断る
話ながら私は思い出していた。
思い出しただけで涙が出てきてしまった。
「ごめん………泣く気は無かったの……。」
「詩織………泣いていいのよ。泣いていいの………。」
「それで? 彼は……その時だけで終わったのか?」
「あの……その方は詩織さんの彼だった方ですか?」
「……ええ………。」
「今はどうなさってるの?」
「別れてから結婚して二児の父になったのだけど……。
お子さんをお二人とも亡くされたの…。
今はどうか分からないけれども、奥様は御実家に帰られてたみたい。」
「お子さんが………。」
「奥様は……お辛かったと思うの。」
「そうですね……想像できないほど……お辛かったでしょうね。」
「………別れ際に……何か言いたそうな感じだったのかな?
聞いてて、俺はそう感じたんだけど……。」
「……分かんない……分かんないわ。
私、辛すぎた……その気持ちと…一瞬でも会えて嬉しかった。
いけないことだけど、嬉しいって思ってしまったの……だから……。」
「だから?」
「早く離れなくっちゃ…って、思った。」
「そうか………。」
「執着だと分かってるのに……止められないの……。」
「執着……か……。」
「叶う想いだったら……俺は応援するけどな。
叶えたらいけない想いだからな。」
「うん。分かってる。」
「詩織ちゃんが分かってるって、分かって言ってるんだ。」
「うん。」
「超えたらいけない橋なんだ。」
「うん。」
「織姫と彦星じゃないからな。」
「うん。……拓海君、ありがと。肝に銘じるわ。」
「相手が何もしなければ何も起こらないよ。拓海。」
「そうだな。」
「詩織ちゃんは動かない。
動く人なら、もうとっくに動いてる。」
「そうだな。お前の言う通りだ。翔太。」
「だから、拓海は詩織ちゃんに釘を刺したんだろ。」
「お見逸れいたしました。」
「ただ、もっと深い釘が必要かもな……。
詩織ちゃん、万が一、元カレが近づいても距離を取っておくこと。
いいね。」
「はい。」
「それしか君自身を守れないよ。
執着であろうと愛情であろうと……
相手の家庭を壊すのは、愛じゃない。
自分で執着だと言い切るなら、壊さないと誓って欲しい!
そして、それを守って欲しい。
俺は……俺達は、そいつのことなど……どうでもいんだ。
詩織ちゃんが傷つくのを見たくない!」
「そうだ。俺もこれ以上傷ついて泣く詩織ちゃんを見たくない!
そいつとは離れていてくれ!」
「うん。分かったわ。」
「詩織……私が居ること……忘れないで……ね。」
「……うん。」
大きく息を吐いてから拓海君が言った。
「それで、もう一匹いたよね。
失礼な奴が……。」
「居たな!」
「そいつとは、どうなったんだ?」
「どうもしないけど……。」
「ほんとかよ。会社を調べてきた奴だぜ。」
「私と……どうなりたい…とかじゃないのよね。」
「じゃ、なんなんだ?」
「会社を立ち上げたみたいでね。
営業の一環だったみたいなのよ。」
「えっ?……。」
「営業の一環? 何、それっ! めっちゃ失礼じゃん。」
「うん。失礼よ。
……必死みたいで……父がね……会社経営するの大変だったから……
なんとなく大変なんだろうなぁ~って思うのよね。」
「それは、それ!」
「ちょっと……疑問。」
「何が?」
「落とすって言ったんだろ? そいつ。」
「うん。言ってたね。」
「落とす=営業の一環? それ違うんじゃないか?」
「でもね、その後で言ったのよ。
『経理だったんだ…。残念!』ってね。」
「うん?」
「それでね………実は………皆にも会いたかったみたいでね。」
「うわぁ~~~~っ! 何、それっ?」
「ちょっと待ったぁ――っ!
詩織ちゃん、まさかと思うけどな。
連絡し合ってるのか?」
「なんか会社に電話が架かって来たの。
それで、止めて欲しいって言ったら、連絡先を知りたいって……
それで、会社の電話でこれ以上話したくなかったから、ね。」
「ちょい待ち! 教えたのか? そんな奴に。」
「仕方なかったんだけど……いけなかった?」
「おいおい……個人情報、もっと大切にしろよな。
断りな! いいか! 今すぐにこの場で断るんだ。
そして」
「ブロック!」
「ブロック!」
「ブロック!」
「凄い! 見事なハモり!」
「感心してる場合じゃないだろ!」
「詩織ちゃん、今から電話するように! いいね!」
「はい。」
「電話が終わったら、直ぐにブロック!
ショートメッセージもブロック!」
「うん。分かった。」
「はい。今から電話架けること。
場合によっては俺が出るからな。」
「………。」
「どした?」
「なんか緊張する。」
「皆いるから…大丈夫だよ。詩織、ガンバっ!」
「じゃあ、電話するね。」
「おうよ!」
「なんか……拓海君、翔太君……お兄ちゃんみたい。」
「お兄ちゃんだよ。」
「そうだぞ。兄貴だ。」
「うん。」
電話を架けると、彼・下村一輝が出た。




