5年後
あの日から、美里の挙式日から5年が経った。
今日は翔太君夫婦がフランスへ行く前に懐かしい4人、そして、それぞれの配偶者と会うことになった。
店を予約したのは私。
店に着くと、全員が席に着いていた。
「ごめんなさい。待たせてしまって……。」
「詩織~、久し振り。」
「詩織ちゃん、今日はありがとう。俺達夫婦のために…。」
「何言ってんのよ。当たり前じゃない。翔太君、いい夫だね。」
「本当に感謝してるんです。妻に付いて海外へ行ってくれる夫は、この人一人だと
思うんです。」
「ご馳走さまです! いつまでもアツアツですな。」
「拓海! 奥さん、こんな奴ですけど、よろしく頼みます。」
「翔太さんに頼まれました!」
「おいおい……。」
「まぁ~、どちらさんもアツアツで……独身の私としましては身の置き所がありま
せんわ。おほほ……。」
そう、拓海君も結婚したのだ。
久し振りの同窓会がきっかけで……。
お相手は再婚で子どもが一人いる。
拓海君はいい夫であり、いい父になったようだ。
「ところで……拓海のプロポーズはどんなんだったんですか?」
「あ! それっ、私も知りたい! 拓ちゃんのプロポーズ!」
「そんな……ご迷惑ですよね。でも、僕も知りたいです。」
「そうよね。年下君!」
年下君という愛称をいつの間にか、みんな使うようになっていた。
「だからぁ~! 同窓会だって言っただろ!」
「それは再会の場だろ。」
「私が知りたいのは拓ちゃんのプロポーズの言葉よ。」
「知りたいわぁ~。」
「それは……。」
「それは私だけが貰った言葉なので……内緒です。」
「まぁ~、アツアツだわ ♡ 」
「……もお……いいだろ……。」
お酒が進んでいった。私も……すると、話したくなってしまった。
この5年間のことを……。
「母が亡くなったのは美里の挙式の日だったわ。」
「うん。」
「母の葬儀の時に、兄嫁が子どもを連れて来たのよね。
でも、居場所がなさそうだったわ。
ほとんど関りが無かったから……。
母が亡くなってから……2年後に父があっけなく逝ってしまったわ。
交通事故で……。車に轢かれるなんて……。
母が迎えに来たのかしら?」
「…………。」
「あの2年間だけだったけど、父と二人で暮らしたわ。
父の寂しそうな横顔を忘れられないの。」
「………。」
「父が亡くなって……その葬儀の時も兄嫁の居場所はなかったわ。
声を掛けたんだけど、どうすればよかったのかしら?」
「……声を掛けただけで充分じゃないかしら?」
「そうだったら、良いのだけど………。」
「借金は? 借金は終わってたよな。」
「うん。終わってた。
僅かだけど貯金してくれてたの。
父は遺言を残してたのよ。
効力がないと思うけどね……。」
「何て書かれてたの?」
「貯金の全額を……私に………って。」
「当然よ。詩織は貯金全額だしたんだから……。
それに、仕送りだってしてたんだから……。
貰ったわよね。」
「ううん。兄と半分にした。」
「なんで? 何にもしなかったのに……。」
「なんとなく……なんとなく、なのよ。
自分でも分かんないのよね。
こういうところが嫌われるところかな?」
「誰が嫌うって言うのよ!」
「良い子………ぶり…っこ……だから……。」
「誰が言ったの? そんなこと!」
「誰にも言われてないけど、そう思うの。」
「そんなことないから! そんなことない!」
「あれからね……私、独立する先輩夫婦に誘われたのよ。
一緒に仕事してくれないか?って……。」
「いつ?」
「いつだったかなぁ……。」
「どうしたんだ?」
「断った。その時に理由を聞かれたのよ。
父が連帯保証人になって借金で廃業したこと。
私は貯金を全て父に渡したこと。
仕送りしていること。
話したのよ。」
「でっ……何を言われたんだ?」
「何を言われたの? 詩織……。」
「何も……残念だ!って言ってくれたわ。」
「……気にすんな! 今まで頑張ってきたことだからな。」
「そうだよ。胸を張っていいことなんだよ。」
「でもね、私……何も無くなったの。何も無いの……。」
泣いてしまって、後は言葉にならなかった。
美里が抱きしめてくれて背中を撫でてくれた。
「あのね……。」
「うん。」
「私を……先輩夫婦に推薦したのが……
ずっと前に付き合ってた彼だった……。」
「……えっ?」
「…………。」
「なんでかな? 余裕で?
自分は結婚して幸せだって伝えたかったのかな?
そんなこと……もう、ずっと前に知ってたのに……!
なんで? なんで……?」
「…その人の気持ちを僕は分かりませんけれども……
それだけ、詩織さんの仕事がいい!っていう証ではありませんか?」
「年下君……。」
「まぁ……いい仕事してる!っていうことだけは確かだと思うぞ。
なぁ、翔太!」
「うん。そうだよ。自信持って、いいと思うよ。」
沈黙が流れた。
「ごめんね。翔太君のお別れ会なのに……。」
「そんなこと気にしないでよ。」
「そうです。気にしないでください。」
「翔太は、おフランスで何をなさいますのかしらぁ?」
「おい! 拓海! 裏声で……キショク悪い……。」
「で! どうすんだ?」
「仕事はリモートで出来るから、いいんだよ。」
「なぁ~る!」
翔太君夫婦には子どもが居ない。
美里夫婦には1人、男の子が居る。
今日は実家に預けての夫婦参加だそうだ。
年下君が「デートだ!」と喜んでいた。
拓海君夫婦には奥様の連れ子が1人。男の子だ。
奥様のお腹の中に拓海君との子が居るそうだ。
お酒を沢山飲んだのは久し振りだった。
アパートまで一緒に居てくれたのは美里夫婦だった。
別れて見送る時、涙が頬を伝わった。
私は、これから一人で「どう生きていこう………。」と佇んでしまった。




