美里の披露宴
披露宴では美里のご両親の近くに私の席があった。
私がスタッフに「実は…。」と話すと、「全て存じております。」と言って席も変えてくれていた。
急遽、席を出やすい扉の傍にしてくれていた。
それが美里のご両親の近くだったのだ。
本来なら遠慮すべきだったと思う。
だか、父の言葉通りにしたかった。
父に「悪かった。」と言わせたくなかったから……。
⦅お母さん……大丈夫よね……信じてるから……。
頑張ってくれてるって信じてるから……。⦆
「詩織ちゃん、お母さんが大変な時に来てくれて本当にありがとう。」
「……おじさん、ごめんなさい。」
「何を………。」
「美里のお祝いの日なのに……。」
「そんなこと言わないで頂戴……。
お母さんが無事だったから出てくれて……
お礼を言わないといけないのは私たちなのよ。」
「おばさん……。」
「ありがとう。詩織ちゃん。」
「おじさん……おばさん……。」
入場した美里の美しさに目を奪われた。
「綺麗よ! 美里、おめでとう。」
小さな声で言った。
⦅美里に聞こえたかな?⦆
宴は進んでいった。
美里と年下君がウエディングケーキに入刀するために席を立った時、スマホが振動した。
父からの電話だった。
胸が………苦しいほど……動悸が激しくなった。
「すみません。父から電話です。」
「詩織ちゃん!」
「このまま帰ります。本当に申し訳ありません。」
「早く帰ってあげて!」
頭を下げて急いで宴会場を出る。
扉を開いてくれたスタッフ。
扉を出る時に私は美里を見た。
だが、人が取り囲んで見えなかった。
⦅美里……ごめんね……。⦆
頭を下げて宴会場を出た。
スタッフから「タクシーを呼びます。」と言ってくれたが、拓海君が待ってくれているので断った。
「そうでございますか……ご友人がお待ちなのですね。
どうか、ご無事に病院へ着かれますように…。
そして、お母様のご回復を心よりお祈りいたしております。」
「ありがとうございます。」
「行ってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
二度と戻ることが無いホテルなのに……「行ってらっしゃいませ。」に「行ってきます。」と答えていた。
電話に出ると「お母さんが急変した。戻って来なさい。気を付けて戻って来るんだよ。美里さんのご両親に申し訳ないと謝罪してから来なさい。」と一息に父は言った。
私は涙を堪えられなかった。
泣きながらホテル近くのお店で待ってくれている拓海君の所へ行った。
「どうした!」
「ごめん。母が……急変したの。」
「お母さんが?」
「だから、今から直ぐに病院へ行くの。
ごめん。落ち着いたら電話する。」
「待って! 送ってく。」
「いいよ。ここからタクシーを拾って。」
「俺、車で来てるから乗ってって!」
「でも……」
「いいから!」
そう話しながら拓海君はコーヒー代を払い、私の手を繋いで引っ張るように店から連れ出した。
「俺の車なら泣いてもいいんだ。
我慢しなくていいから……。」
「………ありがとう……。ごめんね……。」
「気にすんな!」
拓海君の車の中で私は泣きながら話した。
母のこと、父のこと、そして………。




