第80話 突撃!地下世界!
異空間化した学校の裏山にて――
山道を進んでいたアリスと閃芽は、遭遇した大型のモグラワンダー【モリモール】を退けた直後――
地下に落っこちて別行動していた友だちのりんごから、親友の緋羽莉がさらわれたという連絡を受けたのだった。
「またさらわれるとか……キノコの王国のお姫さまかよ!」
閃芽は頭をかきむしりながら、いらだちを隠そうともせず吐き捨てた。
言葉づかいが荒れているあたり、相当怒っているのがわかる。
アリスも、なかばあきれたように苦笑いを浮かべていた。
足もとのブルーとモモも、なんとも言えない顔で見上げている。
――パニックに陥っていたため、りんごの話は要領を得なかった。
だが、どうやらトンネルのような地下の道を歩いている途中で、モグラ型ワンダーの大群と遭遇。
そのとき、緋羽莉が彼らに捕まってしまったらしい。
話を聞いた瞬間、アリスたちはそろって「あーあ……」という気分になった。
そして今も、あきれ半分、心配半分といったところだ。
とはいえ、いつまでものんびりしてはいられない。
さっきの木の怪物【トオレント】のときとはちがい、今回は"お姫さま救出ゲーム"ではない。
緋羽莉は生命力のかたまりのような女の子だ。
もし本当にモグラたちの巣に連れ込まれたのだとしたら……今度こそ、エサにされかねない。
この裏山では、これまで死人が出たという記録はない。
しかし――だからといって、絶対に安全とは言いきれない。この世に絶対はないのだから。
それに緋羽莉は、なにかと規格外な女の子でもある。前例なんて、何度もくつがえしてしまうくらいの。
アリスは緋羽莉のウォッチに連絡も取ってみた。しかし、応答はなかった。
少なくとも、のんきに通話に出られる状況ではない――それだけははっきりしている。
「……で? どうするの?」
閃芽が半目でアリスを見て、意思確認する。
緋羽莉を助けに行くこと自体は当然だ。
問題は――方法。どうやって地下へ行くか。
それに、りんごも途中で拾いに行かなければならない。
とはいえ、さすがにそのまま穴に飛び込む勇気はない。
緋羽莉じゃあるまいし、落下の衝撃で大ケガは確実だろう。
だが――アリスには、妙案があった。
「ひとつだけ、方法があるよ。ブルー、モモ、ついてきて」
そう言って、パートナーたちを連れ、アリスは走り出した。
地面のあちこちにぽっかり空いた穴を避けながら向かった先は――さっき吹き飛ばした【モリモール】が倒れている場所。
アリスは腰のポーチから小さなスプレーを取り出すと、倒れている大きなモグラの体へシュッと吹きかけた。
すると――ボロボロだった体のキズが、みるみるうちにふさがっていく。
爆発で黒く縮れていた緑のアフロヘアーも、まるで植物がよみがえるように、青々としたみずみずしさを取り戻していった。
『アリス、それは……?』『キュー?』
ブルーとモモが、目を丸くしてたずねる。
「ワンダー用の回復薬よ。でもこれ、高いやつだから、あんまり使いたくなかったんだけどね」
ブロッサムスクエアでの冒険のときも含め、この薬を使う機会はいくらでもあった。
けれど――緋羽莉がブルーたちの回復を引き受けてくれていた。
そのおかげで、この薬の使用を控えられていたのだ。
そして今――その温存していた薬が、彼女を助けるために役立つ。
いいことをすれば、めぐりめぐって自分に返ってくる。まさにそんな例だった。
『モリ~!』
完治とまではいかないが、じゅうぶん動き回れるほどには回復したモリモールは、両腕をぶんと上げて元気モリモリのアピールをした。
敵意はもう感じない。それどころか、傷を治してもらったことへの感謝なのか、どこか友好的な雰囲気すら漂っている。
もちろん、傷を負わせたのはアリスたちだ。だが、それはあくまで戦いの結果。
このモリモールは、そのことを恨みに思っているようすはなかった。
むしろ――緑のアフロに半分おおわれた、まんまるなひとみからは、どこか尊敬のようなまなざしさえ感じられる。
(これは……思ったより好感触かも?)
そう感じたアリスは、思いきって話を切り出した。
「ねえ、お願いがあるんだけど。わたしのパートナーになってくれない?」
『ええっ!?』『キュー!?』
驚きの声をあげたのは、足もとのブルーとモモだった。
この巨大なモグラを、いきなりパートナーに迎える――たしかに、まったく予想していなかった展開だ。
この裏山のボスをパートナーにするんじゃなかったのか? それに、金銭的な理由でパートナーは厳選するって言っていたはずでは?
そんな疑問がブルーの頭の中をぐるぐる回る。
だが、アリスは構わず話を続けた。
「わたしのお友だちが、地下でピンチになってるの。助けに行きたいんだけど――そのために、立派なモグラのあなたの力を貸してほしいの」
その言葉を聞いた瞬間――ブルーは、ハッとした。
そうだ。地中を自由に掘り進むことができるモグラに協力してもらえば、地下にいる緋羽莉とりんごを助けに行ける。
それにモリモールは体も大きく、その強さもすでに実証済みだ。地下への救出作戦にあたって、これほど頼もしい存在はいない。
アリスの考えが、ブルーたちにもようやく腑に落ちた。
『モリー!』
するとモリモールは、また両腕を高く上げ、こくこくと何度もうなずいた。
ブルーとモモにもわかる。これは――OKのサインだ。
「ありがとう! ならさっそく、あなたには緑という意味の“グリン”という名前を与える! わたしたちを地下の世界へ導いて!」
『モリー!』
モリモール――あらためグリンは、元気よく返事をすると、その大きな背中にアリスたちが乗るよううながした。
アリスは迷わず、がしっとその背中にしがみつく。
ブルーも、なんだかずいぶんあっさりしたパートナー契約だなあ、と思いながら、モモの手を引いていっしょに乗った。
「閃芽ちゃん!」
そして、成り行きを見守っていた閃芽を呼ぶ。
「オーライ! 戻って、リース!」
閃芽は【ヒマワリス】のリースをウォッチの中へ戻し、グリンのもとへ駆け寄った。
そのまま背中によじ登り、アリスのとなりにしがみつく。
『モリーッ!』
ふたりと二体を背負ったグリンは、気合いじゅうぶんにおたけびをあげる。
次の瞬間――まるで水泳の飛び込みのように、
ざぶん!
と勢いよく地面へ潜り込み、地下への潜行を開始した!
☆ ☆ ☆
ザクザクザク……
グリンは、まるでクロールのような動きで地面を掘り進んでいく。
両手の長くするどいツメが、土を水のようにかき分けていくようすは圧巻だった。
しかも、ふしぎなことに――背中に乗っているアリスたちには、土の圧力も衝撃もまったく伝わってこない。
これぞまさに、ふしぎなチカラ。
おかげで、危険な穴掘りというより、地下を進むワクワクだけを楽しめていた。
『キュー!』
『モリッ!』
ときおり、モモが背中から指示を出す。
それに合わせて、グリンは進路を少しずつ変えていった。
まずは、ひとり取り残されているりんごの反応を探知し、そこへ向かっているのだ。
地下の世界では、地上ほどモモの優れた感知能力は働かない。
どうやらぼんやりとしか位置がつかめないようだ。
それでも、手がかりとしてはじゅうぶんだった。
やがて――
ボコッ!
という音とともに、グリンはトンネルのように広がった空間へと飛び出した。
ズシーン!
豪快な音を立てて、地面に着地する。
「うわあっ!?」
その瞬間、聞き覚えのある悲鳴が響いた。
見るとそこには――
体育座りをくずし、驚愕の表情でこちらを見ているりんごの姿があった。
「りんごちゃん!」『だいじょうぶ!?』『キュー!』
アリスたちが、ひょっこりグリンの背中から顔を出す。
「ひゃあ!」
りんごは、さらにもうひとつ悲鳴をあげた。
彼女からすれば――ひとりぼっちで心細くしていたところに、突然巨大なモグラが出現。
しかもその背中から、なぜか友だちが顔を出したのだ。
まさに超展開である。無理もない。
アリスはスタッとグリンの背中から飛び降り、りんごのもとへ駆け寄った。
「安心して。あの子はわたしの新しいパートナーだから。だいじょうぶだった?」
「う、うん……」
りんごは地面にへたりこんだまま、戸惑いぎみにうなずく。
最初は驚きのほうが大きかった。
けれど時間がたつにつれ――
親友がモグラをパートナーに加えてまで、自分を助けに来てくれた。
その事実が、じんわり胸にしみてきた。
そして――こみあげる思いが、涙となってあふれ出す。
りんごはいきおいよく、アリスに抱きついた。
「アリスちゃん……! 緋羽莉ちゃんが……緋羽莉ちゃんがっ……!」
鼻をすすりながら泣きじゃくる親友の背中を、アリスはそっとなでた。
「……だいじょうぶ。きっと助けてみせるから。なにがあったのか、くわしく聞かせてくれる?」
りんごは安心したように、こくこくとうなずく。
通話のときはパニック状態で、うまく説明できなかった出来事。
けれど今なら、落ち着いて話せる。
そう思いながら、りんごはぽつりと口を開いたのだった。




