこっちの番だ! くらえっ!』
キングハナモグラは、ぐっと両脚を踏みこむ。
「衝撃波が来るよ!」
アリスは、洞察力による得意の先読みでキングの次の攻撃を予測し、みんなに注意をうながした。
そして、その予想どおり――
キングはその場で大きくジャンプし、ズーン! と地面に着地。
その瞬間、地面が波のようにうねり、土と花びらを巻き上げながら、衝撃の波がミルフィーヌたちめがけて襲いかかる!
『はあっ!』『キュッ!』『フッ!』
三体はそれぞれ大きくジャンプし、迫りくる衝撃波を軽やかに跳び越えて回避した。
うしろで見守っていたアリスたちも、すばやく回れ右してその場から退避したため、被害はゼロだ。
「ミルフィーヌっ!」
アリスはすかさず振り返り、合図を出す。
ミルフィーヌは左手に発生させた肉球バリアを、右手の剣にポンと押し当てた。
パチン、と小さく光が弾ける。
バリアの反発力が剣に付与され、刀身がぐいーんと伸びる。
そしてそのまま――キングハナモグラのおなかを一直線に貫いた!
『おおうっ!?』
キングは、ブスッと突き刺さった痛みに顔をゆがめる。
だが、それはほんの一瞬のこと。
その直後――
「『《ハニーショック》!』」
ドオン!
『もぎゃあああ!』
突き刺さった剣から、体内へと衝撃波がほとばしる。
本日二発目の大ダメージ。
キングは口からもくもくと煙を吐き、目をぐるぐるさせて放心した。
「すう……むにゃ……」
……こんなにもドでかい衝撃音が何度も響いているというのに、お花畑の緋羽莉はあいかわらず熟睡中。
花びらのベッドの上で、しあわせそうな寝顔を浮かべている。
そのかすかな動きに合わせて、ほのかな甘い香りがふわりとひろがった。
これでは本当に、眠り姫そのものだ。
頭にはピンクの花の冠。ゆるやかなウェーブのかかった緋色の髪が花びらの上にひろがり、まるで花園の妖精のようにも見える。
無邪気な寝顔と、小学生離れしたすらりとした体つき。そのふしぎな組み合わせが、見る者の目を自然と引きつけてしまうのだった。
―—もっとも、いまはそれどころではなく……
『はあ……はあっ……!』
ミルフィーヌは、どさっとひざをついた。
その瞬間、右手ににぎられていたアメ細工のような剣が、さらさらと光の粒子になってほどけていく。
剣を形成できるほどのマナが、もう残っていないのだ。
「やったの……?」
りんごが胸の前で両手を組み、おそるおそるつぶやく。
キングハナモグラは、地中の天井を見上げながら、ぐったりと立ち尽くしている。
まるで、立ったまま気絶しているようにも見えた。
アリスと閃芽も、その様子を静観している。
本当にこれで戦闘不能になったのなら、追い打ちをかけるのは淑女的ではないからだ。
『モグ~!』
背後の子分モグラたちも、不安げな声をあげた。
『モグー!』『モグモグー!』
すると、一体の子分がはりきったような声をあげたのをきっかけに、ほかの子分たちも次々と声を張り上げ、親分を鼓舞しはじめる。
地下のお花畑に、モグラたちの応援の声がこだました。
この完全アウェーの雰囲気に、アリスたちも思わずたじろぎ、のまれそうになる。
そして――
『うおーーーっ!』
気合一発。
放心していたキングハナモグラが、突如として雄叫びを上げた。
その声が地下空間を震わせ、りんごの体まで恐怖でびくりと震わせる。
『ありがとな! 子分たち! オマエらの応援、響いたぜ!』
『モグー!』『モググー!』
親分と子分の、コール&レスポンス。
そのようすは、思わずここが野生のフィールドだということを忘れてしまいそうになるほどだった。
「まだまだ元気そうだね……またまた、めんどくさい……」
閃芽は、いまいましそうに顔をしかめる。
今回は、緋羽莉の生命力によるパワーアップではなさそうだ。
しかし、その代わりに子分たちの応援が、同じ役割を果たしていた。
これもワンダーが持つ特性のひとつ――〈親分の意地〉。
精神論などではなく、実際に、パワーが上がっているのだ。
その証拠に――キングの体からは、ゆらめく炎のようなオーラが立ちのぼりはじめていた。
『よくもやったな! まずはオマエだ、犬っころ!』
キングは、その巨体には似合わない勢いで跳びかかってきた。
いまは人型なのに、ミルフィーヌが元は子犬だったことを一発で見抜くとは、さすがに王を名乗るだけはある慧眼だ。
そして突っこみながら、右手の巨大なツメを振り上げる。
ミルフィーヌは、ひざをついたまま動けない。
あのツメをまともに受ければ、確実に一発KOだろう。
「ハーリー! 《ロールガード》!」
閃芽は、これはまずいと思い、とっさに指示を出した。
『キュウ!』
ハリネズミのハーリーは、くるりと丸まり、黄色いトゲつき鉄球のような姿に変形する。
そのままボールのようにぽーんと飛びだし、ミルフィーヌの盾となって、キングのツメを受け止めた!
バキーン! バリバリッ!
『いってっ……!』
【バリネズミ】は、電気のハリネズミ。
全身に電気をまとっている〈ビリビリボディ〉の持ち主だ。
それに直接触れたことで、キングは電気によるダメージを受けたのだ。
いっぽう、強力なツメの一撃を受けたハーリーは、テニスボールのように弾き飛ばされた。
地面を何度もバウンドしながら転がり、いきおいよく閃芽の後方まで吹き飛ばされる。
本当にテニスだったなら、完全に点を取られていたところだ。
「ハーリー!」
閃芽は振り向き、パートナーの安否を確認する。
ハーリーは体を開いてハリネズミの姿に戻り、むくりと起き上がった。
衝撃によるダメージは受けたようだが、まだ戦うには支障はなさそうだ。
『頑丈だな……ツメにヒビが入っちまった』
キングは体をしびれさせながら、自分の右ツメを見つめ、いまいましげに言った。
ハーリーはもうひとつ、〈トゲトゲボディ〉という特性を持っている。
硬いトゲまみれの体に接触したことで、逆にキングのツメがダメージを受けたのだった。
「いまよ! もどって、ミルフィーヌ!」
キングがダメージにひるんでいる隙に、アリスはもう戦えそうにないミルフィーヌをスマートウォッチの中へ戻した。
光の粒子となって、ミルフィーヌの体がウォッチへ吸いこまれていく。
「いくわよ、ブルー! 準備はいい?」
アリスは、ウォッチの中で待機していたブルーに呼びかける。
『うん! いつでもいけるよ!』
観戦しながらも心の準備をしていたブルーは、元気よくうなずいた。
『あとは……おまかせします、ブルーくん』
戻ってきたミルフィーヌも、安心したほほえみを浮かべながら言う。
ブルーは、ほんのり胸が熱くなった。
『キュー!』
モモも、がんばって! と言いたげにブルーへ声援を送る。
そして――
ウォッチから光の粒子が放たれ、アリスの目の前に青い光の輪がひろがった。
その中から現れたのは、青いドラゴンの子――【セルリアンドラコ】のブルー。
(やるぞ……ぼくだって!)
ブルーは、いつになく前向きで、はりきっていた。
緋羽莉を助けたい。アリスの役に立ちたい。強くなって、おかあさんのもとへ帰りたい。
そんな思いだけじゃない。
ミルフィーヌの戦う姿を見て、自分もあんなふうに戦いたいとあこがれたから。
そのミルフィーヌや、モモが―—仲間が、自分に思いをたくしてくれている。
それに応えたいと思ったからだ。
はじめて芽生えた感情が、ブルーの心の炎を大きく燃やしていた。
ブルーは顔を上げ、自分よりはるかに巨大なモグラの親分を見上げる。
キングハナモグラは、ゆらめく炎のようなオーラをまといながら、こちらをにらみつけていた。
それに合わせるように、お花畑の中の緋羽莉が、ころりと寝返りを打つ。
長い脚が花の上でゆっくり伸び、スカートの裾がふわりとひろがる。
その動きだけでも、花びらがぱっと舞い上がった。
ふわっとひろがった髪から、ほんのり甘い香りが漂う。
地下の空気に混ざり、花畑の匂いをさらにやさしいものに変えていた。
それとは裏腹に、バトルフィールドには静かな緊張がひろがる。
――ここからが、本当のバトルのはじまりだ。




