セカンドラブ
美里には会ってから話そうと思っていた。
美里と会う約束の日は、兄と会った翌日。
会社を出て約束の場所へ電車を乗り継いで行った。
駅の改札口で美里の輝く笑顔を見て、美里は幸せなのだと実感した。
⦅これなら話せる。……ありがとう。年下君。⦆
「美里、待った?」
「いま来たとこ。」
「プッ…やだわ。」
「何よぉ。」
「だって……まるで……恋人同士じゃん。」
「あ………そだね……アハハ……。」
「年下君との待ち合わせみたく?」
「やだぁ~~っ。」
頬を染めた美里が美しかった。
美人な美里がより一層美しかった。
「綺麗になったね。」
「えっ?」
「元から綺麗だった美里が年下君と付き合ってから綺麗になったよ。」
「えぇ~~~っ……恥ずいから、そんなこと言わないでよ。」
「幸せなんだね。」
「うん。」
「良かった。」
「ありがと。 あのね………実は……。
決まったんだ。」
「えっ?…結婚?」
「それは……先だよ。」
「じゃあ、何が? 何が決まったの?」
「両家の顔合わせ…。」
「顔合わせ! それが先だった。
決まったのね。良かったね。おめでとう!」
「ありがとう!」
「いやぁ~~、仕事が早いね。年下君。」
「もう、名前を教えたのに、いつまでも年下君って!」
「いいじゃん。年下なんだからさ。
それに二人だけの時に言ってるだけだし……。」
「もぉ~っ。いいわ。許したげる。」
「許可を頂きました。」
「もぉっ!」
⦅今なら……いいかな?⦆
「あのね……会いたいって言った理由なんだけどね。」
「うん。」
「……翔太君ね……結婚する……んだって……。」
「…翔太君……結婚……そうなんだ。
…上手くいったのね。彼女と………。
元カノなんでしょ?」
「…うん。そうだよ。」
⦅美里……大丈夫……だよね。⦆
「……そっか……翔太君、長年の想いが通じたんだ……。
良かった……。」
「……………良かった……良かったよ。」
「何よぉ~。なんで泣いてるの! もぉ、やだ……。」
「あの日の美里の涙……忘れられなくて……美里が幸せで良かった。」
「詩織……ありがと……。
私ね、翔太君が本当に意味での初恋だったと思うの。
素敵な恋だったと思うの。
大切にしたい初恋なのよ。」
「うん。そだね。」
「彼は、それを分かってくれてるの。
それを含めて私が好きだって言ってくれたの。」
「キャぁ―――っ。なんちゅうイケメン!」
「だから、今の恋が二度目の恋。」
「セカンドラブなんだ。」
「うん。高校の時、大学の時に付き合ったけど、こんな気持ちにならなかった。
翔太君の時のような気持ちに……今の彼に対する気持ちにならなかったのよ。」
「そうだね。違ってたね。見てても分かるくらい……。」
「翔太君に……もし会うことがあったら言って……
おめでとうございます! お幸せに!って……。」
「うん。そういう機会があったら伝えるね。」
「ありがと。……あ! そだ! お祝いしたいな。」
「一緒にする?」
「うん。お願い!」
「そっか……翔太君、やっと想いが叶ったんだ。
………詩織、何かあったら教えてよ。」
「うん? 何か?」
「うん。誰かと付き合ったとか……。」
「あぁ……万が一そんな日が来たらね。」
「……万が一って……。」
「事実なぁり。」
「……まだ吹っ切れて無いの?」
「……ふふふ………お次が無いからね。
私の恋はただ一つだから、それしかないから……。
執着してしまうのかな……。」
「詩織……。」
「漫画やドラマだと簡単にお次が現れて……
しかもイケメン!
でも、現実はそんなに簡単にいかないよ。」
「………詩織。」
「恋は恋によってしか……だもんね。
何も無いから仕方ないね。」
「同じ会社でしょ。会うことあるの?」
「今は無くなったかな。」
「前はあったよね。」
「うん。会社が開いたイベントでね。
そこに家族で来てた。
奥様とお子さん二人を連れて……。」
「……そんなこと…あったの?」
「うん。帰り……暗い夜道を独りで歩いて泣いたなぁ……。」
「詩織……知らなかった。」
「言ってないもん。言っても無駄だしね。
あちらは幸せだよ。それで良かったんだ。」
「詩織…。」
「もう止めよ。こんな話!
幸せな話の方がずっといいわよ。」
「……うん。そだね。」
「翔太君へのお祝い、お金にするね。」
「うん。」
「一人1万円でいいよね。呼ばれる立場じゃないし…。」
「うん。」
「私が包んで渡すね。」
「お願い。」
それからは美里から年下君の話をいっぱい聞いた。
美里の笑顔が輝いて美しく、時々頬を染める様子が愛らしかった。
年下君が惚れるのは当たり前だと思った。
翔太君へのお祝いは、拓海君経由で渡そうと思う。




