表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/99

第47話 空色と緋色が交わるとき

 おー、すごい。わたし、飛んでるよ。


 宙を舞いながら、アリスはそんなのんきなことを考えていた。


 ふっとばされて、こんなに高く飛ぶなんて、現実じゃなかなかできない体験だ。


 ……でもこのまま落ちたら、大ケガするよね。


 ふいに現実が頭をよぎり、ぞわっと背すじが冷えた。


 せっかく楽しいことを考えて気をまぎらわせていたのに、台無しだ。


 そんな思いもひっくるめて、アリスは叫んだ。


「いやあああーーっ!」


 桜の花びらが舞う青とピンクの空を背景に、アリスの体は弧をえがきながら落下していく。


『アリス!』


 ブルーが後ろを振り返り、助けに行こうとする。


 だが、《バタフライエフェクト》の反動が残っているのか、体がうまく動かない。


 いっぽうで、技を命じたもふるは、険しい顔でその様子を見つめていた。


 レンジャーでありながら、ウィザードを巻き込むほどの攻撃。


 なにを考えているのか、読み取れない。


 空中のアリスは、とっさに受け身を取ろうと体勢を整える。


 それでも痛いのはまちがいないだろう、と覚悟した。


(ごめんね、ブルー……ミルフィーヌ……)


 青いひとみをぎゅっと閉じる。


 視界が暗くなり、心まで沈みこんでいきそうになった、そのとき。


「アリスーーーっ!!」


 聞きおぼえのある、元気で、必死で、まっすぐな声。


 次の瞬間――


 体が、ふわりとやわらかいものに包まれた。


 羽に受け止められたみたいな、不思議な浮遊感。


 ふわっとただよう花のような香りに、こわばっていた体の力がすっと抜ける。


 それはきつい香水ではなく、日なたの草原や石けんを思わせる、やさしく清潔な香りだった。


 命の危険にさらされていたはずなのに、胸の奥の不安がほどけていく。


 冷えていた体も、じんわりあたたかくなっていく。


 閉じていたまぶたの裏が、なぜか緋色に染まる。


(……あったかい……)


 そう思いながら、アリスはそっと目を開けた。


 目の前にあったのは――


 緋色の前髪を揺らし、大きな黄色いひとみをほっとゆるませた、親友の顔。


 健康的なつやのあるほほは桜色に染まり、安心しきった笑顔がひろがっている。


「よかった……まにあった……!」


 緋羽莉はへなっと表情をゆるめ、大きく息を吐いた。


 そのぬくもりが、まだアリスを包んでいる。


「……緋羽莉ちゃん?」


 状況を理解したアリスは、はっと息をのんだ。


 自分は落下する寸前で、緋羽莉に抱きとめられたのだ。


 それも――お姫様抱っこの形で。


 思わず顔がかあっと熱くなる。


 抱きとめている緋羽莉は少しもよろけず、長い脚でしっかりと草原を踏みしめていた。


 地面をとらえる足どりは力強く、まるで大きな木が根を張っているみたいだ。


 その頼もしさに、アリスの胸のドキドキは別の意味で高鳴った。


 あの高さと距離を一気に追いつき、ふたりとも無事で受け止めるなんて――


 その身体能力は、もはや人間ばなれしている。


「……すご……」


 離れた場所で見ていたもふるが、思わず口をぽかんと開ける。


 ブルーは心からほっとした顔で、アリスの無事を見つめていた。


 緋羽莉はアリスをそっと地面に立たせ、にっこり笑う。


 額にはうっすら汗が光り、それだけ全力で駆けつけてくれたことがわかる。


 ポニーテールがふわりと揺れ、黄色いリボンが春の光をはじく。


 助けたあとの安堵と誇らしさが混ざった、なんともかわいい笑顔だった。


「さあ、アリス! バトルはまだ終わってないよ! かっこいいところ、見せてね!」


 ぽん、と背中を押す。


 大きな手のひらは、やさしくて、あたたかくて、力強い。


 そのひと押しだけで、元気が体じゅうにひろがる気がした。


「……うん!」


 アリスは力いっぱい、うなずいた。


 胸の奥に、勇気がふわっと灯る。


 そしてバトルフィールドへと走り出した。


 その背中を、緋羽莉はまぶしそうに見つめる。


 うれしさをこらえきれず、胸を弾ませながら、ひらりとスカートを揺らして後を追いかけた。


「ブルー、まだやれるよね?」


『う、うん!』


 ブルーは力をふりしぼるように、こくんとうなずいた。


 《バタフライエフェクト》は音波砲を完全に打ち消すことはできなかったが、それでもブルーの体を守ってくれていたらしい。


 とはいえ、余波のダメージは小さくない。体のあちこちがじんじんと痛んでいた。


 アリスが吹き飛ばされたあとの一部始終を、ぼうぜんと見ていたもふるは、ぶるぶるっと頭を振って気持ちを切り替えた。


「なんにせよ、仕切り直しね! わたあめ! 《ダッシュアタック》!」


 もふるはビシッと前方を指さす。


 だが、わたあめから返事はない。さきほどの音波砲の反動で、のどがかれてしまったようだ。


 それでも命令は伝わったらしく、ブルーめがけて走り出す。


 しかし巨体の足取りはさっきよりも重く、遅い。ダメージがたまっているためだろう。


「ブルー! 《スカイナックル》!」


 アリスも前へ踏み出し、力いっぱい指をつき出して叫ぶ。


 ブルーは向かってくるわたあめに向かって走り出し、右のこぶしに空色のオーラをまとわせた。


 そして目の前まで迫った瞬間――


 力強く地面をけり、大ジャンプ!


「おおーっ!」


 アリスも、緋羽莉も、もふるも思わず声をあげる。


 なんとブルーは、たった一度のジャンプで、三メートルをゆうにこえるわたあめの頭上まで跳び上がったのだ。


 ミルフィーヌでさえ、肉球バリアのトランポリンがなければ届かなかった高さ。


 この脚力――さすが子どもでも、ドラゴンだ。


「すごいよっ! ブルー!」


 緋色のポニーテールがぴょこんと跳ね、黄色いリボンがくるりと弧をえがく。


 きらきらした大きなひとみが、空の上のブルーをまっすぐ追いかけていた。


 緋羽莉はぱんぱんと大きな手を打ち鳴らし、心からの歓声をあげる。


 その拍手は元気いっぱいなのに、どこか上品で、応援する気持ちがそのまま形になったみたいだった。


 長い脚でぴょんと軽く跳ねるたび、スカートのフリルがひらりと春風にゆれる。


 そのまっすぐであたたかな声は、ちゃんとブルーの耳にも届いていた。


 まるで陽だまりみたいな声だった。


 聞くだけで元気がわいてくる、ふしぎな力を持っている。


 応援にこめられた想いが、ブルーの胸の奥を熱くする。


 すると、右のこぶしにまとっていた空色のオーラが、炎のように一気に燃え上がり、色を変えていく。


 それはまるで、空色と緋色が溶け合ったような、あざやかなヴァイオレット(すみれいろ)の輝きだった。


 その神秘的な光に、この場のだれもが目を奪われる。


 緋羽莉も思わず胸の前で手を組み、ほうっと見とれていた。


 光を映した黄色いひとみが、きらりと宝石みたいに輝いている。


『ワフ……』


 目前で見上げていたわたあめでさえ、思わず声がもれるほどの迫力だ。


『はあーっ!』


 ブルーはヴァイオレットの炎を噴き上げる右手を推進力にするように、空中でくるくると回転する。


 炎のオーラはバチバチとはじけ、やがてイナズマのような光へと変わっていった。


 そして――


 遠心力をのせた右のこぶしが、わたあめの脳天めがけて振り抜かれる!


『たあーーーっ!』


 ズドォォォン!!


『ワッフーーーン!』


 雷鳴一閃。


 わたあめは雷に打たれたかのようなすさまじい衝撃を受け、大きな悲鳴をあげた。


 全身がバチバチと感電し、紫色の電光があたりを満たす。


 まぶしい光に、もふるは思わず目をおおい、身をすくめる。


 だがアリスと緋羽莉は、まばたきも忘れたように、その決定的な一撃を見つめていた。


 緋羽莉のくせっ毛ぎみの前髪が、興奮にあわせてふわふわと揺れている。


 思わず一歩前に出てしまうほど、全身でその瞬間を見届けようとしていた。


 やがて電光は静まり、視界が元に戻る。


 ブルーは空中から、しゅたっと着地した。


『わわっ!?』


 ……が、次の瞬間バランスをくずして転倒。しまらない。


 一方のわたあめは、四本足で立ったまま、ぴくりとも動かない。


 まさか、また効いてないのか――?


 そんな不安がよぎった、そのとき。


 パチ、パチ、パチ……


 拍手の音が静かにひびいた。


 もふるがわたあめのそばへ歩み寄り、少しあきれたような、それでいてうれしそうな笑顔を浮かべている。


 そのようすを見ていた緋羽莉は、両手を胸の前でぎゅっとにぎりしめ、期待に目を輝かせる。


 ほっぺたはうっすら桜色に染まり、今にも飛びはねそうだ。


「このコったら、立ったまま気絶しちゃってる。キミたちの勝ちよ。おめでとう」


 そう言って、わたあめの大きな体をぽんとやさしく叩いた。


「『……ってことは?』」


 アリスとブルーは顔を見合わせ、期待にきらきらした目を向ける。


「うん。ワンダーレンジャー・犬飼もふるの名において、キミたちを異空間(ワールド)冒険の資格ありと認めます」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――


 アリスとブルーはもう一度顔を見合わせ、


「『やっ……たあーーーっ!』」


 緋羽莉ばりの大ジャンプで、思いきり歓声をあげた。


 ここまで全力で喜べるのは、それだけ全力のバトルができた証だ。


 それにつられて、緋羽莉本人も負けないくらい高くジャンプ!


 長い手足をのびのびとひろげ、誰よりもうれしそうに笑った。


「やったね! アリス! ブルー!」


 そして、緋羽莉は満面の笑顔で、大きな体をゆらしながら駆け寄ってくる。


 緋色のポニーテールが元気いっぱいに跳ね、結ばれた黄色いリボンがひらりと光をはじく。


 すらりと長い手足が大きく動くたび、健康的に引き締まった体つきが頼もしく、それでいて年相応のあどけない笑顔がきらきらと輝いていた。


 両腕を思いきりひろげ、アリスを抱きしめようとした――その瞬間。


 アリスのほうが先に飛び出していた。


 緋羽莉のもとへまっすぐ駆け寄り、そのたくましくもやわらかな腰に腕を回し、いきおいよく抱きつく。


 緋羽莉の体はしっかり鍛えられていて安定感があるのに、抱きしめるとほっとするあたたかさがあった。


「わわわっ!?」


 まさかアリスから来るとは思っていなかったのか、緋羽莉は一瞬バランスをくずしかける。


 けれど、アリスを絶対に倒さないようにと、強い足腰と体幹でぐっとふんばり、その小さな体をしっかり受け止めた。


 長い脚が地面をしっかり踏みしめ、ぶれない姿勢でアリスを守りきる。


 その姿はまるで、大きな木がやさしく風を受け止めているみたいだった。


 アリスは緋羽莉の胸に顔を押し当て、何度もすり寄せながら、あふれる気持ちを口にする。


「緋羽莉ちゃん! 緋羽莉ちゃん! ありがとう! 本当にありがとう!」


 緋羽莉は顔をぽっと赤く染め、ふにゃりと照れ笑いを浮かべた。


 大きな黄色いひとみがうるんで、まつげがぱちぱちと揺れる。


 照れているのにうれしさを隠しきれないその表情は、見ているほうまで笑顔にしてしまうかわいらしさだった。


「わたし、まちがってた。今はなによりも、ブルーをドラゴピアに帰すためにがんばらなきゃいけないのに、玲那ちゃんへの対抗心で頭がいっぱいになって、大事なことを見失いかけてた!」


「ひとりで強くならなきゃとか、緋羽莉ちゃんに頼っちゃいけないとか、くだらないプライドで意地になって……そんなこと考えてる場合じゃなかったのに!」


「ブルーとの約束を果たすために、なりふりなんてかまってちゃいけないのに! そのために、みんなが力を貸すって言ってくれてたのに!」


 アリスは胸に顔をうずめたまま、言葉を止められない。


 その声を聞きながら、ブルーの胸もじんわりとあたたかくなっていく。


 ――アリスが、そこまでぼくのことを考えてくれていたなんて。


「でも、緋羽莉ちゃんのおかげで気づけた。声援を送ってくれたおかげで、大切なものを見失わずにすんだ! わたしも緋羽莉ちゃんみたいに、まっすぐな想いを持てるようにならなくちゃって思った!」


 緋羽莉はアリスを抱きとめたまま、何も言わずに聞いている。


 ひろい手のひらが、そっとアリスの背中に添えられている。


 その仕草は不器用なくらいまっすぐで、言葉よりもずっと強く「ここにいるよ」と伝えていた。


「わたし、いつも緋羽莉ちゃんに救われてばっかり。幼稚園ではじめて会ったときから、ずっと。だから、いつかはわたしが助ける側にならなくちゃって、心の中でずっと思ってた……」


 いつのまにか、アリスの声は涙で震えていた。


「でも……ちがったんだね。そんなこと、考えなくてよかったんだね。わたしがいつもどおり、わたしらしくいることが、緋羽莉ちゃんにとってのよろこびだったんだね……」


「……うん」


 緋羽莉は、やさしくうなずいた。


 やわらかくほほえみ、額が触れそうなほど近い距離でアリスを見つめる。


 そのまなざしは春の日だまりみたいにあたたかく、迷いなんてひとかけらもなかった。


 これまで送ってきたたくさんの声援も、笑顔も、行動も。


 7年間の積み重ねすべてが、緋羽莉の気持ちそのものだった。


 それをアリスは、ちゃんと感じ取っていたのだ。


「大好きだよ、緋羽莉ちゃん。これからもずっと、わたしのそばにいて。わたしのこと、助けて」


「……うん!」


 緋羽莉は満面の笑顔を浮かべ、抱きしめる腕にそっと力をこめた。


 長い腕が包みこむようにまわり、アリスの体をやさしく引き寄せる。


 背筋の伸びたきれいな立ち姿と、その無邪気な笑顔の組み合わせが、まるで太陽みたいにまぶしかった。


 アリスも涙をぽろぽろこぼしながら、心から安心したようにほほえむ。


「……あの約束も、なしにするね」


 緋羽莉の胸に鼻をすり寄せながら、アリスは小さくつぶやいた。


 助言も手助けもしない――そんな約束を取り消す言葉。


 緋羽莉はくすぐったそうに肩をすくめながらも、うれしそうに頬をゆるめる。


 大好きな友だちに頼られることが、心の底からしあわせだと全身で伝わっていた。


「うん。わかった。それじゃあ、さっそく……」


 緋羽莉はアリスを支えたまま、自分のスマートウォッチに触れる。


 そしてアリスの左手をそっと導き、右手のウォッチに触れさせた。


 光が弾け、【スカーレットチック】のアカネと、【キャリバリア】のミルフィーヌが同時に姿を現す。


 ミルフィーヌはダメージのせいで、まだぐったりしている。


「アカネちゃん。ミルフィーヌのケガ、治してあげて」


『まっかせなさい!』


 アカネは胸をどんと張り、緋羽莉はアリスを抱いたまま、そっと目を閉じた。


「《再生の炎》」


 アカネのくちばしから放たれた、やさしくゆらめく光の炎が、ミルフィーヌの体を包み込む。


 すると、傷がみるみる消えていき、その顔に生気が戻っていった。


『ワオーン!』


 ミルフィーヌは四本の脚でぴんと立ち上がり、元気いっぱいの声をあげる。


『ミルフィーヌ!』


 ブルーはぱっと笑顔を咲かせた。


 アカネは、ぷいっとそっぽを向く。


『アンタには必要ないでしょ。大したケガしてないみたいだし』


『うん! ぼくはだいじょうぶ! ミルフィーヌを治してくれてありがとう、アカネ!』


 ブルーは気にしたようすもなく、にっこり笑ってお礼を言う。


 その素直さに、アカネの顔がさらに赤くなる。


『ふ……ふん! これくらい、不死鳥フェニックスのアタシにとっちゃ、ちょろいもんだわ! じゃあねっ!』


 そう言うと、アカネは光の粒子になって、緋羽莉のウォッチの中へ戻っていった。


 アリスと緋羽莉は、そのようすを見てくすくす笑う。


 顔を見合わせるだけで、どちらからともなく笑みがこぼれる。


 言葉にしなくても通じ合う――そんな時間を7年も重ねてきた、特別なふたりの空気だった。


 思わぬ出会いから始まった思わぬバトルは、思わぬ形でふたりの絆をさらに強くしていた。


 空色の想いと、緋色の想い。


 ちがう色だからこそ支え合い、重なったとき、誰よりも強い光になるのだと、そこにいるみんなが感じていた。


 そしてその光景を――


 わたあめにぶつかった拍子に見失われた、あの謎のカゲが、近くの桜の木の陰から、ひっそりとのぞいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ