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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第76話 木の枝のみちしるべ

 ボスである三体のトオレントが倒されたことで、お花畑の上で緋羽莉にまとわりついていた野生のワンダーたちは、名残惜しそうに、その体から離れていった。


 花びらがぱらりと舞う中、すらりと伸びた脚と、健康的に引き締まった腰のラインがゆっくりとあらわになる。


 白いフリルのついたおめかし服は、元気いっぱいの体つきを包みきれず、ふわりと柔らかく揺れていた。


 緋羽莉は長い脚でひょいと立ち上がると、ミニスカートのフリルが軽やかに跳ねる。


 背の高い体は小学生離れした迫力があり、それでいて少女らしい丸みも残していた。


「ごめんね、みんな。ありがとう」


 そして、ほほえみながら彼らにそう言うと、アリスたちのもとへと駆けていく。


「緋羽莉ちゃん!」


「アリスー!」


 アリスと緋羽莉は、再会をよろこび合うように、ぎゅっと抱き合った。


 体を包む緋羽莉のたくましい腕のあたたかさ。顔をうずめる豊かな胸のやわらかさ。


 アリスは思わず夢心地になる。さっきまでお花畑に座っていたせいか、緋羽莉自身の香りに混じって、あま〜い花の香りが鼻いっぱいにひろがった。


「むかえに来てくれて、ありがとう!」


 緋羽莉は、抱きしめているアリスの顔を見下ろしながら、心からの感謝の言葉を告げた。


 大きな黄色いひとみがきらきら輝き、童顔の頬がうれしそうにゆるむ。


 野生のワンダーたちからは丁重にあつかってもらっていたため、心細さや恐怖心とは無縁だった。


 それでも、親友が自分のためにがんばってくれた――その事実が、なによりもうれしいのだ。


「えへへ……どういたしまして!」


 アリスは緋羽莉の大きな胸に顔をすり寄せながら、ふにゃりとした顔と声で言った。


「ちょっとちょっと、おふたりさん。私たちのこと、忘れてもらったら困るよ」


 両手を腰に当てた閃芽が、半目であきれたように言う。


 りんごも顔を赤らめながら、ちょっぴり口をとがらせていた。


 たしかにバトルの功労者はアリスだが、勝てたのはふたりのアシストがあってこそだ。


「ご、ごめんね! 二人にももちろん、すっごーく感謝してるよ!」


 緋羽莉はアリスを抱く力を少し強めながら、首をかしげ、満面の笑顔をふたりに送った。


 その拍子にポニーテールがぴょんと跳ね、フリルの袖がふわりとひろがる。


 健康的につやめく肌と、堂々とした体つきが相まって、思わず見とれてしまうほど華やかな笑顔だった。


 りんごと閃芽は胸をきゅんと高鳴らせ、思わず気の抜けたような笑みを浮かべる。


 本当に、緋羽莉の笑顔は破壊力バツグンだ。


 これだけで許しちゃう私も、だいぶちょろいな……と、閃芽は心の中で苦笑する。


『ウムム……してやられたわい。実にみごとな手前であった……』


 トオレントたちが、よろよろと起き上がった。


 よくもまあ、樹木の体で倒れた状態から自立できるものだと、思わず感心してしまう。


「ゲームは、わたしたちの勝ちでいいよね? 緋羽莉ちゃんは、返してもらうから!」


 そう言ってアリスは、「これ、わたしの!」とばかりにほっぺをふくらませ、緋羽莉の大きな体を抱き寄せた。


 緋羽莉もまた、うれしそうに顔をほころばせる。


『ああ……おぬしらの勝ちだ。約束どおり、姫君も返そう……』


 トオレント三体は、一様に残念そうにしなだれる。


 お花畑の中でも、野生のワンダーたちが悲しそうな顔でこちらを――いや、緋羽莉を見ていた。


 それを見かねた緋羽莉は、アリスから体を離すと、ザッとワンダーたちの前に歩み出る。


 長い脚で一歩踏み出す姿は堂々としていて、ミニスカートの裾が花びらといっしょにひらりと揺れる。


 そして、やさしい顔と口調で言った。


「ワンダーのみんな、わたしによくしてくれて、本当にありがとう。きっとまた、何度も遊びに来るから……そんな顔、しないで?」


 その瞬間、ふわっと風が舞った。


 舞い散る花びらとともに、緋羽莉のポニーテールとミニスカートが、やさしくゆらぐ。


 フリルのついた服が風にふわりと持ち上がり、健康的な脚のラインがちらりとのぞく。


 たまごみたいにつややかな肌が春の光を受けて、ほんのり輝いていた。


 アリス、りんご、閃芽は、はっと息をのんだ。


 お花の冠を頭にかぶり、慈愛の雰囲気に満ちたいまの緋羽莉は――まぎれもなく、森の姫君と呼ぶにふさわしい姿だった。


『ピーピー!』『フーフー!』


 野生のワンダーたちも、笑顔で歓声を送る。


 お姫さま――緋羽莉とは、これでおわかれじゃない。


 そのことがわかって、安心とよろこびに満ちているようだった。


 純真でまっすぐな緋羽莉のことだ。本当に何度も遊びに来るつもりなのだろう。


 ワンダーたちも、そのことをちゃんと理解しているようだった。


『姫君……そして、その勇敢なる友人たちよ。実に楽しい時間だったぞ。おぬしたちなら、この山の頂へと進むことができるだろう』


 トオレントのリーダーが、年長者らしい威厳に満ちた声で言った。


『我らの役目は、この地を訪れる子どもたちの力を見極めること。ここから先は、より危険な場所となる。心して行くがよい』


 アリスたちは、なるほどと腑に落ちた思いだった。


 このトオレントたちは、ただ通せんぼをしていたわけではない。


 この先へ進もうとする者の力を試す――番人の役目を果たしていたのだ。


『姫君も、くれぐれも気をつけるのだぞ』


 そう言われて、緋羽莉は後ろ手を組み、にっこりと笑った。


「だいじょうぶですよ。わたしには、ステキなお友だちがついていますから!」


 そう言われて、アリスもりんごも閃芽も、思わず照れ笑いする。


『……そうだな。おぬしらのような気骨ある少女たちを見るのは、ひさしぶりかもしれん』


 トオレントは、しみじみと言った。


『おお、そうだ。我らに勝ったほうびがわりに、よいことを教えてやろう』


 そして思い出したように言うと、じっとアリスの顔を見下ろす。


「いいこと?」


 アリスは、興味ありげに首をかしげた。


『姫君によると、おぬしは強い仲間のワンダーを探しておるとか』


「え? まあ……そうだけど」


 ふだんなら、あずかり知らぬところで勝手に自分の話をされるのは、アリスとしてはあまり面白くない。


 だが、いつも自分のことを思って行動してくれている緋羽莉が話したのなら、まあいいか――と、アリスは特に気にしなかった。


『ならば、この山のボスに会ってみるがよい』


 その言葉を聞いた瞬間、りんごはびくっと肩を震わせる。


「ボス」という仰々しい響きに、すっかり怖気づいたようだ。


「ボス?」


 アリスは聞き返した。


 この裏山のことはあらかじめリサーチしていたが、そんな存在がいるという話は聞いたことがない。


『呼び名の通り、この山で最も強いワンダーだ。ふだんは洞の中にこもっており、めったに姿を見せぬ。ナワバリの近くには迷いやすい森もひろがっておるしな』


「最強……!」


 アリスは、青いひとみをキラキラと輝かせた。


『会ってみたいか?』


「会いたい!」


 アリスは、ずいっと身を乗り出し、トオレントを見上げた。


「わ、わたしは会いたくないよおっ⁉︎」


 りんごは耐えきれず、ついに本音を口に出した。


 涙目でアリスにすがるような視線を送る。けれど、アリスが一度こう言い出したら聞かないことは、もうよくわかっている。


 そのため、心のどこかでは半分あきらめてもいた。


 緋羽莉はほほえみながら、そんなりんごの背中をやさしくさすってやる。


 例によって、だいじょうぶ。わたしが守ってあげる――そんな気持ちが伝わる手つきだった。


 大きな手のひらでぽんぽんと背中をなでる仕草は、年上のお姉さんみたいに頼もしい。


 長身の体がそっと寄り添うだけで、ふしぎと安心できるのだった。


 閃芽もまた、例によって「やれやれ」と肩をすくめている。


『ホッホ、さすがだな。では、これを受け取るがよい』


 トオレントは、自分の体から生えた小さな枝をポキッと折り、それをアリスに手渡した。


 枝でできた手が枝を持っているというのは、なんとも妙な光景だ。


『この枝の導きにしたがえば、迷わず進めるだろう。一本杉にたどり着くのにも、役に立つはずだ』


「ありがとう!」


 アリスはひとことお礼を言い、しげしげと枝を見つめた。


 小さく細い枝の先端には、一枚の葉っぱがついている。


 その葉は、まるで方位磁針の針のように、ピンと彼方を指していた。


 ――こっちへ進め。


 そう言われているように、アリスには直感できた。


「おーっ……」


 四人娘と、そのパートナーのワンダーたちは、そろって感心の声をもらす。なんとも年相応の反応だ。


 そのようすを見て、トオレントたちもほほえましそうに顔をゆるめた。


「……それじゃ、わたしたちは行くね。時間も惜しいし」


 ミルフィーヌをウォッチに戻し、ぐっと伸びをしたアリスが言った。


 りんごと閃芽も、それぞれパートナーをウォッチへ戻し、出発の準備を整えていた。


『うむ。我々も、ひさしぶりに楽しい思いをさせてもらった。気をつけて行きなさい』


 トオレントのリーダーは、まるでやさしいおじさんのように言葉を贈った。


 両脇のトオレントAとBも、親戚のお兄さんのように手を振っている。


『姫君も、達者でな』


 そして緋羽莉にそう言うと、集まっていた野生のワンダーたちが、わっと声をあげた。


 みんな、緋羽莉に別れの言葉を贈っているようだ。


「うん! みんなも元気でね! このお花の冠、だいじにするから!」


 緋羽莉はそう言って、緋色の髪にかぶさった花冠にそっと触れた。


 くせ毛ぎみの髪がゆるく波打ち、花冠の下でふわりとひろがる。


 その横顔はやさしく、健康的な頬がほんのり赤く染まっていた。


 アリス、りんご、閃芽、そしてウォッチの中のブルーは、あらためて緋羽莉という少女の魅力を実感する。


 こうして一行は、おたがいに手を振り合いながら森のワンダーたちと別れた。


 そして、てっぺんの一本杉の前に、まずは山のボスのナワバリをめざし、ふたたび冒険を進めていくのだった。

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