真瀬悠馬
楽しかった有馬温泉への旅。
ちょっと予定とは違う出来事があったけれども、楽しい時間を過ごせた。
皆が「ブロックしないこと!」というので、そのままにしているが……
流され過ぎではないだろうか?と思っている。
日々は何も無い穏やかな時間を重ねて過ぎていった。
過ぎていったが………。
「詩織。」
⦅えっ? どうして? 声を掛けるの?⦆
「詩織……元気だった?」
「……ありがとう。元気だったわ。」
⦅なんで? 離れないと……。⦆
「少しだけ話せる?」
⦅動け! 足!⦆
「なんで?」
「知りたいことがあるんだ。」
⦅今更、何を知りたいの? 断るのよ。⦆
「…………。」
「この先のカフェに行こう。」
「えっ?」
どんどん歩いていく真瀬悠馬の後姿を見ていた。
「詩織?」
⦅断るのよ。早く!⦆
「……何の用なの?」
「カフェで話すから。」
⦅付いて行っちゃ駄目! 駄目!⦆
足が動いてしまった。
真瀬悠馬に近づいてしまった。
カフェに入ってしまった。
「座ろうか。」
「……………。」
⦅何をしてるのよ。早く帰らないと!⦆
「何にする?」
「……カフェラテ。」
「俺はアメリカン。」
「カフェラテとアメリカンですね。
お待ちください。」
「……詩織、俺、ずっと知りたかったんだ。」
「何を?」
「なんで、別れるって言った?
なんで、結婚しない。
俺、ずっと分からないまま生きて来たんだ。
今更だけど、教えて欲しい。
何故なんだ。何故……。」
「もう奥様が居るじゃないの。」
「別れ話が出る少し前に兄貴が結婚したのは覚えてる?」
「覚えてるわ。貴方のお兄さんに赤ちゃんが生まれたことも…。」
「言ったんだよな。俺……。
『もう一度、付き合ってくれ!』って言った時に。」
「うん。」
「寂しかったんだ。直ぐに家を出るって決めたきっかけだった。
兄貴は新婚で、俺は別れて……同じ家に居るのは寂しくて……。
うちのとは、そんな時に出逢ったんだ。
お前に後姿が似てて、声を掛けたら全くの別人で……。
でも、それがきっかけで付き合って直ぐに結婚して欲しいと……
年上なんだ。5歳上。
それからは早かった。
俺はお前を振り切るためにお前に貰った物、写真とか全て捨てた。
けど、お前はいつまでも独り……。
何があったんだ。
何かあったから別れようって言ったんだろ?
違うのか? 詩織!」
「どうでもいいじゃん。終わったことなのに……。」
「俺の心の中で終わって無いからだ。
終わらせるんだよ。」
「終わらせるため?」
「そうだ。」
涙が止まらなくなった。
ゆっくり父の会社のことを話した。
「借金……それだけのために別れるって言ったのか?」
「それだけのためって、そんな大金よ。貴方の人生まで狂わせるわ。」
「一緒に乗り越えること考えてくれなかったのか?」
「貴方を愛してるから! それしか……私は……選べなかった。」
「俺の愛は? 俺の愛は宙ぶらりんだな。」
「でも、貴方は愛する人を見つけられたでしょ。奥様を……。」
「………そうだな。」
「後悔してないでしょ。」
「………そうだな。」
「終われたでしょ。分かったから………。」
「……そうだな。」
「帰りましょう。」
「分かった。」
二人とも全く飲まずに支払って店を出た。
「詩織……幸せか?」
「それなりに……健康だし、仕事もあるから……。
悠くん、幸せよね。」
「あぁ………。」
「奥様を大事にしてね。」
「あぁ………。」
「幸せで居てね。」
「詩織こそ。」
「ありがとう。」
「何が?」
「私の人生で、たった一つの恋だったわ。
………私の人生…の…素敵な彩の日々だった。
……ありがとう。夢のような時間をくれて………。」
「………詩織……。」
「元気でね。ずっと幸せで居てね。さようなら………。」
「……………………。」
涙でいっぱいの目に真瀬悠馬の顔が映った。
⦅なんで? なんで、苦虫を嚙み潰したような顔なの?⦆
そのまま後退って離れた。
どうして家に帰られたのか分からなかった。
途中、電話が架かってきたことを覚えている。
玄関を開けて中に入った途端、涙が溢れ出た。
その場に膝をついて………顔を覆い泣いた。




