年下君の恋
そうあれは……年下君プロデュースの素敵なお店だった。
年下君は美里に「いいお店知ってたら教えて。」という言葉に応えて、いいお店を教えてくれるだけじゃなく、予約を取りお勧め料理まで調べてくれていた。
しかも、年下君は必ず店にやって来て、必ず美里に声を掛け同席が男性で無いことを確認していた。
私はそれを年下君プロデュースと呼んでいた。密かに……。
3度目の時に「これは……。」と思い、店で美里に声を掛けた年下君が座った席に行った。
美里には「お手洗いに行って来る。」と声を掛けて……。
「こんばんは。」
「あっ! 美里先輩の……。」
「そ! 友人です。」
「あ! 僕は…。」
「名乗らなくていいわ。」
「はい?」
「私たちが店を出たら、駅の改札口で待ってて。
話があるから………。
必ず来なさいよ! 分かった?」
「はい。」
それから、食事をして……
初めて人を……男性を呼びだしたものだから美味しいはずのお食事が全く美味しくなかった。
美味しいと感じられなかった。
店を出て駅のホームで美里と別れて、美里が電車に乗ったのを確認してから、私は動悸する胸を押さえながら改札口へ向かった。
⦅居た!⦆
「ごめんなさい。こんなことして……。」
「驚きましたよ。」
「私にとって大切な親友なの。美里は……。」
「そうですか。」
年下君は顔をパァ―――っと輝かせた。
⦅キラキラして眩しいぜ! この……爽やかイケメンめ!⦆
「ちょっと貴方のことを知りたいから、お時間頂けます?」
「はい! 是非に!
……あの……あそこの店で、どうですか?」
「いいわ。どこでも。」
「じゃあ、入りましょう。」
駅前のカフェに入った。
「何にしますか?」
「ブレンドで。」
「ブレンド2つ。」
「はい。ブレンド2つですね。」
⦅くっそーっ! なんか何でもイケメンに見える!
イケメンだから当然ってかぁ?⦆
「何でもお話します。聞いてください。」
「あ! 聞きたいこと1。」
「はい。」
「美里の好きな所は何?」
「先ず顔!」
⦅顔って言いやがった!⦆
「顔ぉ?」
「はい。最初は美人だな……と……でも、興味はなかったです。」
「へっ?」
「僕、結構モテるんですよね。」
⦅はいはい。そうでしょうよ。⦆
「そうでしょうね。」
「いつも女の子から声がかかるんですよね。
それで、付き合うんですけど……楽しくないんです。
恋のドキドキも無くて……。」
⦅うん? どっかで聞いた話……!…翔太君だ!
居るんだなぁ……入れ食いって……。⦆
「宴会の時になんか毎回なんですけど、僕の周りは女子ばっかりになって…
他の男性と話したいって思っても、離してくれないんですよね。」
「大変だね。イケメンって……。」
「そうなんですよ! でも…やっかみバッカ!」
「ふぅ~~ん。やっかみは良くないね。」
「でしょ!」
「でっ! 美里のことにどう繋がるのかな?」
「繋がります。
宴会の時にしつこい子が居て、酔ってたからか分からないですけどね。
僕がトイレに行って、出ると、そこに居たんですよね。その子が……。
僕、腹が立って言ってしまったんです。
『お前なんかドブスを相手にするわけないだろ! バカか?』ってね。
その時、大声で泣きだしてしまって……その子が……。
めっちゃ困ったんです。
本音で言うと『困ったな。』と『知るかよ!』だったんですけどね。
立ち去れなかったんですね。
その時に美里先輩が来てくれたんですね。
たまたま、だったみたいなんですけど……。
そして、言ってくれたんです。その子を抱き上げながら……
『ちょっと飲み過ぎたのよね。もう帰ろうか? 送るから……。』って!
そして、僕には『大丈夫だから心配しないでね。任せて!』って!
もう僕、その時の美里さんの顔が忘れられなくなったんです。」
⦅あぁ……それで好きの1が顔なのか………。⦆
「いつもは美人な先輩ってだけだったんです。
でも、その瞬間から変わったんです。
あぁ……美里先輩の顔って美しくって優しいって………。」
「そうだったんだ。」
「好き2ですけど!」
⦅自分から言うのね。⦆
「伺いましょう。」
「めっちゃ鈍感なんですよね。美里先輩!
天然ってのじゃないんです。
異性からの好意の視線に対して鈍感なんです。」
「ハゲどう!」
「そうですよね! だから、僕だけでなく他の人からの熱視線も感じないんです
よ。悲しいんですけど……。ちょっと安心でっ!」
「うんうん。」
「誘っても他の人も一緒に!って誘っちゃうし……。」
「うんうん。」
「予防線貼られては無いんです。」
「うんうん。」
「ただ、分かって無いんですよね。僕の気持ち……。
そして、皆と一緒の方が楽しい!っていう気持ちなんですよね。」
「分かるわぁ~。」
「僕、僕からアプローチかけたこと無いんです。
だから、もう……どうしたらいいのか分かんなくて……。」
「でも、今のやり方じゃ駄目だよ。」
「はい!」
「ちょっとストーカーっぽいから……。」
「ええ―――っ! そんなぁ……。」
「店の紹介だけにしなさい。
毎月1回、美里は私と会うの。
そのお店を前は決まってたんだけどね。
最近、美里が私のために安くて美味しいお店を探すって……
私のために探してくれてんのよ。」
「そうなんですか!」
「もう教えて!って言うかどうか分からないけどね。
毎月第3金曜日に会うから……。」
「第3金曜日……ありがとうございます!」
「好きって言った?」
「言いました……………撃沈でした。」
「うう~~ん。いつ?」
「昨日です。」
「昨日?」
「はい。」
「どんな風に言ったの?」
「えっと……会社の帰りに食事に誘って無理だったんですね。
それで、駅に歩いて行って、駅のホームで……
『僕の気持ち、分かって欲しいんです。』って。」
「それだけ?」
「それと『ずっと見てました。美里先輩の笑顔が好きです。』って…。」
「あ~~~、それ、分かって無いわ。」
「えっ? 何で?」
「貴方ね、分かってるんでしょ。美里が鈍感だってこと!
美里の笑顔が好きですぅ~……笑顔が好きって言っただけじゃないの。」
「あっ!」
「美里自身が好きって言ってないわよ。」
「……そうですよね。僕、なんて馬鹿なんだ。」
「はっきり言いなさいよ。
『僕は美里さんが大好きです。付き合ってください。お願いします!』
そう言えば分かるから……美里でも……。」
「はい! 絶対、そう言います!」
「じゃあ、帰るわ。」
「ありがとうございました!
あっ! ここは僕に払わせてください!」
「嫌よ。コーヒー代くらい払えるもん。」
「はい。そうですよね。失礼しました。」
「……君って面白いね。」
「面白いって言われたことありませんが……。」
「美里にはお似合いかも、ね。」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「じゃあ、帰るわね。」
「はい! ありがとうございました!」
この日から何日後かは分からないが、年下君は美里に私が言った言葉をそのまま言って、想いを伝えたそうだ。




