15 戦いは、終ってからの方が気苦労が多い その1 屋敷に向かおう
「ごめん、有希。こんな夜遅くに」
「気にしなくても良いっすよ。事態が事態っすから」
魔物達を撃退した俺たちは、そのあと全力で、有希の自宅でもあるお店に訪れていた。
深夜なので気が引けたが、有希は事情を話すと迅速に動いてくれた。
「ララとロッカもごめんな。眠いだろう」
有希が引き取った元奴隷の子供達、綺麗な真紅の髪をしたララと、艶のある黒髪のロッカの2人は、夜中に起こされたというのに落ち着いた声で返してくれる。
「大丈夫です。もう子供じゃないですから」
「うん。俺も、平気だよ」
元の世界なら、ようやく中学生になったばかりの2人は、今までの境遇もあるのか大人びている。
でもロッカが背負っているリトは、まだまだ子供だ。背負われ眠そうに目を擦りながら、
「ふぁたしも……らいじょうぶ……」
背伸びするように、返すのが精いっぱいだった。
寝ていたリト達まで起こされているのは、万が一のことを考えてのことだ。
魔物を倒した後にここに来るまで、誰かに付けられている気配は無かったけれど、用心は重ねるに越したことはない。
子供達だけを残しておく訳にはいかないので、一緒に屋敷まで連れて行く事にしたんだ。
「よし。準備が整ったっすよ」
有希はそう言うと、店の壁の一つに、神与能力で扉を創り出す。
「じゃ、行こうか」
時間が惜しいので、扉を開け中に入ろうとすると、
「待って下さい。その扉は何なんですか? 魔術、では無いですよね? 神の奇跡に見えますが、神与能力ですか?」
有希の店に来てから口を挟んで来なかったカルナが、不安を押し殺して問い掛けてくる。
「ここでミリィを治してくれるんじゃないんですか?」
いかん、考えが足らなかった。
こっちも周囲を警戒しながらここまで移動してたり、これからどう動くべきかを悩んでいたせいで、カルナへのフォローが足りてなかった。
だから、カルナを安心させてあげるためにも、正直に全部話す。
「ごめん。こっちも余裕が無くて説明が出来てなかった。今の内に、全部話すから」
まっすぐに目を合わせ言う俺に、カルナは我に返るように息を飲むと、
「いえ、こちらこそすみません。勝手なことを言って……」
自分を責めるように返してくる。
だから、安心させるように柔らかな声で俺は言った。
「大丈夫。ミリィは助かるから。確認するためにも魔物の攻撃を受けてみたけど、この程度の魔術毒なら、まだ容体が急変するようなことは無いよ」
「陽色ど……陽色も、毒を受けているのですか?」
「うん。だから、ちょっとまだ痺れてるけどね。でもそのお蔭で、ミリィの状態も予測できてるから、安心して」
「……はい」
泣きそうになるのをこらえるようなカルナに、俺は続けて言った。
「今から彼の、有希の神与能力を使って、俺の屋敷まで移動する。空間接続系の能力だから、すぐに着くよ」
これに、カルナは表情を強張らせる。
「それは……そんな物を、私に見せても構わないのですか?」
「良いよ。友達だもん。でも、出来れば他の人には言わないでね。親しい皆との、秘密だから」
「……はい。誓って、必ず」
思いつめたように返すカルナ。ちょっと後ろめたくなる。
有希の能力は、ある意味切り札になり得る能力なので隠しておきたいものではあるけども、バレたらバレたで、どうにでも出来るように皆で話し合いは終わっている。
なので、命を懸けるような勢いで誓いを立てるカルナを見てると、罪悪感が。なのではあるが、
「これだけの秘密を教えて頂いたのです。その信頼を裏切るような真似は、魔術神マゲイアの名に誓って、違えません」
更に誓約を口にする。
うぅ、罪悪感で心が痛いよぅ……。
「胃が痛そうな表情してんな、陽色」
「分かってんなら突っ込むの止めてくれ和真」
へらへら笑いながらからかう和真に、カルナはいぶかしげな表情になってる。そんなカルナに、俺は続けて秘密を打ち明ける。
「気にしなくて良いよ、カルナ。これぐらいのことは、そう大した事は無いから」
「……そう、なのですか? ですが、空間干渉の神与能力など、神の力をそのまま使うような物です。そのような大それた物を、私がもらす訳にはいきません」
「うん……それは、そうなんだけど、これぐらいなら、大したことないよ。だって、これから神の力じゃなくて、本人に会うわけだし」
「……は?」
意味が分からない、という表情をするカルナに、
「これから屋敷に行ったら、俺の女神のリリスにミリィを癒して貰うから。こっちは、特に秘密にしてね」
「…………は?」
完全にカルナは言葉に詰まると、
「それは……何かの比喩なのですか? 一体、どういう……」
混乱しているのか、途切れ途切れに問い掛けてくるカルナに、俺は落ち着かせるようにゆっくりと返す。
「比喩じゃなくて、そのままの意味だよ。
俺がこの世界に召喚されて、リリスの勇者として契約した時、その時に神から与えられる恩恵のほとんどを費やして、リリスがこの世界に実体化できるようにしたんだ。
それで、今は俺の彼女として一緒に暮らしてるから。屋敷に戻りさえすれば、ミリィを癒して貰えるように頼めるよ。
だから安心して、カルナ」
「……………………は?」
気のせいか、完全に固まるカルナ。
「ひいろっち。最初っから全開で教え過ぎっすよ。混乱しちゃってるっすよ」
「……えっと……そうかな?」
「そうっすよ。こっちの世界の人達にしたら、リリスっちは信仰の対象っすよ。
それが隙あらば、ひいろっちといちゃいちゃしたり惚気てきたりエロエロしてるとか、言われても混乱するだけっすよ」
「そうかなぁ?」
そう言われても実感がわかない。
のではあるけれど、カルナの表情を見てると、もっと自重しておいた方が良かった気もする。
なので、話を切り替える。
「それよりも、もう準備は出来たんだろ、有希。悪いけど扉を開けてくれる?」
「分かったっすよ」
有希は、すぐに応えてくれる。
そうして独りでに開いた扉を前にして、
「それじゃ、行こう」
俺たちは、屋敷へと向かった。




