表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日へ  作者: yukko
31/57

5年後

あの日から、美里の挙式日から5年が経った。

今日は翔太君夫婦がフランスへ行く前に懐かしい4人、そして、それぞれの配偶者と会うことになった。

店を予約したのは私。

店に着くと、全員が席に着いていた。


「ごめんなさい。待たせてしまって……。」

「詩織~、久し振り。」

「詩織ちゃん、今日はありがとう。俺達夫婦のために…。」

「何言ってんのよ。当たり前じゃない。翔太君、いい夫だね。」

「本当に感謝してるんです。妻に付いて海外へ行ってくれる夫は、この人一人だと

 思うんです。」

「ご馳走さまです! いつまでもアツアツですな。」

「拓海! 奥さん、こんな奴ですけど、よろしく頼みます。」

「翔太さんに頼まれました!」

「おいおい……。」

「まぁ~、どちらさんもアツアツで……独身の私としましては身の置き所がありま

 せんわ。おほほ……。」


そう、拓海君も結婚したのだ。

久し振りの同窓会がきっかけで……。

お相手は再婚で子どもが一人いる。

拓海君はいい夫であり、いい父になったようだ。


「ところで……拓海のプロポーズはどんなんだったんですか?」

「あ! それっ、私も知りたい! 拓ちゃんのプロポーズ!」

「そんな……ご迷惑ですよね。でも、僕も知りたいです。」

「そうよね。年下君!」


年下君という愛称をいつの間にか、みんな使うようになっていた。


「だからぁ~! 同窓会だって言っただろ!」

「それは再会の場だろ。」

「私が知りたいのは拓ちゃんのプロポーズの言葉よ。」

「知りたいわぁ~。」

「それは……。」

「それは私だけが貰った言葉なので……内緒です。」

「まぁ~、アツアツだわ ♡ 」

「……もお……いいだろ……。」


お酒が進んでいった。私も……すると、話したくなってしまった。

この5年間のことを……。


「母が亡くなったのは美里の挙式の日だったわ。」

「うん。」

「母の葬儀の時に、兄嫁が子どもを連れて来たのよね。

 でも、居場所がなさそうだったわ。

 ほとんど関りが無かったから……。

 母が亡くなってから……2年後に父があっけなく逝ってしまったわ。

 交通事故で……。車に轢かれるなんて……。

 母が迎えに来たのかしら?」

「…………。」

「あの2年間だけだったけど、父と二人で暮らしたわ。

 父の寂しそうな横顔を忘れられないの。」

「………。」

「父が亡くなって……その葬儀の時も兄嫁の居場所はなかったわ。

 声を掛けたんだけど、どうすればよかったのかしら?」

「……声を掛けただけで充分じゃないかしら?」

「そうだったら、良いのだけど………。」

「借金は? 借金は終わってたよな。」

「うん。終わってた。

 僅かだけど貯金してくれてたの。

 父は遺言を残してたのよ。

 効力がないと思うけどね……。」

「何て書かれてたの?」

「貯金の全額を……私に………って。」

「当然よ。詩織は貯金全額だしたんだから……。

 それに、仕送りだってしてたんだから……。

 貰ったわよね。」

「ううん。兄と半分にした。」

「なんで? 何にもしなかったのに……。」

「なんとなく……なんとなく、なのよ。

 自分でも分かんないのよね。

 こういうところが嫌われるところかな?」

「誰が嫌うって言うのよ!」

「良い子………ぶり…っこ……だから……。」

「誰が言ったの? そんなこと!」

「誰にも言われてないけど、そう思うの。」

「そんなことないから! そんなことない!」

「あれからね……私、独立する先輩夫婦に誘われたのよ。

 一緒に仕事してくれないか?って……。」

「いつ?」

「いつだったかなぁ……。」

「どうしたんだ?」

「断った。その時に理由を聞かれたのよ。

 父が連帯保証人になって借金で廃業したこと。

 私は貯金を全て父に渡したこと。

 仕送りしていること。

 話したのよ。」

「でっ……何を言われたんだ?」

「何を言われたの? 詩織……。」

「何も……残念だ!って言ってくれたわ。」

「……気にすんな! 今まで頑張ってきたことだからな。」

「そうだよ。胸を張っていいことなんだよ。」

「でもね、私……何も無くなったの。何も無いの……。」


泣いてしまって、後は言葉にならなかった。

美里が抱きしめてくれて背中を撫でてくれた。


「あのね……。」

「うん。」

「私を……先輩夫婦に推薦したのが……

 ずっと前に付き合ってた彼だった……。」

「……えっ?」

「…………。」

「なんでかな? 余裕で?

 自分は結婚して幸せだって伝えたかったのかな?

 そんなこと……もう、ずっと前に知ってたのに……!

 なんで? なんで……?」

「…その人の気持ちを僕は分かりませんけれども……

 それだけ、詩織さんの仕事がいい!っていう証ではありませんか?」

「年下君……。」

「まぁ……いい仕事してる!っていうことだけは確かだと思うぞ。

 なぁ、翔太!」

「うん。そうだよ。自信持って、いいと思うよ。」


沈黙が流れた。


「ごめんね。翔太君のお別れ会なのに……。」

「そんなこと気にしないでよ。」

「そうです。気にしないでください。」

「翔太は、おフランスで何をなさいますのかしらぁ?」

「おい! 拓海! 裏声で……キショク悪い……。」

「で! どうすんだ?」

「仕事はリモートで出来るから、いいんだよ。」

「なぁ~る!」


翔太君夫婦には子どもが居ない。

美里夫婦には1人、男の子が居る。

今日は実家に預けての夫婦参加だそうだ。

年下君が「デートだ!」と喜んでいた。

拓海君夫婦には奥様の連れ子が1人。男の子だ。

奥様のお腹の中に拓海君との子が居るそうだ。

お酒を沢山飲んだのは久し振りだった。

アパートまで一緒に居てくれたのは美里夫婦だった。

別れて見送る時、涙が頬を伝わった。

私は、これから一人で「どう生きていこう………。」と佇んでしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ