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明日へ  作者: yukko
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蓋をした想い

どの位、経ったのか分からなかった。

インターフォンが鳴った。

直ぐにドアが開けられた。


「詩織さん!」

⦅誰?⦆

「大丈夫?……じゃないね。」


涙でめちゃくちゃになった顔をハンカチで拭いてくれている人が見えた。

下村一輝だった。


「立てる?」


そう言って私を立ち上がらせた後、私の手を繋いだ。


「僕は君の家に入れないからね。

 今から話せる場所に行こう。」

⦅どうして?⦆


声が出なかった私を下村一輝は公園に連れて行った。


「ここで話を聞くよ。」

⦅なんで? ここに居るの?⦆

「ゆっくりでいいからね。

 話したくなったら話して。

 もしかしたら、話すことで少しだけ、ほんの少しだけ……

 その時だけでも楽になるかもしれないからね。」


私を公園のベンチに座らせて、隣に座った下村一輝はただ傍に居てくれた。

何も聞かずに……。

時間が流れていった。


「……ごめんなさい。」

「いいよ。僕は暇だから、ね。」

「……会ったの。あの人に……。

 聞かれたの。何故?って……。

 何故、別れるって言った?って聞かれたの。

 ………終わらせるために聞きたいって言ったの。

 ………一生、一生ね。話すつもりじゃなかった。

 ……でも、終わらせたいって言うの。

 終わらせるために聞きたいって………。

 だから………だから、話したの。

 お父さん……借金……愛してたから……愛してたから、別れるって……

 決めて……。」

「うん。」

「あの人、結婚した人……5歳上だったって初めて知ったわ。

 寂しかったって……言ったわ。

 私………私………言ったの。

 幸せに……って。

 私の人生で……たった一つの恋だった。

 綺麗な彩の日々だったの。唯一の……。

 だから、ありがとうって言ったの。……ありがとう…って…。」

「頑張ったね。」

「悪いことはしてないわ。」

「うん。」

「話して帰って来ただけよ。」

「うん。分かってるよ。」

「でも……会えて嬉しかったの……。許されないわ。」

「いいんだよ。心の中でだけなら……。

 誰も責めたりしない。

 君も、彼も何もしていない。ただ話しただけだよ。」


声を出して泣いてしまった私の前に下村一輝は居た。

隣に座っていたのに、いつの間にか……ベンチに座っている私の顔を見られるように……。


「偉かったと思うよ。

 超えるのは許されない線を越えなかった。

 二人とも偉かったよ。

 抱き合った訳じゃないんだろ?」

「……うん……。」

「ただ話しただけだよな。」

「うん。でも、それも許せない人が居るでしょ。」

「そうかもしれないけど、それなら、僕は常に……だな。

 ………詩織さん、もう終わったんだよ。

 これで、彼も本当の意味で終わりに出来るんじゃないかな?」

「なんで?」

「うん?」

「なんで……あの人……『奥様を大切に。』って行った後……

 『幸せで居て。』って行った後……

 苦虫を嚙み潰したような顔……したの?」

「……君の口からだけは聞きたくなかったのかな?」

「なんで?」

「君が結婚していないからだったかもしれない、ね。

 自分だけが一般的な幸せを勝ち取ってるから……。」

「私が未婚だから……。」

「僕は彼じゃないから分からないけどね。

 僕は妻が結婚してくれて良かったと思ったから……。」

⦅本当は違うだろうな。結婚していなかったら、と思ったのかもな。⦆

「ごめんなさい。」

「いいよ。気にしないで!」

「私、強くないでしょ。」

「ううん。芯が強いよ。」

「弱いわ。」

「弱かったら不倫してるだろうな。

 でも、芯が強いから立ち止まれた。

 強くて優しいよ。詩織さんは………。」

「ごめんなさい。もう大丈夫だから……。」

「本当に?」

「ほんと。」

「嘘だな。まだ一人になると苦しくなるよ。

 そんな顔だ。」

「今、何時?」

「9時だよ。」

「もう9時なの?」

「うん。………しかし、良かった。」

「何が?」

「夏じゃなかったから、夏だったら今頃は二人共に蚊に刺されて、そこら中、搔き

 むしってるだろうな。」

「そうね。」


「あ………ハンカチ……ごめんなさい。」

「いいって、気にしないこと。いいね。

 ………素敵な恋だったんだね。」

「うん。」

「いい恋をしたから、いい女になった。」

「そんなことない。」

「いい女だよ。僕にとっては………。」


「何か口に出来るかな?」

「分からない。」

「饂飩か蕎麦……食べに行こう。ねっ。」

「食べられないかも……。」

「いいよ。ちょっとだけでも食べた方がいい。

 さぁ、行こう!」


下村一輝の後を付いて行った。

下村一輝はゆっくり歩いてくれた。

そして、少しだけしか食べられなかったけれども、食事を終えてから二人でお茶を飲んだ。

その店で下村一輝は、どうして家に来たのかを話してくれた。

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