助け
泣いてしまった日から1年が経ち、少しずつ……本当に少しずつ、下村一輝の存在が大きくなっていった。
一緒に居る時間は穏やかで心が落ち着く。
若くないからか……胸の高鳴りは感じていない。
会社で昼食後に同期の千尋から聞いた話は、私の心を激しく揺れ動かした。
「詩織……いつか耳にするかもしれないから……
私から話すね。
噂を耳にして詩織が心を乱すよりも、私から聞いた方が良いと判断したの。」
「何? 怖いな………。」
「あのね、真瀬君の奥さんなんだけどね。」
「!……奥様……。」
「うん。ずっと前にお子様のこと話したよね。」
「うん。」
「あれから、精神的に不安定だって話したっけ?」
「聞いたよ。その時に……。」
「……事故の直後は……悪くない他所の子のせいだ!って言ってたのよね。
奥さんが……。」
「………………。」
「そういうこと、言わなくなったの。」
「そう……。それって、自分を責め出したとか……。」
「その通りなのよ。
それでリストカットして、実家に帰って……。」
「………そこまで聞いたように思う。」
「入退院を繰り返されてたんだけどね。」
「うん。」
「良くならなくてね。最近も退院されてから、また………。」
「また…って……。」
「うん。リストカットしたらしい………。」
「それでね。そんなこと無いと思うけど……。
真瀬君……万が一、詩織に近づいたとしても……
……その……後ろ指……指されるようなことにだけはならないで!」
「……千尋……。」
「心配なのよ。詩織が……。
詩織、奥さんを選んだのは真瀬君だからね。
どんな結果になろうと、その人生を選んだのよ。
離婚しても、しなくても、ね。
詩織は……巻き込まれないで欲しいの。
今、万が一……真瀬君は寂しかったり、辛かったりだからね。
支えたい!とか詩織……思って欲しくないのよ。
もう、別々の人生を選んだのだから……。
お願いだから!」
「……千尋、ありがとう。
ごめんね。心配かけて………。」
「ううん。お願い! お願いよ!」
「……千尋……分かってるから、ね。
分かってるから……。」
「うん。」
千尋は涙ぐんでいた。
私の頭の中で忘れないといけない人・真瀬悠馬の顔が浮かんだ。
声が……消えてくれなかった。
⦅あの日も、辛かったの? 苦しかったの?
過去の女に縋りたくなるくらいに……。⦆
このままではいけない!と思った。
スマホを見た。
まだ残っている真瀬悠馬の電話番号……消せなくて……そのままだった17年。
見つめてしまったLINE。
会いたくなってしまう弱い心。
⦅誰か……助けて!⦆
気が付くと、LINEで下村一輝にメッセージを送っていた。




