有馬温泉
美里夫婦、拓海君夫婦、翔太君夫婦……そして私たち夫婦が想い出が詰まった有馬温泉へ行った。
「嬉しいわぁ~。また来れたもん。」
「そうね。」
「子どもも手が離れたし、これから時々こういうのもいいな。」
「うん。いいな。」
「夜は、ピンポン大会ですな。」
「勿論!」
「私下手だから……やだわ……。」
「夫婦対戦よ。」
「下村さん、お願いね。」
「詩織、任せろ。」
「ねぇ~、いつまでなの?」
「何が?」
「いつまで『下村さん』なのよ。」
「ほんと、それっ! 一輝さん、いいんですか?」
「妻が夫を呼ぶ時に名字で呼ぶって変だぜ。なぁ翔太!」
「変だ! 詩織ちゃん、もう何年なんだよ。下村になって……。」
「いいんですよ。もう慣れたので…!」
「慣れるなよぉ~! 一輝さん!」
「俺ですら一輝さんって呼んでるんだぜ。それなのに、妻が…あぁ……。」
「だって、恥ずいもん。」
「ああ? いつまで?」
「もう、いいんだ。慣れたから……。」
「もう、いいんじゃないですか?
ご本人が『いい。』って言ってるのだし……。
下村さんって呼ばれても幸せそうですし……。」
「まぁ、そだな。」
下村一輝は結婚しても「下村さん」と妻・詩織に呼ばれて、それは最期の日まで続いた。
子どもは望まなかった。
年齢を考えた上での選択だった。
翔太は妻を支える夫だった。
妻は活き活きと仕事が出来た。
二人で最期まで仲良く暮らした。
拓海は二人の子を分け隔てることなく育て、孫が生まれて楽しい老後だったが……
妻に先立たれたのが辛い晩年だった。
美里は二人の子どもを育て上げ、孫に囲まれて、年下君と仲良く暮らした。
美里よりも年下君の方が早くこの世を去った。
年下君が亡くなってからの美里は心ここにあらずの状態が続き、詩織は心配した。
ただ、子ども達が美里を支えて最期を看取った。
あの……真瀬悠馬は、妻の回復を得られなかった。
長い年月、ほぼ別居だった。
そして、妻よりも先に亡くなったそうだ。
「そうだったのか……。
奥様よりも先に亡くなったのか……。」
「それも50歳で亡くなったのよ。」
「分からないものだな。人の死は……。」
「長生きしてね。お願い……。」
「詩織もな。僕を置いて逝くのだけは止めて欲しいよ。」
「それは私の台詞だわ。置いて逝かないでね。下村さん。
一人にしないで!」
「そうしたいよ。」
「そうしてね。」
「ねぇ……私と結婚して……良かった?」
「良かったよ。結婚してくれてありがとう。」
「それは……私の台詞だわ。ありがとう。」
「53歳と50歳か……。」
「うん。」
「まだ、結婚して8年なんだな。」
「そうね。晩婚だったから……。」
「遅く出逢ったから結婚出来たんだな。」
「そうね。」
「これからも、よろしく僕の奥さん。」
「私こそ、これからも、よろしく私の旦那様。」
この後、83歳と80歳まで二人の夫婦としての旅は続いた。
そして、静かに夫婦としての幕を閉じた。




