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第5話 報告

『所詮は噂だな。アテにならん』


 隊商は中止、ラウは“役立たず”の烙印を押された。

 狼の襲撃を受けてすぐ上空から確かめたが、既にその姿を発見することが出来ず。

 しかし代わりに驚愕の事実を知ると、ラウは大慌てでターリースへと引き返し、荷を解かぬままカトゥスの部屋に飛び込んでいた。


「――熊がいたと?」


 群れなす熊の一団。

 この時期は冬眠に入っていてもおかしくないのに、大小様々な熊が埋め尽くしていたのである。

 カトゥスはその報告に驚きを隠せない。


「はい。日が傾いて陰が落ちていましたが、確かに数キロ先に熊のダイアクラスとその群れがいました。すぐに商人たちに踏み入れぬよう呼びかけるべきです」


 リーダーとなるのは熊のダイアクラス。

 大鷹に気づくと興奮して威嚇を始めたため、ラウはパニックを避けようと商人に告げぬまま引き返させたのだった。


「ラウは正しい判断をした。連中はきっとナワバリ争いの最中で、もし慌てて背を見せていれば、熊の群れが一気に襲いかかってきたかもしれない」

「しかし、犠牲者が何名か……」

「痛みなくして成功は得られぬ。犠牲の天秤だ」


 はい、としおしおと返事をすると、カトゥスの興味は熊ではなく、襲ってきた狼に移っていた。


「襲ってきた狼は恐らく……白狼だろうな」

「ご存じだったんですか」

「討伐に向かえば姿を現さない。あの森のヌシと言うべきかな」


 存在は何十年も前より確認されているのだが、警戒心が強く、人間を嘲笑うかの如く高い知能と統率力を見せつける。

 腰掛ける椅子の背もたれに体重を預け、やれやれと大きく息を吐いた。


「奇襲に失敗したら即座に退く……もしこれが人間であったならば、相当厄介な軍師になっていることだ」

「何かを確かめにきたような、そんな感じがしました」

「剣の達人ともなれば、いちど斬り結ぶだけで相手の力や資質を測れると言う。あの白狼には奇妙な行動も報告されていてね、襲う人間を選んだり、じっと顔を覗き込んでは去る、と言ったことが多々ある」


 確かにそうだったと頷く。

 じっと見つめるあの目――大鷹の騎手がどのような人間であるか、戦うに値する相手かと推し量るような目であった。


「次に白狼と対峙した時はこうはゆかぬだろう。奴は老練の狩人、獲物をじっくりと観察して一気に仕留めにくる。気をつけて欲しい」

「はっ、重々気をつけます」


 反射的に敬礼をしてしまい、あっと顔を赤らめた。

 カトゥスはくくっと笑いを堪えていると、ふとラウの衣服に目を留め、


「服がほつれているが、攻撃を受けたのかい?」


 ラウは「あっ」とそこを右手で押さえた。

 出立前、破けたところだった。

 実はと事情を話すと、カトゥスは納得したように何度も頷いてみせた。


「リュイエールには上質の毛皮や革製品が並んでいる。他で買うより安価なので見てくるといい。費用はこちらが持とう」


 そんな、と謙遜しようとしたが、カトゥスの目は有無を言わさない光を放っていた。

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