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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第4章 アリス・ハートランドと無敗の王者

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第139話 決勝開始!

「さあ……ご来場、またはご視聴のみなさん! まことにお待たせいたしました! 長いようで短く、短いようで長かった――第××回ふしぎ小学校ワンダーバトル大会・春の陣決勝戦が、いよいよはじまりますッ!」


 ニーナの実況に合わせ、体育館じゅうの観客が最大級の盛り上がりを見せる。


「それでは! 5、6年生合わせて総勢およそ250人の中から勝ち抜いた、選ばれし二名の選手の入場です! まずは、ここまでなんと全試合オール一撃KOで勝ち抜いてきた、剣のようにするどいクールな美少女! 5年2組代表――剣城ィー……玲那ァーッ!」


 大歓声の中、玲那はしずかに入場する。


 観客へ愛想を振りまくこともなく、整った顔に仏頂面を浮かべたまま、堂々とした足取りで歩き、コートの端へ立った。


「続いてはーッ! 敗者復活戦を勝ち抜き、ゼロ回戦から準決勝にいたるまで、もっとも多くの戦いをくぐり抜け、熱いバトルを見せてくれた金色の超新星! 同じく5年2組代表――アリィース・ハァートランドォーッ!」


 つづいて、アリスが入場する。


 終始不愛想だった玲那とは対照的に、二階席の観客たちへ満面の笑みで手を振っていた。児童にも、保護者にも、招待客にも、わけへだてなく。


「……ったく、完全にアイドル気分だね……」


 二階席でほおづえをついていた閃芽がぼやく。


「まあ、スター性はあるよね。アリスちゃん」


 りんごも苦笑いを浮かべた。


「うん! アリスはいつだって、キラキラ輝いてるよ!」


 緋羽莉も負けじと、ひとみをキラめかせる。


「そういう緋羽莉ちゃんも、とっても輝いてるね!」


 すると左隣の地魚が、緋羽莉とほっぺをくっつけ合った。


「……って、ちょっと待ってよ! なんでアンタがここにいるの!?」


 さらにその左隣に座っていた閃芽が、思わずツッコむ。


 ここは5年2組の席だ。本来、6年生の地魚がいる場所ではない。あまりにも自然にもぐりこんでいたせいで、気づくのが遅れてしまったようだ。


「だって、緋羽莉ちゃんといっしょにアリスちゃんを応援したかったんだもん。先生の許可も、ちゃーんともらってるよ?」


 地魚はニッと笑いながら、緋羽莉にべったりとくっつく。


 右手は露出したたくましい肩へ回され、左手はこれまた引き締まったふとももをやさしくさすっていた。もしアカネがウォッチの中で休んでいなければ、きっと容赦なく蹴りを入れていただろう。


 閃芽は納得しきれないようすだったが、先生の許可を取っていると言われてしまえば、これ以上文句も言えない。つきあいは短いものの、地魚が平気でウソをつく人間には見えなかった。


 しかも緋羽莉のほうも、されるがままになりながら照れ笑いを浮かべるばかりで、いやがっているようすはまったくない。


 もうつきあってられない。そんなふうに、りんごと閃芽は顔を見合わせ、そろってコートへ視線を戻すのだった。


 ――アリスと玲那は、コートの両端で向かい合っている。


「よろしくおねがいします」


「よろしく」


 交わしたのは、その一言だけ。


 それ以上は、バトルで語り合うつもりなのだろう。


「さあ! 両選手! そして観客のみなさま! 心の準備はよろしいですか!? 決勝戦――試合開始ィィッ!!」


『ッカーン!』


【コパロット】が、これまででいちばん上手なゴングの鳴きまねを響かせる――!


 その音を合図に、両者はウォッチをかまえ、パートナーを呼び出した!


「モモ!」『キュー!』


「オニマル!」『アオーン!』


 アリスが召喚したのは、【モモイロハネウサギ】のモモ。


 いっぽうの玲那が呼び出したのは、口に刀をくわえ、赤い額当てをつけた赤黒い毛並みの子犬だった。その眼光は鋭く、ただ立っているだけでも、剣士のような気迫を放っている。


「おーっとォ! 剣城選手、ここに来て新たなパートナーを呼び出したーッ! やはり決勝戦だけあって、ついに本気を出してきたということなのでしょうかーッ!?」


 玲那は準決勝まで、【アンバーカブ】のコハク一体だけで勝ち上がってきた。


 そのため、まったく別のワンダーが呼び出されたことに、実況席も観客席も一様にどよめいていた。


「あの子、はじめて見るワンダーだ!」


 緋羽莉もびっくりしたように、大きなひとみを見開く。


「あれはたしか……【刀剣獣オニマル】。和風の異空間(ワールド)にしか生息しないって言われてる、かなり珍しいワンダーだよ。口にくわえた刀で、高度な剣術を使う――ってことくらいしか、私も知らない」


 閃芽も興味津々といったようすで、メガネをキラリと光らせるのだった。


「口に剣をくわえて戦うなんて……なんだか、子犬だったころのミルフィーヌを思い出すね」


 りんごは、どこかなつかしむように言った。


 もっとも、ミルフィーヌが人型へ進化したのは、つい昨日のことだ。そう思うには、ちょっと早すぎるのかもしれない。


「ふーん、そうだったんだ。なら、アリスちゃんにとっても、ある程度は勝手知ったる相手ってわけだよね? 緋羽莉ちゃん」


 地魚は、緋羽莉の顔をじっと熱っぽいまなざしで見つめながら言った。


「そうですね。厳密には、刀術と剣術ってけっこうちがいますけど……それでも、まったく未知のワンダーを相手にするよりは、うまく立ち回れるはずです」


 緋羽莉は地魚の視線を気にするようすもなく、熱心な表情でコートを見すえている。


「……トレーニングを手伝ってたときも思ったけど、緋羽莉ちゃんって、かなり武道の心得があるよね? すっごく、いい筋肉してるし」


 地魚はほれぼれした顔で、緋羽莉のふわりとした服越しにもわかる、引き締まった腹筋をそっとなでながら言った。


「すみません。その話はあとで……いまは、アリスの応援に集中させてください」


 緋羽莉はいやがっているわけではない。だが、その言葉には、試合を見守りたいという真剣さがはっきりにじんでいた。


 地魚もそれを感じ取ったのか、いったんスキンシップをやめ、いっしょにアリスへ視線を向ける。


「《ハイドアウト》!」


 先に指示を出したのはアリスだった。


 モモは得意の隠ぺい技能を発動し、コート上から完全に姿を消す。


「あーっと! モモ、いきなり姿を消したーッ! これは準決勝のフィニッシュにも使われた技! これまでオール一撃KOで勝ち抜いてきた剣城選手、いったいどう対処するのでしょうかーッ!?」


 ニーナの実況と観客たちのどよめきが過ぎ去ると、コート上は数秒のあいだ、しんと静まり返った。


 玲那とオニマルは、目をキッとつり上げたままたたずんでいる。モモを積極的に探そうという気配はない。


 ――まるで、待ち伏せているかのように。


(いまだ――!)


 一瞬。オニマルがまばたきした、そのわずかなスキをつき――準決勝でロッキーを沈めたものと同じ、後方上空からのモモの延髄斬りが炸裂する――!


「――っ! ダメ、モモ! もどって!!」


 しかし、命中する寸前……アリスがあわてた声で制止した。


『キュ、キュッ!?』


 モモは驚きながらも攻撃を中断。空中で身をひるがえし、すばやくバックステップして、アリスの目の前へ戻ってくる。


 そして、ふたたび姿を現した。


「おやァ!? どうしたことでしょう! モモがアリス選手のそばで姿を現したぞーッ!? いっぽうのオニマルは、まったくの無傷! これはいったい、どういうことなのでしょうかーッ!?」


 実況のニーナも、観客たちも、モモが大げさに姿を消したにもかかわらず、なにも起こらなかったことに困惑しているようだった。


「どういうこと、緋羽莉ちゃん!?」


 地魚は緋羽莉の横顔を見ながらたずねる。勢い余って、ほんの少しつばが飛んだが、緋羽莉は気にしていない。


「……いちいち聞かなくても、アンタほどの人ならわかってるでしょ?」


 閃芽が、少しイラッとした顔で口をはさむ。


「え、えへへ……まあね」


 地魚はバツの悪そうに照れ笑いを浮かべた。


 どうやら、緋羽莉の武術への造詣の深さを試したかったらしい。


「わたしにもわかったよ。オニマルには、スキがまったく見当たらなかったんだ」


 りんごは神妙な面持ちで、コートを見下ろしながら言った。


「うん。うかつに踏みこんだら、モモは斬られてたと思う。でも、それだけじゃない……」


 緋羽莉は、ふだんのやわらかな表情に鋭さをにじませる。


「あのオニマルは、モモに踏みこませるためのスキを――わざと作ってたんだよ」


 その言葉に、りんごと閃芽の表情が変わった。


 攻撃を待ち受け、あえて誘い込む。それは、ただ強いだけではできない。相手の動きを読み切ったうえで、自分の間合いへ引きずり込む、高度な駆け引きだ。


「そういうところまで見抜いちゃうなんて、やっぱり緋羽莉ちゃんってすごいなあ!」


 欲しかった答えが返ってきたとばかりに、地魚はうれしそうに緋羽莉へ顔を近づけ、金色のひとみをキラキラと輝かせた。


「こっちの誘いに乗らなかったとはね……いいよ、認めてあげる」


 玲那は冷たい口調のまま、しかしほんのわずかに熱を帯びた声で言い放つ。


「おととい見たときよりも……いままで戦ったどの相手よりも、ずっとマシだってことをね」


 アリスも、その変化をしっかり感じ取っていた。


 だからこそ、ひるまず不敵な笑みを浮かべる。


「わたしこそ認めてあげるよ。あなたは、わたしがいままで戦ったウィザードの中で――まちがいなく、いちばん強いってね!」


 まだ、モモとオニマル、どちらも傷ひとつ負っていない。


 それでも、コート上では見えない火花が激しく散り合っていた。


 互いに相手を認めながら、それでも絶対に負けるつもりはない……そんな強烈な闘志が、空気そのものを張りつめさせている。


 ――決勝戦。勝負は、まだはじまったばかりだ。

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