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ワンダフルコネクト ~アリスとドラゴンのグレイテストロード~  作者: 稲葉トキオ
第3章 アリス・ハートランドと緋色の翼

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第100話 ヘッドライナーはぼくに

「やっ……た?」


 もくもくと煙を上げる一本杉のバケモノ――山の神【マウントレント】を見つめながら、りんごはぼそっとつぶやいた。


 閃芽は、まだ油断ならないといった様子で、険しい表情を崩さない。


 緋羽莉は気を失い、地面に倒れたまま。その表情は、安らかとは言いがたいものだった。


 ――それでも、その長い手足が描くしなやかな曲線や、うつぶせに伏した背中越しにもわかるやわらかな起伏は、戦いの最中だというのにどこか目を引くものがあった。


 汗にぬれた緋色の髪が頬に張りつき、かすかに上下する背中が、彼女がたしかに生きていることを静かに伝えている。


「……信じられないけど、どうやら、まだ終わりじゃないみたい」


 じっと目を細め、老木を見据えていたアリスが、低く言った。


 りんごと閃芽は目を見張るが、それほどの驚きはなかった。なんとなく、そんな気がしていたからだ。


 これまでの冒険で培われた感覚が、ふたりにも芽生えていたのかもしれない。あるいは、展開を読んでいただけかもしれないけれど。


 そのとき――マウントレントは、えぐれた幹の奥にある二つのひとみをギラリと光らせ、枝葉を大きく震わせた。


『まだじゃ……まだワシは動けるぞ……こんなに楽しい遊び、まだまだ終わらせるのはもったいないわい!』


 これほどのダメージを受けているというのに、その声には怒りどころか、むしろ喜びがにじんでいた。


 アリスたちとの戦いを、心の底から楽しんでいるのだ。


『おぬしも同じ気持ちじゃろう、炎のクマよ!』


『同意を求めんじゃねえよ! いい加減くたばりやがれ!』


 そう吐き捨てながらも、どこか楽しげな表情で、レッドは右のツメを振り上げた。


 とどめを刺そうとする――が。ここまでの激戦で、その体はすでに限界。動きは鈍く、力も乗っていない。


 ――そのスキを、マウントレントに突かれてしまった。その根で。


 ドスッ!


『うがっ……!』


 地面から突き出した根が、レッドの胴体を突き上げる。


 深くは刺さらなかったものの、不意を突かれた一撃はあまりにも重い。


 ついにレッドはその場に崩れ落ち、その体は光の粒子となって、アリスのウォッチへと還っていった。


『ちっこいのにも、お返しじゃ!』


 マウントレントは、続けざまに頭上から無数の木の葉を撃ち出す。


 弱っているためか、先ほどより数は少ないが、それでも十分に脅威だ。


 空を飛べる【ワカバズク】のザックは、すばやく回避する。


 しかし――


『キュルーッ!?』


 大きなひまわりを抱えているぶん、動きの鈍い【ヒマワリス】のリースは避けきれず、直撃を受けた。


 そのまま力を失い、戦闘不能となってしまう。


 これで閃芽も戦えるパートナーを失い、二人目のリタイアとなった。


「リース……おつかれさま」


 閃芽はウォッチへと戻ったパートナーに、静かにねぎらいの言葉をかける。


 普段は見せないような、やわらかな表情だった。


「ど、ど、ど、どうしよう……!?」


 りんごはあわあわと、仲間たちの顔を見回す。


 残る戦力は、自分のパートナーのザックのみ。その現実と重圧が、彼女の心に重くのしかかる。


「だいじょうぶ! まだ戦えるワンダーはいるわ!」


 そのとき――アリスの、はっきりとした声が響いた。


 自信に満ちたその声は、緋羽莉と同じくらいに、ふしぎと不安を打ち消してくれる。


 りんごは知っている。この声を出すときのアリスは、必ず道を切り開くのだと。


 アリスは右手のウォッチを高く掲げる。あふれ出す光の粒子が、ひとつの姿を形作った。


 現れたのは――青いドラゴンの子、【セルリアンドラコ】のブルー。


「えっ、ブルー?」


 りんごと閃芽は、同時に声を上げた。


 アリスにまだパートナーが残っているのはわかっていた。だが、それは無傷に近い【モモイロハネウサギ】のモモだと思っていたのだ。


 まさか――まだ完全に回復していないブルーを呼び出すなんて。その意図が、ふたりには読めなかった。


「ブルー! もう少しがんばれる? 今回のヘッドライナーは、あなたよ!」


『……もちろん!』


 アリスの問いに、ブルーは力強くうなずいた。


 直前に緋羽莉がヒーリングジェルで応急処置してくれていたとはいえ、ダメージが完全に回復したわけじゃない。ミルフィーヌですら、まだ眠ったままなのだから。


 それでも――ブルーの胸の中には、ふしぎなほどの自信が満ちていた。負ける気がしない。


 今日一日だけで、彼は多くの経験をした。


 ブロッサムスクエアでの初めての異空間(ワールド)の冒険。美しくふしぎな景色。ライバルや強敵との戦い。モモとの出会い。


 そして――この裏山では、仲間と力を合わせるよろこびを知った。


(ほんとうに、この地上に来てよかった……)


 胸の奥で、あらためてそう思う。


 激動の一日も、これが最後の戦い。


 その締めくくりを、アリスは自分に託してくれた。


 それは――最高の成功体験を、自分に与えてくれるために。


(これまでのすべてを……この一撃にぶつけるんだ!)


 ブルーは、強く地を踏みしめた。


『ほっほっほ。さあ、おたがい最後まで、死力を尽くそうではないか!』


 マウントレントは、再び足もとの地面から根を生やす。


 ダメージの影響か、その動きはどこか鈍く、勢いも弱々しい。だが――それでもなお、接近の難しさを感じさせるには十分だった。死力を尽くすというのは、こういうことなのだろう。


「りんごちゃん! ザック!」


 アリスに呼びかけられ、りんごはぴくっと肩を震わせる。


「ブルーはまだ満足に動けない。頼りにしてるよ!」


 またも主語の抜けた指示。……けれど今回の意図は、りんごにもはっきりと理解できた。


 りんごはこわがりだが、同時にとても頭のいい子だ。


 足りない言葉は、信頼の証。


 それを向けられたことが、りんごはたまらなくうれしかった。


「……うん、まかせて!」


 小さな体で、けれど力強くうなずく。その表情は――ブルーと同じく、これまでにない自信に満ちていた。


 そのとき誰も口には出さなかったが――倒れている緋羽莉の存在そのものが、場に残るやさしさの源のようだった。大きな体を小さく丸めるように伏せた姿は無防備で、それでいてどこか包み込むような安心感をまとっている。


「ザック!」


『御意!』


 りんごのかけ声とともに、ザックは大きく羽ばたく。


 そしてブルーの両肩を、その鋭い脚でしっかりとつかみ――一気に上空へと舞いあがった。


 そのままマウントレントめがけて、一直線にテイクオフ!


 これならば、地上の根を気にせず一気に距離を詰められる!


 その連携に、閃芽も思わずにいっと笑みを浮かべた。


『そうきたか! だが、簡単には来させんぞ!』


 老木もまた感心しながら、対抗するように枝を震わせる。


 頭上から降り注ぐのは、無数の木の葉――するどい刃の雨だ。


 その数は先ほどより少ないとはいえ……ブルーを運んでいるザックは機動力が落ちている。すべてをかわしきることはできない。


 バシュッ、バシュッ――


 その体を、翼を、葉がかすめ、斬り裂く。


 それでもザックは飛び続ける。


 ただひとつ――ブルーを老木のもとまで届けるために。


「がんばって、ザック!」


 りんごの声援が背中を押す。


 ザックは歯を食いしばるように、さらに速度を上げた。


 マウントレントの顔面まで――あと数メートル!


『させん!』


 マウントレントは大きく息を吸い込み――


 ふううううっ!


 巨大な顔から吐き出されるのは、まるで突風のような吐息。


『ぬおおっ!?』『わああっ!?』


 ザックとブルーの体が、大きく押し戻される。


 空中でバランスを崩し、後方へ流されそうになる――その瞬間。


「《ラプターシュート》で、ブルーを蹴っ飛ばしてっ!」


 りんごの指示がするどく飛んだ。ザックは即座に判断する。


 翼を大きくひろげて風に耐え――一瞬だけブルーを脚から解放。


 そして次の瞬間、渾身の脚力で――


 ドンッ!


 強烈な蹴りを叩き込んだ!


 ブルーの体は風を切り裂き、弾丸のように前方へ突き抜ける。


 突風を突破し、そのまま斜めに急降下――


 地面へと着地したときには、すでにマウントレントの根元。顔面は、目と鼻の先だった。


 一方、空中に残ったザックは突風に飲み込まれ――大きく吹き飛ばされる。


 そして、そのまま力尽き、地に落ちた。


「いけーーーーーっ!」


 アリス、りんご、閃芽――三人の声が重なる。


 ブルーは右のこぶしに空色のオーラを集める。


 それはやがて――バチバチと弾ける、紫電の輝きへと変わっていった。


(ブルーなら、できるよ!)


 そのとき。


 三人の声援にまじって――気を失っているはずの緋羽莉の声が、確かに聞こえた気がした。


 それと同時に、ふわりと甘い香りが風に乗って届く。倒れたままのはずなのに、まるでそばで見守っているかのようなぬくもり。あたたかくて、やさしくて――思わず胸の奥がほどけてしまいそうになる感覚だった。


 ヒーリングジェルを塗ってもらったときの、天にものぼるような心地よさも、胸の奥によみがえる。


 たとえ意識を失っていても、みんなを支え続ける存在。


 それはまるで――姫君を超えた、“勝利の女神”のようだった。


 土に触れた頬も、乱れた髪も、そのすべてが戦いの証でありながら、ふしぎと損なわれない美しさをたたえている。眠るように動かないその姿が、誰よりも強く、みんなの背中を押していた。


『おお……これはまさに、王の資質……!』


 さきほどの【キングハナモグラ】と同じ言葉を、老木は思わず口にする。


 ブルーの放つヴァイオレットのオーラに圧倒され、迎撃のタイミングを完全に失っていた。


 ――いや、仮に動けたとしても。この一撃は、止められなかっただろう。


(王の資質……ほんとうに、ぼくにそんなものがあるなら――)


 胸の奥から、熱い想いがあふれ出す。


(これからももっと……アリスの、モモの、緋羽莉ちゃんの……みんなの力になれる!)


 ブルーは願いをこめて――全身の力をこぶしに集め、振り抜いた!


『《マジェスティックインパクト》!』


 その叫びとともに――紫電が閃き、巨木を打ち砕く。


 一瞬、世界が静止したかのような静寂。


 そして――アリスははっきりと感じ取った。


 マウントレントの生命力(オーラ)が、完全に消えたことを。


 ブルーは見事――このラストバトルに終止符を打つ、"大トリ(ヘッドライナー)”の役目を果たしたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

このおはなしも今回で100話目をむかえることができました。

おもしろかった、つづきが読みたいと思っていただけたら、

評価、ブックマークのほどよろしくおねがいいたします。

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