9 進撃開始 その2
「武具召喚、銘刀村正」
魔術で造った妖刀を召還し、俺は身体強化魔術を更に一段押し上げる。
狙いは、最も突出した魔物の1体。ハンマーのような物を持ったそれに、真っ直ぐに向かう。
踏み込みで、地面が抉れる。急激に上げた身体能力に振り回されないようにしながら、同時に率いる部隊に指示を飛ばす。
「各自、最善を尽くして。指示は以上で終わり」
とりあえず、スパルタ方式でいこう。気のせいか、動揺するような気配がした気がするけど、ここは千尋の谷に突き落とすつもりで。
甘やかすだけだと、育たないからね。
だからあえて、部隊の魔術師の子達を無視するような形で、一気に魔物に跳び込む。
跳び込むと同時に、振り上げられるハンマー。
ぞわりっ、と悪寒が走る。
受け止めることも受け流す事も止め、瞬時に横に跳ぶ。
ほぼ同時に、俺が居た場所にハンマーがぶち込まれ、爆発した。
地面が吹き飛び、土煙が上がる。
人間の頭ぐらいの深さで穴が出来、その周囲にひびが入っている。
(普通の魔術防御でも、直撃しなきゃ死なないか)
威力を判断し、距離を取ることを止める。
この程度なら、まともに受けてもどうにでもなるし、そもそも避けられる。
ハンマーを大降りに振り回すだけの動きは読み易い。
ふっと力を抜くように重心を落とし、そのまま前に踏み込む。
気付いた魔物は、横なぎにハンマーを振るうが、そのギリギリで踏み込みを止める。
ぶんっ! と唸りを立てて通り過ぎるハンマー。
その瞬間、一歩踏み込み、魔物のハンマーを持つ手を斬り裂く。
「ギイアアアアアアッ!」
雄たけびをあげ、振り抜いたハンマーを戻す魔物。
再び、俺を攻撃しようと振り上げるも、すでに俺は大きく後ろに跳び退いている。
そんな俺を追いかけようと、魔物が体を前に乗り出した瞬間、
「光よ! 矢となり撃ち抜け!」
無数の光の塊が、魔物に突き刺さる。
コニー達、魔術師の攻撃だ。
距離を取った状態から、詠唱で強化した攻撃魔術を放ったのだ。
俺に注意を取られていた魔物は、まともに食らう。
一本一本が、50m先の煉瓦の塊を撃ち砕く威力のそれが10数本。
人間なら、即死どころかバラバラになりそうな程の攻撃を食らいながら、平然と魔物は動く。
「ガアアアアアッ!」
怒りの雄たけびをあげ、手にしたハンマーを魔術師たちに向け投げつけた。
(マズいか?)
一瞬、止めるために動こうかと思うも、それよりも魔術師たちの動きの方が速かった。
「光鱗よ! 我らを守る連なりと化せ!」
あらかじめ役割分担されていた、防御組が魔術を使う。
詠唱と共に、魔術師たちの前方を覆うような形で、鱗状の光の塊が数え切れないほど発生する。
力場固定型の防御魔術。
それに魔物のハンマーは阻まれる。勢い良く命中するも、打ち破れない。
けれど次の瞬間、ハンマー自体が爆発した。
「ヒイキャキャキャキャッ!」
爆発と共に爆炎が撒き散らされ、魔術師たちの姿が、それに隠され見えない。
殺したとでも思ったのか、魔物は手を叩いて喜んだ。
「どこを見てる」
喜ぶ魔物を止めるように、俺は踏み込み斬りつける。
不愉快に叩く手を切り飛ばし、動きを遅くするために足も斬りつけた。
「喜ぶ暇があったら、戦え。それどころじゃないだろ、お前は」
言葉が通じているかは分からないが、俺は魔物を挑発する。
「お前は、あの子達が強くなる為の餌だ。もっと活きを良くしろ。役立たず」
「グギイイイッ!」
呪うような声を上げ、魔物は自分が殺したと思い込んだ魔術師たちに顔を向ける。
そこには、2重に張り巡らせた防御結界で身を守った魔術師たちが。
1つで足らなければ2重3重で。それを実行するだけの人数は揃っているのだ。
(うん。連携が巧くいってる。この調子で、鍛えて貰おう)
自分達の考えで、周りと協力して戦ってくれる魔術師の子達に嬉しくなる。
魔物みたいに、柔軟な行動を取る相手には、同じく状況に即した柔軟な反応を取れる必要が出てくる。
いちいち指示を出していたり、事前にマニュアルを渡して行動して貰う訳にはいかない。
こればっかりは経験がものを言うので、この戦いをしっかり身に着けて貰わないと。
だからこそ、俺は魔物相手のサポート役に徹する。
時折、踏み込みながら浅く斬りつけ、動きを鈍くしながら、魔術師の子達が遠距離攻撃する余裕を稼ぐ。
魔物も、反撃するように魔術師の子達に突っ込もうとするが、その度に距離を取り、常に有利な距離で戦っていく。
(誰かが接近戦で押さえている間に、距離を取って戦うのは出来てるな。問題は、誰が一番危険な接近戦をするかだけど。今のところ、自主的に接近戦をしようって子は、俺の部隊には居ないから、その辺りが課題かな?)
戦いながら、先々の戦闘訓練メニューを考えている内に、俺達が戦っている魔物は大分弱っている。
多少の余裕が出来た俺は、他の部隊の状況も積極的に見ていく。
すると、それぞれ勇敢に戦っている姿が目に留まった。




