一輝のプロポーズ
下村一輝とは連絡を取り合う仲になった。
恥ずかしい酷い泣き顔を見られてしまった後、気に掛けてくれたようでLINEも電話もほぼ毎日……。
美里は「下村さんが良いわ! 詩織、もう下村さんにしたら?」と言うようになった。
そういう気持ちが私には生まれていない。
あれから、真瀬悠馬には会っていない。
多分、もう一生会うことは無いだろう。
あの日が最後だったのだ。
それが胸を苦しくする。
まだ、忘れられないままだった。
長すぎる執着だと思う。
「詩織ちゃん、今日、いつもの店で!」
「OK!」
LINEで下村一輝と会う約束をした。
いつも急に決まる。
「待たせた?」
「ううん。それほどでも……。
ねぇ、何か良い話?」
「えっ? なんで?」
「だって、急にLINE来たから……。」
「良い話……どんな?」
「好きな人が出来た!とか……。」
「……それは……今、僕の目の前に居るんだけど。」
「またまたぁ……。」
「そうやって、いつまでも……。本気にしてくれよ。」
「……私、まだ駄目だと思う。」
「知ってる。だから、待ってる。」
「待たれても……いつまでも……かもしんないじゃん。」
「いいよ。いつまでも待ってるから……。」
「あッ!という間におじいさんになっちゃうよ。」
「いいよ。老体二人で仲良く出来たら最高だよ。」
「………。」
「待ってるよ。ちょっとだけアリ!だと思ってるから…。」
「アリ?」
「脈アリ!」
「なんで?」
「こうして会ってくれてるから……ブロックもされてないし……。
僕にとっては脈アリ!
僕と会うの……嫌?」
「ううん。」
「じゃあ、嫌じゃないんだね。」
「うん。……嫌じゃない。」
「だったら、脈アリ!だよ。
……取り敢えず何か食べようよ。」
「うん。」
「今度、一緒に行かないか?」
「どこへ?」
「有馬温泉。」
「ありま……なんで?」
「僕にとっての想い出の地だから、君との想い出の地。」
「想い出って言っても……ちょっと会っただけよ。」
「そこで、美里さんや拓海君、翔太君と会ったんだ。
そのお陰で、あの日、君の家に行くことが出来た。
だから、大切な場所なんだ。」
「下村さん……。」
「名前で呼んで欲しいんだけど?」
「名前?」
「うん。一輝って呼んで欲しいな。
僕も詩織って呼びたい。」
「それって……?」
「一緒に暮らしたいと思ってる。
いつか、君が僕の方を向いてくれたら……。
彼のことを忘れなくっていいんだ。
彼に想いを寄せたままでいいんだ。
その彼への想いごと、君を好きだよ。
そんな君だから愛してる。」
「私……。」
「それに……僕も別れた妻のこと忘れないよ。
そんなに簡単に忘れられない。
だから、お互い様だ。…うん? おあいこ?」
「………………。」
「なんで、泣くんだ?」
「分からない……。分からないわ。」
下村一輝の手が私の手を包んだ。
「僕の気持ちだから……変わらないよ。僕も……。
いつか、僕を愛してくれたら、僕は最高に幸せだ。
待ってるから……僕は気が長いんだ。」
「………………。」
少しずつ……少しずつ……あの人を忘れ去るのではなく……。
その気持ちは残ったままで……私の気持ちが下村一輝の方を向いていった。




