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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第49話 モモイロハネウサギをさがして

 異空間・ブロッサムスクエア。


 桜が舞い散る黄緑色の草原で、アリスと緋羽莉、そしてブルーとミルフィーヌは【モモイロハネウサギ】を探していた。


 アリスに正式に協力をお願いされたことで、緋羽莉も本腰を入れて捜索にあたっている。


 アリスよりはるかにすぐれた視力と嗅覚をフル活用しているが、残念ながらなかなか成果は上がらない。


 かわいらしい服をひらひらさせながら、大きな黄色いひとみをきょろきょろと動かし、前かがみになって小さな鼻をくんくんさせる緋羽莉。


 陽の光を受けた緋色のポニーテールが、動くたびに元気よく跳ねる。


 黄色いリボンもぴょこんと揺れて、まるで春風といっしょに踊っているみたいだった。


 すらりと長い手足がしなやかに伸び、草をかき分ける姿は、探しものをしているだけなのにどこか絵になる。


 そのしぐさは年相応……いや、それ以上に幼く見えるのに、高い身長とがっしりした体つきとのアンバランスさが、なんとも言えず愛らしい。


 そんなようすに、アリスはつい見とれてしまう。


 くりっとしたひとみが真剣に動くたび、表情がころころ変わる。


 その無邪気さと、ぐっと背の高い立ち姿とのギャップが、どうしようもなく目を引いたのだ。


 視線に気づいた緋羽莉は、にこっとほほえみかけた。


 アリスは照れくさくなって、ぷいっとそっぽを向く。


「……こういう状況じゃなかったら、もっとゆっくり楽しめたのにね」


 本来なら今日は、ひとりでブルーとミルフィーヌといっしょに、残念会として町で遊ぶ予定だった。


 けれど、敗者復活戦の通知が届いた。


 その瞬間、アリスはふたたびチャンスを与えられたことに胸が高鳴り、頭の中が剣城玲那への対抗心でいっぱいになってしまった。


 そしていきおいのまま、ひとりでモモイロハネウサギを探そうと、このブロッサムスクエアへ向かおうとしたのだ。


 いま思えば、自分でもバカなことをしたと思う。


 予選を棄権したことと、玲那からこれでもかと実力差を見せつけられたことで、どこかやけっぱちになっていたのだろう。


 そうでなければ今ごろ、この桜の草原で、なんのしがらみもなく、緋羽莉と楽しく過ごしていたはずだ。


 つくづく、自分の未熟さがイヤになる。


「……わたしって、こんなに負けずぎらいだったんだなあ」


 ぽつりとこぼれた本音。


「わたしは、ずっと前から知ってたけどね」


 緋羽莉は、にまっといたずらっぽく笑って言った。


 じゃあ先に教えてよ、とアリスは言いかけたが、緋羽莉の行動や言葉の全部が、自分への思いやりから来ていることを思い出す。


 そんなツッコミは野暮だ、と心の中で飲み込んだ。


 かわりに、いたずらっ子みたいな笑みを浮かべると、両手で緋羽莉のほっぺをむにっとつねる。


 やわらかくて、すべすべしていて、よく伸びるほっぺた。


 間近で見ると、浅黒い健康的な肌はつやっとなめらかで、ほんのり桜色に染まっている。


 まつげの長い大きな目がぱちぱちと瞬くたび、思わず触れたくなってしまう愛らしさがあった。


 緋羽莉はまったく抵抗せず、されるがままになっている。


 からかいがいはないけれど、アリスはそんな素直なところもたまらなく好きだった。


『……ぼくたち、あっちのほう探してみるね』『ワン!』


 ふたりのようすをなんとなく見ていたブルーが、遠くを指さして言った。ミルフィーヌも元気に鳴く。


 アリスと緋羽莉が、ふたりだけの空気を作り出しているので、ちょっと居心地が悪くなったのかもしれない。


 りんごや閃芽は、いつもこんな気持ちでふたりといっしょにいるのだろうか。


 アリスは緋羽莉のほっぺをふにふにいじりながら振り向き、答えた。


「いいけど、あんまり遠くへ行かないようにね。またさっきみたいなトラブルはごめんだよ」


 巨大ポメラニアンのわたあめとぶつかった件だ。


 いまとなっては、ちょっと笑える思い出だけれど。


『わかってる。もう同じ失敗はしないよ』


 ブルーは力強くうなずいた。


「ハンターにも気をつけてね。ブルーもミルフィーヌも、めずらしい子なんだから」


 それを聞いて、ブルーは一瞬びくっとするが、すぐに言い返す。


『だいじょうぶだよ。ぼくもミルフィーヌも、逃げ足には自信あるから。じゃあ、またあとでね!』『ワン!』


 そう言って、二体は草原の向こうへ駆けていった。


「……送り出しておいてなんだけど、だいじょうぶかな……」


 アリスは少し心配になって、緋羽莉のほっぺから手を離した。


 緋羽莉はそんなアリスを安心させるように、やさしくほほえむ。


 にこっと口角が上がると、頬えくぼがふわりとのぞく。その笑顔はぽかぽかした春の日だまりみたいで、見ているだけで肩の力が抜けていく。


 背筋をしゃんと伸ばした姿勢もきれいで、頼もしさとかわいさが同時に伝わってきた。


「ブルーもミルフィーヌも、アリスの力になりたいんだよ。それに、わたしたち人間がいっしょにいるより、ワンダーだけで探したほうが見つかるかもしれないよ?」


「……それも、そうだね」


「それにブルー、“自信ある”って言ってたね。いい傾向なんじゃない?」


「……あ」


 アリスはハッとした。


 たしかに、ブルーのほうから自信を口にしたのは、これがはじめてかもしれない。


 出会ったころのおどおどした小さなドラゴンの子からすれば、大きな成長だ。


 そう思うと、いまのブルーならだいじょうぶだと、アリスは素直に信じることができた。


「わたしたちはわたしたちで、モモイロハネウサギをさがそう! わたしとアリスが力を合わせれば、きっと見つかるよっ! ブルーたちに負けないように、がんばろう!」


 緋羽莉は両手をぎゅっとにぎりしめ、桜の花にも負けないくらいの満開の笑顔を咲かせた。


 きゅっと結ばれた指先まで元気がみなぎっていて、背すじはぴんとまっすぐ。


 風にふわりとなびく服のフリルが、動きに合わせて小さく揺れ、立っているだけなのにどこか舞台の上みたいに目を引いた。


 くりっとしたひとみはきらきらと輝き、気合いとやる気がそのまま形になったみたいだ。


 緋羽莉の気持ちは、隠すどころか全身からあふれている。


 ――ぜったい見つかる。


 本気で、まっすぐに、そう信じている顔だった。


 大きなひとみの奥がきらりと光り、頬には健康的な赤みがさしている。


 子どもらしいあどけなさと、どこか頼れるたくましさが同時にのぞく表情だった。


 そんな顔を向けられたら、アリスだって胸がぽかぽかしてくる。


「うん、いこう!」


 そう言った瞬間、アリスはもう笑っていた。


 そしてアリスは、緋羽莉に手を引かれ、ブルーたちとは反対の方向へ駆けだす。


 長い脚が軽やかに地面を蹴るたび、ポーチがぽんぽんと弾み、後ろ姿までいきいきしている。腕の振りも大きくてのびやかで、見ているだけで元気を分けてもらえる走り方だった。


 緋羽莉の手は大きくてやわらかい。少し汗ばんでいたけれど、ふしぎといやな感じはしなくて、むしろあたたかくて安心できた。


 その手のぬくもりが、「だいじょうぶだよ」と言ってくれているみたいだった。


 振り向いたときの笑みもやわらかくて、目じりがきゅっと下がる。その表情を見るだけで、不安なんてどこかへ走っていってしまいそうだった。


「……ありがとう、緋羽莉ちゃん」


 はじめて出会ってから、何千回、何万回と伝えてきた言葉。


 思えばこれが、アリスが覚えた最初の日本語だった。


「どういたしまして!」


 緋羽莉は、太陽みたいな笑顔で元気よく答える。


 弾む声に合わせて、頬えくぼがちらりとのぞく。楽しさをそのまま形にしたような笑い方で、見ているほうまでつられて笑顔になってしまう。


 走りながら揺れるポニーテールも、楽しそうに弾んでいた。



 ☆ ☆ ☆



『おーい、ウサギさーん』『ワオーン!』


 アリスたちと別れたブルーとミルフィーヌは、声をひそめながらモモイロハネウサギをさがしていた。


 びっくりさせないように。そしてハンターに気づかれないように。


 モモイロハネウサギは危機感知能力が高いことで知られている。しかもウサギだから、耳はとくにいい。


 だから、ささやくより少し大きいくらいの声で呼べば、きっと届くはず――そう考えたのだ。


 この作戦の元になっているのは、先日ブルーがうっかり沙織の部屋に入ってしまい、大事な写真立てをぽとりと落としてしまったときのこと。


 その音に、庭で運動していたブラウンがすぐ気づいて飛んできて、しっかりしかられた経験が活きている。


 ブルーもミルフィーヌも、人畜無害なやさしいオーラの持ち主だ。


 それに、人間を連れていないのもあってか、野生のワンダーたちも襲ってこない。


 争いごとがあまり好きではないブルーにとっては、とてもありがたい状況だった。


『それにしても、すっごくいい景色だなあ。おかあさんにも見せてあげたいな』


 ブルーは、青とピンクが混ざりあう春の空を見上げながらつぶやいた。


 空だけじゃない。同じくピンク色の花があたり一面に咲き、風に乗って舞い散る様子は、まるで花の吹雪。ドラゴピアではとても見られない景色だ。


 ホームシックの発作はもう起きなくなったけれど、それでも空を見ると、お母さん竜のことを思い出して少しだけさみしくなる。


 いまはアリスがそばにいないぶん、その気持ちは少しだけ強かった。


『ワン!』


 ミルフィーヌが、そんなブルーの気持ちを読み取ったみたいに、笑顔でほおずりしてきた。


 ふわふわの毛並みがくすぐったい。


 でも、あたたかくて、やさしくて、心がじんわりほぐれていく。


「あなたはひとりじゃないよ」「またきっと会えるよ」


 そんなふうに言ってくれている気がした。


『……ありがとう、ミルフィーヌ』


 ブルーはふにゃりと笑って、ミルフィーヌをぎゅっと抱きしめた。


 ミルフィーヌもしっぽをぶんぶん振って、うれしそうに応える。


 ――そのときだった。


『ワウ?』


 ミルフィーヌがぴくりと耳を立て、なにかに反応して顔を上げた。


『どうしたの?』


 ブルーがたずねた次の瞬間、ミルフィーヌは腕の中からぴょんっと飛びだす。


 そしてブルーの背後、数十メートル先に立つ一本の桜の木へ向かって走りだした。


『待って!』


 ブルーもあわてて追いかける。


 走りながら、ブルーは気づいた。


 このにおい。この気配。


 さっき、わたあめとぶつかる前に追いかけていたカゲと同じオーラだ。


『ワン! ワン!』


 桜の木の下までたどりついたミルフィーヌは、吠える。


 敵意はないよ、と伝えるみたいに。


 出ておいで、と呼びかけるみたいに。


 ややあって、ブルーも追いついた。


 桜の木の裏側に、小さな小さな気配がある。


『そこに……いるの?』


 ブルーは、できるだけやさしい声でたずねた。


 しばらくの沈黙のあと――


 木の裏から、そっと姿を現した。


 もじもじと恥ずかしがるしぐさ。


 ふわふわのピンク色の毛並み。


 たれた長い耳。


 両の手のひらに乗りそうなくらい小さな体。


 その姿は、春の花の妖精みたいに愛らしかった。


【モモイロハネウサギ】――その特徴をよく知っている二体は、すぐに確信するのだった。

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